ダンジョン『タマ・ガブリエルの洞窟』
ポケモンしてて遅れました!
後悔はしてません!!
かなりスロウペースですが、末永く見守っていただけるとうれしいです!
「さ、ついたよ。ここがダンジョンだ」
お……いや、僕が疑問を浮かべる前にダンジョンへとたどり着いた。
屋敷の地下にあるちょっと鍵付きの扉、その先には洞窟があってすぐに大きな石の扉があった。
扉の左右には松明が置かれており、まさにダンジョンといった雰囲気だ。
「ここがダンジョンか……ごくり」
唾を飲み込む。
昔やったRPGのダンジョンよりもリアルで……ほんのちょっとだけ怖い。
「緊張しなくても大丈夫だよ。さ、開けてごらん」
「ちょっ……武器なんか持ってないんだが……」
「じれったいな! もう!」
武器は装備しないと意味がない……それどころか持ってすらいないのにガブリエルに押されるがままダンジョンへと入ってしまった。
広くて明るい。
気の利いたBGMもなく、風が吹き込む音と何かが動く気配しかしない。
まさにリアルなダンジョンって感じだ。
「これがダンジョン?」
呆気に取られているといつの間にかガブリエルが宙に浮かんで背中の翼を広げていた。
『ようこそ、ボクのダンジョンへ。歓迎するよ』
「ボクのダンジョン?」
「うん、ここはタマちゃん様からボクが管理を任されている初心者用ダンジョンの一つ『タマ・ガブリエルの洞窟』だよ」
『タマ・ガブリエルの洞窟』
初心者用というからには僕でもとっつきやすいダンジョンだろう。
いや、それよりも気になるのが、ガブリエルが管理しているという点だ。
「天使ってのはダンジョンを管理しているのか?」
「んーと、キミの世界でも天使って神様の使者って意味だよね」
「ああ、そうだったはずだけど」
「それと同じでダンジョンを経営しているのはタマちゃん様でボクはただの管理者」
「つまり、神様……タマちゃん様がダンジョンを経営してるってことか?」
「うん。まだ言ってなかったと思うけど『タックスヘルン』ではレベルが神様とか生物の価値を決めているんだ」
生物の価値?
レベルが高ければ偉いってことか?
そういえば、タマちゃん様はレベル1載って言ってたな。
たしか、億→兆→京→垓ってな感じで単位が増えていく感じだったけど載ってどれくらいなんだろう。
「だから神様も人もレベル上げたい。でも、レベルを上げるためには経験値が必要。そこで神様たちはダンジョンで経験値を稼ぐすることにしたんだよ」
「ダンジョンで経験値を稼ぐ?」
「経験値ってのは生物が何らかの行動をしたときに発生するエネルギーみたいなもので、例えば木の棒で素振りをしたとしても獲得することができるんだ」
「素振りをするだけで経験値が入るのか? ってことはレベル上げるのって簡単なのか」
「そんなとんでもない。そんなことで手に入る経験値なんて雀の涙以下だよ。それ以上に稼ぎやすいのは経験値を持っている生物を倒して奪い取ることなんだよ」
「奪い取る……なるほど、モンスターを倒すとモンスターが持っている経験値が手に入るってことか」
「そうだよ。神様は効率よく経験値を得るためにモンスターが発生するところにダンジョンを作って経験値を稼ぐんだ」
「いや、だったらなんでダンジョンを公開してるんだ。冒険者とかいる『タックスヘルン』にはたくさんのダンジョンが存在している。
ダンジョンには手強いモンスターがいて、その道のプロでも手こずるような即死トラップや数日も迷い続けてしまうような巨大な迷路、賢者でも悩む知恵の扉などがあり、とても危険である。
人族を始めとしたたくさんの夢見る者たちが挑み、そして、夢半ばに死んでいく。
そうしたダンジョンに挑戦する者たちを種族関係なく”冒険者”と呼び、『タックスヘルン』では子供達の憧れ的な存在であるらしい。
アリスの見送りを終えた後、ガブリエルよりダンジョンについて軽く教わり、さっそくダンジョンへと向かうことになった。
どうやら、アリスの言っていた夜の支度とはダンジョンに行く準備をしろということらしい。
ガブリエルからは詳しく教えてもらえていないが、アリスは毎晩、セバスチャンとお付きのメイドと一緒に屋敷の地下にあるダンジョンへ潜っているようだ。
すなわち、アリスは貴族のお嬢様にして、危険なダンジョンへと挑む冒険者でもあるのだ。
「で、なんでこの屋敷の地下にダンジョンなんてあるんだよ」
「セバス君。ボクと二人っきりだからってあまり素を出しちゃダメだよ。障子にメアリー、壁にもメアリーっていうし」
「いや、それを言うなら障子に目あり、壁に耳ありだろ……意味は同じだけど」
「どっちでもいいさ。そんなこと。それよりも地下にダンジョンがある理由は簡単だよ……わざわざダンジョンの上にこの屋敷を建てたんだ」
「は?」
ダンジョンの上に屋敷を建てた?
どんな酔狂もんだよ。貴族でいながら冒険者でもやってたのか?
「キミの考えてるとおり、昔いた公爵フローゲンハイト家のとある当主は冒険者でね。いつも冒険がしたいからダンジョンの上の土地を購入して独占しちゃったんだ……まったく迷惑きわまりないよね」
「ん? 迷惑?」し、独占しちまえば大量に手に入るんじゃないか?」
「モンスターで手に入る経験値も大したことないよ。それに経験値を奪うには自分の手で倒す必要があるんだ」
「え? じゃあ、なんでダンジョンを……そうか、冒険者か」
「ふふっ……察しがいいみたいで助かるよ。冒険者がモンスターを倒して経験値を貯めて、ボクらダンジョン経営者が設置したトラップとかで死ぬ。そうすれば冒険者が持っている経験値はボクらのものさ」
「あ、あくどい! 入ってきた冒険者を……」
怖っ。
つまり、ガブリエルたちは冒険者を殺して経験値を得ているわけだ。
「といってもボクらは基本的にトラップとか以外は何もしないよ。ボクらが直接なにかやるのもめんどくさいし、冒険者の生存率が低かったりお宝が少なかったりすると冒険者が来なくなるからね。これは持ちつ持たれつってやつさ」
「な、なるほど……」
どうやら皆殺しにしたり、冒険者を殺しまくったりはしないようだ。
「もっとも、めちゃくちゃ凄いお宝をおいて、わざと皆殺しにするようなダンジョンもあるけどね」
「でも、ガブリエルたちはやらないんだよな」
「まぁね、そういった行為は禁止されてるし、それに……」
「それに?」
「あ、いや。なんでもないよ。とにかく、ボクらは冒険者が来ないと商売が成り立たないから不用意に殺したりしないよ」
なんだか、腑に落ちないがいいか。
ガブリエルが嘘を言っている風には見えない。
何かを隠しているフシはあるけど、虐殺とか非人道的なことはやってなさそうだ。
僕が納得した姿をみてガブリエルがニヤリと笑った気がした。たぶん気のせい……だよな?
「じゃ、セバス君はまず、ダンジョンに慣れてもらわないとね。ボクが管理者権限で超イージーモードのフロアを作るからそこで訓練しよう!」
ガブリエルに言われるがまま、ダンジョンの奥へと進む。
超イージーモードとか言ってるから危険はないと思うけど、本当に大丈夫だよね?