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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アニバーサリーパニック

作者: 新京極鈴蘭

文絵(ふみえ)…」

「何したの沙耶(さや)


夕暮れの放課後、私は中学時代からの友人であり、現在恋人の文絵に元気のない声で話しかける。

声に元気がないのは、最近文絵が構ってくれないっていう只の私のわがまま。


「今日も一緒に帰れないの?」

「ごめんね、用事があってさー!」


文絵本人は、私のそんなわがままには気づいていないようだ。嬉しいような悲しいような、寂しいような…。


「そっか…それなら仕方ないね。私先に帰るね」

「ごめんよー」


夕日がすっかり沈んだ頃、私は一人で帰路につく。

寂しい。


「ただいまー」

「おかえり、お姉ちゃん!」


妹の沙梨(さり)が笑顔で出迎えてくれた。

まだ小学5年生の妹の笑顔で、私は少しだけ心が軽くなった。


「あ、お姉ちゃん!お母さんがね、先にお風呂入っててって言ってたよ」

「わかった、ありがと」


妹には心配かけまいと微笑み、2階の部屋に上がった。



「文絵…」


お風呂の中で、文絵のことを考える。

クラスのムードメーカーで友達も多い彼女だから、私なんかとは全然違って、約束事や付き合いも多い。


それでも…


「恋人は…私なんだからもう少し構ってよ…」


完全にわがまま。重い女。でも二週間も一人にされると不安ばかりが募っていく。


「そういや、もうすぐ5ヶ月記念日か…」


毎回記念日をやっているわけではないが、付き合った当初文絵が5ヶ月には絶対記念日やる!と意気込んでいた。


「なんだかなー…こんな気持ちで迎えるのか…」


風呂場の天井を見つめ、小さく呟いた。



「おはよー!」


次の日の朝、文絵は教室に入りみんなに聞こえるような大声で挨拶する。


「文絵ちゃんおはよー!」

「昨日のテレビ見た?」

「見た見た!めっちゃ面白かったよね!」


私が「おはよう」と声をかける前にすぐに友達に囲まれ話の中心になる文絵。


「でさー、あたしの彼氏最近そっけなくてさー」

「えー、どんなの?」

「記念日近いのに口聞いてくれなかったり当日プレゼント持ってこなかったり」

「まじー?別れろよそれ!」

「えーでも好きだしー…」

「惚気たいだけかよ!」


女子特有の恋バナが始まり、文絵含めみんなが笑っている。

文絵は、恋人のこと聞かれたら何て答えるんだろ…

興味はあるけど、怖かった。


「文絵ちゃんは?彼氏出来た?」

「フミだからとっくにいるっしょ」


文絵の番になると私は本を読みながら会話を盗み聞きする。


「私は…」


言いながら私をちらっと見る。目が合った。

私はすぐさま目をそらす。文絵が私を見たままウィンクしたのを横目で確認した。


「いるよ、『恋人』」

「やっぱり!文絵ちゃん可愛いもん」

「いないほうがおかしいよねー」


否定せず、尚且つ『彼氏』と言わず『恋人』と言ってくれた文絵に少しほっとした。

良かった…ちゃんと思っててくれてるんだ…



「沙耶ー!ごめん!挨拶もしないで」

「全然いいよ!文絵の大事な友達だもん!」

「何それー!やっぱ沙耶面白い」


文絵がそっと私の頭を撫でる。その行為に不意にドキッとする。


「明日から、冬休みだね」

「記念日…」


文絵の言葉にドキドキが大きくなっていく。


「今まで…一緒に帰ってやれなくてごめんね」


耳元で囁かれる。くすぐったい。でも心地いい。


「明日、駅前に来て」


文絵はそう言って微笑んだ。



明日の記念日デートにそなえ、私はクローゼットを開けた。


「どれがいいかな…やっぱりスカートがいいよね」


お気に入りの黒いミドル丈のフレアスカートに、白いタートルネック、キャメルのコートを取り出す。

元々顔立ちは地味だから、シンプルな服装のほうがかえって良いと判断した。


「楽しみだな…明日」


今まで一緒に帰れなかった分、色々おしゃべりしようと思った。



「お待たせ、文絵!」

「10分遅刻ー!」

「ごめん、昨日寝れなくて…」

「罰としてそこのアイス奢ってね☆」

「そんなー!」


久しぶりに二人並んで歩く。背が低くて顔も可愛い文絵と歩くのはやっぱりちょっと緊張する。それでも、この可愛い女の子は私の彼女なんだって思うと自信が湧いてくる。


「まずはー…ここ!有名パスタ屋で昼食!」

「うわぁ!…すごい…初めて来た…」

「この時間に来ると混まないんだよー」


文絵は微笑むと私の背中を軽く押して店内に入る。


「わぁ…おいしい!」

「でしょでしょー?」


トマトソースパスタを頬張りながら自慢気に笑う文絵。クラスのムードメーカーだけあって、表情がコロコロ変わって面白い。


「ま、ほんとにすごいのは今日のディナーだからね!これはまだ序章だよ!」



文絵とのデートはすごく楽しかった。

私が絵画や彫刻が好きだということを話していたため、美術館に連れてってくれたり、おしゃれな雑貨屋に行ったり、ウィンドウショッピングをしたり、今まで話せなかった分、たくさんおしゃべりもした。


「わあ…すっかり夜だね」

「時間が経つのって早いね」


文絵が星空を見上げて小さく息を吐く。


「あ、ディナー!こっちこっち!」


文絵に手招きされ、私はついていく。


「えっ!?うそ!?」


連れていかれたのは、なんとホテルのフランス料理店。


「ちょっと!ここすごく高いんじゃ…」

「大丈夫。二人分くらい奢れる」


そういえば、文絵の家はお父さんが3つの会社の社長で、お母さんが大きい病院の院長ですごく裕福だったな…と思い出す。



フランス料理店での文絵の動きはスマートで、こういう高級料理店の振る舞いに慣れてるんだな、と感じた。

逆に私はどうしたらいいかわからずギクシャクした動きになっている。


「おいしい…ありがと、文絵」

「そんな、大したことないって」


ニコニコと笑う文絵。


「あ、そうそう!はいこれ、記念日兼クリスマスプレゼント!」


文絵がリボンがついた小さな箱を取り出した。

開けてみるとパールのイヤリングが入っていた。


「沙耶に、似合うと思ってさ」

「あ…ありがと、文絵!」


私は思いがけないプレゼントに感激し、箱をそっと抱きしめた。



「美味しかったね」

「ほんと!ここのフランス料理は本格的だからね!…そうそう、ここが今日のデートの終着点!」


そこは小高い丘だった。何もないように見えたが…


「あ、もうすぐだよ!…3、2、1!」

「わあああ!!」


そこに広がるのはたくさんのイルミネーションだった。

きらきらと様々な色が私と文絵を包む。


「すごい!すごいよ、文絵!」

「…実はさ…一緒に帰れなかったの、友達と遊ぶって口実でデートの下見してたんだ」

「…え?」

「沙耶に…記念日は楽しんでもらいたくて…喜んでもらいたくて…」


照れたようにうつむく文絵。


「沙耶に、寂しい思いさせたよね、ごめんね…」

「そんなことない…」

「え…?」

「すごく嬉しい…!私なんかのために、こんな…こんな楽しいデート…」


私は刹那、文絵を抱きしめた。


「ありがとう!文絵…大好き…!ほんとに大好き!」

「ちょっ…沙耶!…苦しいよー!」


昨日までの寂しさが嘘のように飛んだ。

もう文絵のことしか考えられない。

大好き。


「お返しだ!」


唇に、柔らかいものが触れた。


「?!」


それがキスだと気づくのに少し時間がかかった。


「あっはは!沙耶真っ赤になってるー!」

「う、うるさい!」


私もお返しでほっぺにキスする。


「ほっぺかー」

「ちょっと口にするのは恥ずかしかった…」

「意気地無しだなー」

「なによもう!」


星空とイルミネーションが光り輝く空間で、私は文絵と最高の笑顔を見せ合っていた。









お久しぶりです。新京極鈴蘭です。

文絵ちゃんと沙耶ちゃんのアフターストーリーを書きました。

地味系×チャラい系は百合でもキュンキュンしちゃいます!

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