消えた少年の矛盾思考
夏ということで、昔友達からお願いされていた自動ドアのお話を私なりにアレンジして。ホラー風味にしてみました。
「小説家の集い」より、「夏のキーワード」小説。キーワードは「墓」「夜」「ロッカー」です。お楽しみください。
(キーって言うほどキーじゃ無いこの作品)
自動で動く存在が嫌いだった。
勝手に何かをしてくれる。という点がどうも癪に障る。人間は自分が楽になろうとしすぎている。やるのは自分、動くのも自分、すべて自分だから言い訳をしないで正々堂々と生きていけるんだ。
自我を持たない人間も同様だ、嫌いで仕方ない。
そのイライラを自我もなく、ただ自動に動く哀れな物体にぶつける、壊してバラバラにする。一人で動いて見せろとぼくは笑った。
でも、こんな派手に壊したらバレた時に怒られてしまう。それが怖くなった。
ぼくは、部屋のある場所に姿を隠した。
「見つかりませんように、見つかりませんように」
ある朝、ぼくは珍しく五時に起きるという快挙を成し遂げた。
しかも今日は学校が休みの土曜日。
昨日、あれだけ騒ぎ散らしていた親もぐっすりと眠っている。本当に申し訳ないと思っている、あれだけ騒がしい音を出せば……。
見たい番組もないし、珍しく外に出ようとぼくは思った。
正面玄関のドアを開き、外に出ると久しぶりに早朝の景色を見ることが出来た、今は夏だが、この時間帯は涼しさをほんの少し感じさせてくれる。
セミの鳴き声も悪くない、昼間だとうるさいというイメージがリアルなものになってくるが、早朝となると少し受ける感覚も変わってくる。趣があると言うのだろうか。
そのまま外に突っ立っているのも悪くないと思ったけれど、それでは早起きしたメリットが無さすぎる。なにかしよう。
とりあえずコンビニに向かった。特に何かが欲しいというわけでもなかったが、この時間帯で外に出て何かするとなれば、体力のないぼくが苦手とするランニングか、コンビニに行くかのどちらかだと思う。
前者は嫌いと銘打った、よって答えは一つしかない。コンビニだ。
ぼくが住んでいるところは「田舎」と呼ぶに相応しい場所だったが、コンビニにたどり着くまでに二、三時間も使うような場所ではない。信号を一つ渡って、右に曲がればすぐに辿り着ける。
足が軽い、気分も良い。弾むように体が進む。
これも早起きの効果なのだろうか?
いつも測ってないかいないけど、いつもより段違いに早い気がした。
そしていつも通りの自動ドアとの面会だ。
「あぁ、憎らしい」
いつも見るたびに思う、表現することの出来ない謎の怒りがぼくの脳を駆け巡る。
使いたくもないこの自動ドアという存在。ぼくは今からここを抜けるのか。
自動ドアの前に立つ、しかし、何故か自動ドアは開かなかった。
「おかしいな、コンビニって二十四時間営業じゃなかったっけ……」
中に人がいるかを確認する、ちゃんとレジに人はいた、と、すると。
「なるほど、ついにイカれたか」
ぼくは少しだけ気分が良くなった。今日は何もせずに帰ることになりそうだけど、今日はいいことありそうだ。
鼻歌なんか歌いながら家に帰ることにした。笑いがこみ上げる、ニヤケが止まらない。
ぼくが自分の家に向かって歩き出そうとしたその時、一台の車がコンビニの駐車場に止まった。
そこからはいかにもガラの悪そうなおじさんが出てきた。
「まずい」
ぼくはそう思った。
人を見かけで判断するなとぼくは親に教えられたが、あのおじさんの見た感じのイメージだとどうしても拳銃とか持っていてもおかしくはない面構えだ。
今自動ドアは開かない。もしその事があのおじさんにバレて、気分を損ねてしまったらと思うと……。
「人が死ぬ」
ぼくは走ってその男とコンビニから距離をとった。そして警察をすぐ呼び出せるようにポケットにあるはずのケータイを……。
「忘れた」
あぁ、なんという致命的なミス。これではここにいる理由はない、逃げてしまおう、ぼくは何も見なかった。
命の危険を晒してまで、あの自動ドア付きのコンビニを守りたいとは思わない。
一応結果だけ見て、その場をあとにすることにした。
だが、何の変哲もなく、自動ドアはいつもの様に、腹立たしいぐらい綺麗に開いた。
「え?」
当たり前すぎる光景に、ぼくは目を疑ってしまった。
何故? さっきまで開かなかったじゃないか。
つまり何? 遂に自動ドアにすら嫌われたというのか?
それならそれで嬉しいんだけど……。
慌てながらぼくは自動ドアに向かって走り出す。もしかしたら、単なる不調という可能性もあったから。
しかし、開かない。
本来ありえないこの状況、それでもぼくは一つの確信を得た。
恨み続けてうん十年。ついにぼくは、自動ドアから見放されたのだ。
なんとも言えぬ気持ちを胸に、僕は家に戻る。
だが、心は実は高揚している。
なんとも言えないのは、いきなりこんな不思議なことが起こったからだ。自動ドアに嫌われるって、そんなことあるのか……?
とりあえず家に着いた。腕時計で時間を確認するとまだ五時半。この時間帯にぼくの家族は起きてない。
二度寝出来るなと思いながら、先ほどぼくが出た玄関の扉に手をかける。
その時、またしても奇妙なことが起こった。
「あれ……? さっき、ここから出てきたよな、ぼく」
僕は家の鍵を開けて出てきて、鍵は閉めずにコンビニに向かった。
家族はこの時間帯に起きていない。
それじゃあ何故家の鍵が閉まっているのか?
「泥棒?」
一瞬それを疑ったけど、朝からそんなことするなんて思えなかった。
何故だろう、これまた奇妙だ。
いや、本当なら奇妙な問題なんかじゃないはず。いつものぼくなら「親が朝早く起きただけ」という至って普通の結論に達するはず。
ここに来る前の自動ドアが開かないという事件のせいで、こんないつもと違うことが起きるだけで奇妙と思うようになってしまっている。
心臓が早くなった。じんわりとした暑さの中に、ぼくは確かな寒気を覚えた。
「取り敢えず、家に入る方法を……」
奇妙な話は後回しにしよう、今は家に入らなければならない。
「そう言えば、自転車の鍵束に……」
自転車の鍵束に、自分の家の鍵をつけていたのを思い出した。母からは「やめて欲しい」と言われていたが、反発した甲斐があったというものだ。でも外に出しっぱの自転車に家の鍵をつけるというのは危ない行為なので真似しない方がいい。
「よし、これで……空いた」
幸運だ、こういう時に限って運は訪れる。
ガチャりと音を立てて鍵は解除され、ぼくは一息ついた。
家の中に入る、リビングには誰もいなかった。
少し怖くなった。親の寝室に向かう、二人共布団の上にいた。ちゃんと眠っていた。
更に怖くなった。ぼくの家族は父と母とぼくの三人だけ。外にはぼく、そしてここに二人がいるのに、どうやって内側から鍵をかけたのか?
心臓の音が強く聞こえる、ドクンドクンと体すら揺らすその振動は、今の不安定なぼくの呼吸を乱す。
ぼくは怖くなって、一旦家から出ることを決めた、ここにはぼくと両親以外に誰かいる。
そんな所にぼくがいたら、殺されてしまうことだってあるかもしれない。捕まってしまうかもしれない。
携帯電話を自分の部屋から取って、玄関へ向かう。
手も震えていた、その手を無理やりドアノブにかける。
「……え?」
かつて体験したことのないような恐怖がぼくを襲った。
ぼくは、ぼくは鍵を開けただけだ、一度も閉めてなんかいない。
なのに、どうしてドアが動かない? 開けることが出来ないんだ?
この数分で、この家にいる侵入者が鍵をかけたというのか?
……なら色々とおかしいだろ。
侵入者なら、鍵を持っているのなら、なぜ鍵をかける必要がある。
侵入者が目的を果たせたら、次にすることはなんだ? 逃走しかないだろう。なのに、なぜ鍵を閉めている。
外からかけるにしても時間の無駄であり、内側からかけたりなんかしても意味が無い。
つまり、侵入者はいない、ということになる。
じゃあ、本当になぜ鍵がまた閉まっている?
恐怖が体を包み込む。震える手足でぼくは自分の部屋に転がり込んだ。
ベッドに入って目を瞑る、どうか悪い夢でありますようにと、切なる願いを込めながら──────。
次にぼくが目を覚ましたのは二時間後、午前七時半。
まだ、誰も起きていない。
当たり前だ、土曜で仕事がないんだったら親は眠っていていい。
でもお腹は空いている。仕方ないから自分で作ろうと思って、冷蔵庫を開けた。
「……卵かけご飯でいいかな」
最初に目に入ったのが玉子パックだったという理由での調理が始まる。
ご飯は炊いてあった。自分専用の茶碗によそう。
別の皿に卵を一つ割る。すると面白いことに黄身が二つ出てきた。
「……運がいい、っていう訳では無いんだよなぁ」
さっきの奇妙な出来事があった今日にこういうラッキーな出来事があると、喜んでいいのかわからない。
それとも何か、さっきまでの奇妙な出来事とこの黄身二つで釣り合わせてやるっていう神のいたずらか?
性格悪いなと思いながら、ご飯と生卵をテーブルにまで持っていく。その最中に醤油を台所の方に置いてきてしまったことに気がついた。
テーブルにご飯と生卵を置いて、醤油を置いていった台所まで足を運ぶ。残りは少なかったでもそこまで醤油をかけてしょっぱくするわけでもないし、この量でも充分足りる。
またしても目を離したのはたったの数秒。
「……結局、ラッキーですらないのか」
ご飯と生卵がテーブルから消えていた。
二度あることは三度ある、今のぼくにとってこの出来事は三度目の怪奇。
もう、そこまで驚いてはいなかった。
醤油をテーブルに置いて、炊飯ジャーの中身を確認する。
白米の量が戻っていた。
次に冷蔵庫の中の卵パックに入っている卵の数を数えた。
これもまた戻っていた。
テーブルに目を戻すと、醤油すらテーブルから消えていた。
ぼくは恐怖を通り越していた、その中でも、試さずにはいられなかった。
試しにスプーンを力いっぱい曲げてみる。少し目を離すとそのスプーンは元の形に戻っていた。
次に、床に水をこぼしてみた。いつの間にか床は乾いていた。
最後に窓ガラスを叩き割った。瞬きの間に、何も無かったかのように元に戻った。
恐ろしいことだけど、もう認めるしかない。この現象は既に不法侵入者とかそういうのじゃ説明がつかない。
『ぼくがしたこと』が、リセットされている。何をしても元の状態に戻される。
自分の行き過ぎた分析に、少しおかしく思えるが、今はそれしか言いようがない。
混乱した脳内に、一つの疑問がまた浮かぶ。それじゃあ、自動ドアの件も今の奇妙な状況に関係しているのか? という考えだ。恐らくそうなのだろう。
自動ドアは自動で開く、でももしそこに立ったのが自分の行動によって外部の影響をすべてリセットする存在、つまりぼくだったらどうなるか?
……答えは出ていた。つまりさっきと同じ状態、開くはずの自動ドアの行動がリセットされ続け、結局は『開かなくなる』
何が何だかわからないまま、ぼくはまたぶらりと外に出た。
家よりかは落ち着くかもしれないと思ったからだ。
土曜の朝だというのに、それでも人は沢山いた。
ランニング中の知り合いのおじいさんを見つけた。条件反射で挨拶をした。
返事は返ってこない。そのままおじいさんは走り去って行った。
外部に影響を与える行為は、すべてリセット、無いことにされる。それはどうやら全ての事柄に影響してしまうらしい。
もうぼくはこの世界の裏にいる存在、幽霊のようなものになってしまったのだろう。そう思うと途端に気分が悪くなった。
「呪われ、てんのかな」
寂しさを覚えながら、ぼくはまた歩き始めた。
もう家に帰ってもぼくを視認してくれない存在がいない以上そこにいても仕方ない。
何日がたった。ぼくの旅は終わらない。
何日歩き回っても、ぼくを視認してくれる存在は現れない。
冷たいはずの夜の風が、ぼくには感じ取ることが出来ない。
そして思うのは、常に一人というのが恐ろしく辛いということ。
誰も応援してくれず、誰も相手にしてくれず、誰にもぼくは分からない。
苦しかった、死にたいと何度も思った。でも自殺なんて出来なかった。ぼくにはそれだけの勇気がなかったから。
……嘘だ、本当は更に怖いことがあるからだ。
もしぼくが自殺をして、それすらもリセットされたとしたら。ぼくは多分発狂する。
自殺という救いが無くなってしまえば、僕は死ぬことも生きることも出来ない、ただこの世界をさまよう生きた亡霊になってしまう。
それが一番怖いのだ。
ぼくは今、お墓の前に来ている。永遠に建てられることのないであろうお墓を見ている。
もう、ぼくに語りかけてくれる存在がいるならば、生きていなくてもいい、幽霊ですら構わない。そう思ってここに来た。
夜の墓場、まさに幽霊が出てくるに相応しい時と場所ではなかろうか。
「誰か、いませんか」
こんな状況になる前まで、ぼくはお化けが苦手であったがもはやそんなこと言っている場合じゃない。
幽霊よりも、どんな未知との遭遇を果たしても。一番怖いのは真の孤独。
一人がいいと言いきって、孤独に生きる存在も誰かと話して生きている。
そんなのは孤独なんかじゃない。真の孤独を体感しているぼくはそう思う。
「ぼくはここにいます」
声を大にして叫ぶ、夜だからといって気にしない。
「ぼくは、ぼくはここにいます」
返事がない。
「ここにいます」
何も無い。
「誰か」
無い。
「うぁぁぁぁぁ……」
無いという絶望が、ぼくの理性を壊していく。
「あぁっ!」
お供え物を蹴り飛ばす。当たったのに吹っ飛ばしたのに、何も無かったかのように、元の位置に戻っていた。
「あは、は、はははははははァ!! ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
ぼくは笑った。何が可笑しかったのか僕にすら分からない。ただ何も分からない。
ぼくがぼくでなくなっていく。ぼくの理性ぼくぼくに影響をを、をを。ヲおよぼぼ、およ、お、せ、なくなってい───────
気がつけば、もう朝になっていた。
狂った『ぼく』はもうまっすぐ歩くことすらままならない。
ぼくの考えも、もはや『ぼく』には届かない。
『ぼく』が周りに影響を及ぼせない、というのは言い換えてしまえば『ぼく』に影響を及ぼすことが出来ないということになる。
互いに不干渉だからこそ、『ぼく』は孤独になった。
冷静に考えるぼくも『ぼく』には影響を与える存在とみなされたのだろう。
だから、ここで喋っているぼくは、ふらふらと朝の街をふらついている『ぼく』じゃない。
『ぼく』が突然歩みを止めた。そして街においてあるテレビに目を向けた。そのテレビはニュースが放送されている。
「ふ、フヒヒッ」
その番組を見て、『ぼく』は不気味な笑いを浮かべた。考えるぼくを切り離した『ぼく』は、何を思ったのか……?
視覚は共有している、内容は分かる。未解決事件のニュースをしていた。殺人犯は分からずじまい、わかるのは凶器のナイフだけ。
そしてそこには、そこに映っていた被害者の欄に。
───────ぼくの両親がいた。
まぁ、そんなことは知っている。
今更驚くべきことではない。むしろ今更? と感じた。
だって、ぼくが殺したのだから。
昔から嫌いだった。自我を持って動かない無能な父、そしてそんな存在を生み出した業を背負う母を。
どちらも自動で動く存在。気持ち悪く思えた。
だから殺した。いや、自動で動くものを止めた。
包丁で至る所を刺した。でも足は刺さなかった。
今度は自分の力で動けるように。
「あばばばばばばばばばばばばばばばは!!」
「ふ、ふふふふ」
ふらふらと歩く『ぼく』は、無意識に行動をしている。その行動は一体なんのために……?
その疑問は、『ぼく』が歩いている道のりを見て、理解することが出来た。何をしたいのかが分かってしまった。
まずいと、ぼくは思った。でも既に感情と化したぼくは何も出来ない。
もはや騒ぐことしか出来ない。
やめろ、やめろ! 今、ようやくわかった、『ぼく』がどこに向かっているか。何をしにそこへ向かうのか。
やめて、やめてくれ。そこに行ってはいけない。
せっかく、せっかく誰からも忘れられたのに。
誰にも干渉出来ないようになったのに、これで誰にも迷惑をかけないようになったのに。
見つかりたくないのに───────。
『ぼく』のふらふらとした歩みは、しっかりとある場所を見つめて歩いている。
だめだ、ダメだダメだダメだ!! 誰か! 早くこの殺人鬼を見つけてくれ!!
なんで!? ぼくの願いは叶ったんじゃないのか!?
なんで、なんでなんでなんで!? なんで一度上げて下げるような真似をする!?
悪いのはあいつらじゃないか! 自我もなく、考えることもせず、動くことしか出来ない自動ドアみたいな奴が、悪いんじゃないか!
そんなやつ生きてるなんて言わない、そいつを壊したからって、どうしてぼくがこうならなきゃならない!
「残念だな、ぼく」
え?
「お前、したこと、償う時、来た」
何を言っているんだ? お前なんて、ぼくが一人でいたくないという思いから生まれた思想でしかないのに。
「それでも、『ぼく』はぼくなんだ」
黙れ! そして歩みを止めろ!
「フヒヒヒヒ、それは、出来ない、もう『ぼく』の理想は、ぼくをこえた」
やめろ……来るな……!
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、その思いが、上回っただけ、見つけてという思いが、上回っただけ」
何でだ? 何でぼくは、見つかりたいなんて思ったんだ?
怯えてロッカーの中に隠れて、がたがた震えながら恐怖に打ち勝った末に手に入れた、行動のリセット、認識されない力。
それさえあれば、ぼくは逃げれるんだ。『ぼく』だって捕まらないんだ!
なのにどうして……!
「フヒヒヒヒヒヒ、だって、そうなったら、『ぼく』はもう、いない」
動くなッ! 自動でぼくの体を動かすなッ! ぼくの行動はぼくの物だ! お前が勝手に動かしていいものじゃないんだよ!
あぁ……どんどん近づいてくる……!
ぼくは恐怖のあまり、目を瞑ろうとするが、視覚は共有。じっくりと見せつけられる。
「ほんと、自分勝手。見つかりたくないと言ったかと思えば、今度はぼくはここにいるぅ? あぁ、おかしい、おかしい」
『ぼく』が、家の中に入った。
『ぼく』は、ある部屋に向かった。
『ぼく』は、その部屋のロッカーを開けた。
そこにいたのは──────。
「見つけたよ、ぼく」
全ては瞬きの一瞬で、元に戻る。瞑ろうとしていた目は瞑っていた。ぼくはまた、震える体で祈りを始めた。
「見つけないで……ぼくは、ここにいないから」