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第二章 平和な日々

「……お腹空いた……」



最近はジリ貧な生活を送っている、ルルです。


ウィズミックの街を出て9日。

今までは道なき草原でしたが、最近は細い街道を南に進んでいます。




ウィズミックで食料を補給するのが、どこぞのマヌケのせいで出来ませんでした。


そのせいで、食料は底が見え始め、道端の草を塩茹でたりして、食料を少しでも長く保たせようとしています。



草ですよ、草!

当然不味い、あの草!

馬はいいですね……

草を美味しそうに平らげていく姿に、軽く嫉妬。



「……喉渇いた」


これは馬も同じ。

昨日の時点で、あと2日分しかありませんでした。


ほとんど飲み水にしか使っていないのに、この減り。



日が高く上り、サンサンと日差しが降り注いでいるんですから仕方ないですが……



そんな、貧乏で、飢餓に苦しみ、草食べてる生活なのも、全部、ぜぇ〜んぶカノンのせいです。



北にあるウィズミックという街で、魔界との戦いが繰り広げられた時に、マヌケカノンはお金を落としちゃったんですよ!


それも全額!



そのせいで夜逃げ同然に宿代を支払わずに逃げ、当然食料を買い込む暇もありませんでした。




あ、怒ったらまたお腹が……


お腹がカロリー寄越せと訴えてきます。



「……なんだよ、何イライラしてんだ?」


聞いてくるのは、マヌケカノン。

ボサボサ頭で黒いマント。

この暑い日差しの中を全身黒ずくめで、涼しげに歩く姿には殺意が芽生えます。



「……お腹空いてんですよ!

カロリー足りないんすよ!」



無意識に語尾を強調してしまいます。


「いいダイエットになるじゃないか。


……ま、待て、落ち着け。わかった、わかったから……」



私が魔法で、道端のサッカーボール大の石を持ち上げると、カノンは冷や汗を流しまくっています。


「……何が……わかったんですか?」



極力怒らないように、笑顔でいるように努めていたら、カノンはそれすらも怒りと捉えたようです。


後退りながら、膝がガタガタ震えています。


「次の街では……」


「……次まで待てと?」



「次に獲物見つけたら狩りに行ってきます……」



私の勝ちです。

ため息混じりにカノンは声を零します。


「……おっきいのが良いですねぇ〜」



私の久しぶりのご機嫌ぶりに、若干カノンは恨めしそうです。


「カノン、ボクは魚が良いニャ。出来ればアジとか」



馬の上でくつろいでいるのはムーン。

異世界を股にかけ旅する猫です。


フワフワの毛は、見ているだけで暑い……


「あぁ、また今度な」


大人が子供を黙らせる最強究極のセリフ。

“また今度”


カノンが相手にしないのも分かりますよ。

だって川があれば喉なんて渇かないし、第一内陸にアジはいません。



「アジ〜アジ〜」


楽しげにムーンは歌っています。小躍りまでして……

良いですね、簡単で……


「カノン、今日はあの丘の手前で野営にしませんか?

そろそろ地図を使って、色々話し合いたいので……」


大体十キロほど先にある小高い丘を指差しながらカノンに質問。

小高いと言いつつも、今いる所から下り坂なのでここと大して変わりませんがね。

距離的にはまだ日が高い内に余裕で到着できるでしょうね。


麓には木々がうっそうと生い茂り、ハンモックができそうです。


「そうだな。今後の計画話すにゃ、ちょうどいいかも」




そうと決まれば話は早い!

たまにはハンモックでゆっくり寝たいですねぇ……


「じゃ、私先に行きますから!ムーン、おいで」


ヒラリと茶色の馬に乗り、ムーンを呼び寄せると、見事な跳躍で私に飛び込んできました。


「じゃっ!お先に!」


手綱を操り、カノンを置いて猛ダッシュ!

だって着いてもすぐには寝れませんもん……


周りに敵の形跡はないか、視野はどれくらいか、隠れられる場所はあるかなどなど。


これかなり面倒くさいし、時間かかります。


「ムーンもたまには手伝って下さいよ?」


ムーンは私の前でチョコンと座っています。


「じゃぁ……一番高いところで見張りでもするニャ」



まったり口調で言われると、ただ日向ぼっこがしたいとしか思えませんね。



一人でやることになるんでしょうね……


でも負けません。ハンモックの為です。


珍しくカノンがOKくれたんです。ハンモックで寝て良いって……






ほとんど道を下るだけなので目的地までは割かし早く到着しましたが、念のため丘の上も確認しなければなりません。


ムーンを麓に下ろし、小さな林の中のチェックを頼みます。


遠くから見たら大きな森に見えましたが、近づいてみれば木々が大きいだけで本数は2〜30ってとこですか。

新緑とまではいきませんが、やさしい緑色が美しく、目が癒されます。


「ほら、がんばって!」


なだらかな傾斜を登っていると、馬はだいぶ息が上がり、速度もドンドン落ちていきます。


仕方なく降りて、手綱を引くとクリクリとした目が恨めしそうに私を見つめています。


「お前重いんだよ!ダイエットしろよ!」

と、言っているかのようです。


「……何ですか?私が太ったとでも?

全く……私がぜんぜん食べてないの知ってるくせに……

わかりましたよ。すぐ戻ってきますから、ここで待ってって下さい」


私は魔力でできた金の翼を持ってまして、それで飛ぶことが出来ます。


翼に力をこめ、地面を思い切り蹴ります。


うまく風を捕らえられれば、あとは簡単。ほとんど翼は動かさなくても紙飛行機のように飛ぶことができるのです。



「ほぇ〜意外と大きな丘ですねぇ」


木が生えてるのは丘の周りでは先ほどの一点だけ。


草の緑のど真ん中を茶色い道が貫いています。



「敵の気配、無し。丘の上に野営すると向こうからモロ見えですね。


今日は木の上で寝たほうが良さそうです」


誰にでもなく、独り言ですが、声に出すだけでしっかりと記憶できます。


さて、ハンモ〜ック!


グライダーのように地面まで滑空。


私の馬はそれに気がつき、置いていかれるといわんばかりに網ダッシュ。


私は馬と競争するようにすぐ近くを飛びます。



「負けた方が罰ゲームですよ?そうですね〜……って、速っ!」



文字通り、風を切り裂くような走りで坂を下っています。

踏み固められ、砂煙はたたないはずなのに、その後ろからは嵐のような物が……


「ちょっ!待って!」


翼を必死に羽ばたかせますが、距離は開くばかり。











「何だ、速かったな」


野営地ではカノンが荷物を紐解いていました。


「えぇ……ちょっと色々ありましてね……」


「ん?」


カノンは不思議そうですが、後ろにいる馬のニヤついた顔がムカつきます。


「で?ムーン、ここの林はどうでしたか?」


はんば無理やりですが話を変えます。

どこともなくムーンに呼びかけると、木の上から声が……


「申し分なくハンモックが出来るニャ」






……何でわかったんでしょう……


でも……ハンモックのためなら……



「カノン、狩りは任せましたよ?

一応2週間分。今晩のバーベキュウ用と、干し肉、塩漬け、茹で肉等の保存用に。


私はハンモックを設置してきますから……」


カノンが何も言わない内に、一本の木の一番下のコブに足を掛けます。


言い返さないうちにスイスイと上っていきます。


「え……ハンモック、持っていかないのに?」



しっ、しまったぁ……


下を見るとカノンニヤついた顔でこちらを見ています。

その手には神々しいハンモックが……


「じゃあ〜一緒に狩りに行くかぁ、風のマスター?」



負けた……完全に……


今日は馬にも負けるし、カノンにまで……


しぶしぶ木から降りている時、私の顔には縦線がついていたことでしょう。


「ムーン、留守番頼むわ」


カノンが木の上に向かってそう叫ぶと、枝がガサガサと揺れただけでした。
















「あそこだ。見えるか?あの鹿を狙う」


今までの道から逸れ高台に登ると、遠くに鹿の群れが見えました。

断崖を下って、柔らかい新芽を食みにきたのでしょう。


「二頭も獲れれば上等だ」


そう言ってカノンが茂みから出て行こうとするのを、無理やり引き戻します。


「どうやって狩るんです?」


「お前……狩りしたことないの?」


呆れたように聞くカノンが恨めしい。

境の国じゃ狩りなんてしなくても、お肉屋さんで買えたんです。


「はぁ……とりあえず、風矢適当に撃っとけば?」


"下手な鉄砲、数打ちゃ当たる"


頭の中でこの言葉が、派手なネオンを輝かしています。




「……ムカつきますが、わかりました」


私の中で、プライドか食欲かの勝負に食欲が勝った瞬間でした。




「風よ集いて敵を討て」


高台から飛び立ち、鹿に向かって急降下。

鹿が私に気がついたとき、そこはすでに私の間合い。


無数の風矢が群れに降り注ぎます。



ですが野生の鹿の動きはとてもすばやく、発達した後ろ足でかわされていきます。

そのまま崖を登り始め、ドンドン茂みへと逃げ帰っていくのです。



「はい、いらっしゃい」


どこにいたのか、逃げ惑う鹿の逃げ道の一本からカノンのナイフが……


風を切り裂き、二本のナイフはそれぞれ的確に心臓を貫きます。









鹿の調理を済まし、保存食にし終えると、その一部を夕食用に串に刺して炙りました。

美味しそうに油が音をたてるころには、空はオレンジに染まっていました。



「……さて、そろそろ今後について話合いたい」



「ひょっ!ひょっほまっふぇ!」



口に熱い肉を放り込んだ直後だったので、しゃべろうにも喋れなく、飲み込もうにも飲み込めず……


「うぅ……口ん中火傷しちゃいましたよ」



何とか飲み込むと、口がヒリヒリ。

でも、かなり美味しいです。


塩と胡椒しか使っていませんが、こんなに美味しいお肉は初めてです。


お腹が異常なまでに空いていたってのもありますが、お肉自体が美味しすぎます。


「食い意地張ってるからだ」


カノンの憎まれ口も気にならないくらい美味しいです。


「全く……肉くらいで……



うまっ!」


「でしょ?でしょ?」


カノンも一口食べただけで、その味の虜になりました。



その後、串に刺さったお肉は一瞬で私たちの胃袋の中へ。



「……いやぁ……うまかった」


「ですね。

さぁ、いっぱい食べた事だし、今日は寝ましょう」


いそいそと木に手をかける私の手を、カノンがぎゅっと握ります。


「……計画たてなきゃ」



…………またもハンモックが……



カノンは焚き火に枝をくべ、それん灯りにシャインの地図を広げ始めました。


以前、ユー爺が持っていた物のようです。


「いいか?今いるのが、この辺り。ウィズミックの真南に当たる。


ルイボロスに行くには、このまま街道を行くのが、ベストだ。最短距離だし、たぶん安全だ。


だが、南東にある街に、夢占いが得意な奴がいるらしい。


そっちに行くには遠回りになるが、行く価値はあると思う」



カノンの顔を、焚き火が赤く染めています。

「そうですねぇ……

確かに行けば何かしら情報は得られるでしょうが、先にルイボロスに行ったらダメなんですか?」



カノンの顔を、焚き火が赤く染めています。

空には満天の星。

私たちの動向を星が見守ってくれているかのようです。



「ルイボロスが俺らの一応の目的地なわけだろ?

もし……ホントにもしだけど、この情報が漏れてたら、ルイボロスは罠だらけだと思うんだ」



なるほど……

あり得ますね。


「……ルイボロスの状況も占ってもらおうと?」



「あぁ。

それに地図で見る限りその街は海沿いだし、ルイボロスもそうだ。

もしかしたら船で移動出来るかも知れない」




「でも船なら身動きが……あぁ!」



カノンは水のマスター。

周りが水である海でなら、恐らく最強でしょう。


「……良いでしょう。ではその街に立ち寄るとしますか?ちなみに、名前は?」


そよ風が、長くなってきたカノンの髪を揺らします。



「セント・ヒアルリア。

女神信仰の総本山だ」

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