第一章 絶望の冷風
どんよりと曇った空。
この街、セント・ヒアルリアは気候の上では夏だと言うのに、人々はマントを体にきつく巻きつけ、脚を速めている。
シャインの南方に位置するこの街には、国で二番目に大きな教会があるので有名だ。
女神の信仰だけで言えば、国内最大で、街の至るところにその彫刻が施され、石像の技術も発達している。
「女神、アルリ様。我々を御守り下さい……」
彼の名は、ヒアルリア随一の大神官、ラシュ・スイエ・ニニク。
彼は街唯一の教会の女神像の前で膝まづき、頭を垂れ、祈りを捧げている。
静かで厳かな雰囲気だが、逆に言えば閑散とし、もっと言えばどこかもの寂しい。
この異常気象のせいで作物の実りは悪く、過去に例を見ない飢饉になるだろう。
幸い、貯蓄がしっかりなされているので数ヶ月は持ちこたえられるはずだ。
そして冬に入る前、この街には北からの多くの行商人が集まる。
彼らは春に南の街にいくため、ここで冬を越すのだ。
市も開かれ、祭りやら何やらも盛大に開催される。その時に落としていく食料でなんとかやりくりしなければならない。
だが、冬が早く来すぎてしまえば、北からの商人の道は雪に閉ざされ、陸の孤島となってしまう。
そんな事になれば……
元々この街は、他の街との交易も薄く、行商人や旅人が休憩に立ち寄る以外は、巡礼者くらいしか訪れる事はない。
女神を信仰する教会はシャインには少ない。
故に他の街とは宗教的理由から交わる事が稀なのだ。
街の木々の葉は枯れおち、街全体を暗鬱とした雰囲気で覆われている。
教会前の大きな木。古代、神の鳥が止まったという木の葉も、最後の一枚となった。
「もし、我らをお救い下さるのならば、徴を……希望をお与え下さい」
彼が祈ったその瞬間、最後の葉がヒラヒラと舞い落ちた。
まるで最後の希望が潰えたかのように……
だが、彼はその事に気がつかない。
ステンドグラスを隔てているから当然だが、彼は今なお祈り続けている。