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ボッチになってしまったけど応援したい

20170314公開


「ミッキー、悪いけど、新しいパーティを探して欲しいんだ・・・ 俺とアリーは『夜明けの明星』に誘われていて、その・・・ 誘いを受けようかと思っている」


 酒場のテーブルの向こうで、同じ村出身のロブ兄さん(血は繋がっていない。近所のお兄さんという意味だ)と、同じく同郷でロブ兄さんの恋人のアレックス姉さんが申し訳なさそうな顔で、手に持っているグラスを見詰めていた。

 

 うん、薄々は気付いていた。

 僕たちはたった3人と言う圧倒的に少ない構成のパーティにも拘らず、この2年間は怪我もなく、中堅狩人ヴァンガード用の『ナニワ南東砦』の狩場で堅実な収益を上げて来た。

 そう、1年間で4%が死亡し、13%もの狩人ヴァンガードが怪我から引退を余儀なくされるキツイ稼業にも拘らずだ。

 そんな僕たちのパーティを外から見た時に、注目されるのはどうしても物理的な近距離火力を持つロブ兄さんと魔法による中距離火力が高いアレックス姉さんになるくらいは理解している。


「俺もアリーも、ミッキーを一緒に誘って欲しいと頼んだんだが、あちらのパーティの構成上、無理だと断られた・・・ すまん」


 うん、分かってる。ロブ兄さんなら、ギリギリまで交渉してくれたと思う。アレックス姉さんも一緒に一生懸命に口添えをしてくれた筈だ。

 この2人は本当に僕には優しくしてくれる。

 2年前、成人すると同時に酷い扱いを受け続けた伯父さんの家から飛び出る様にこの街に来た僕を、血の繋がりも無い2人は、近所の子で顔を知っているからという理由だけ受け入れてくれた。

 それまで所属していたパーティで人間関係の悶着が有って喧嘩別れした直後という事情が有るにしろ、僕みたいな微妙な能力しか無い(と偽っている)人間を受け入れてくれたんだ。

 感謝する事は有っても、恨む事は出来る筈も無い。


「おめでとう、ロブ兄さん、アレックス姉さん。2人とも、『夜明けの明星』に憧れていたんだから、良い話だと思うよ。僕は僕で、何とかしていけるよ」


 僕の言葉に、2人は驚いた様な顔をしながら僕の顔を見た。

 恨みの言葉や、縋る様な言葉を浴びると思っていたんだろう。

 でもね、僕は応援する事が好きなんだ。

 大好きな2人を応援する事は当然だ。

 『ナニワ南西砦』の狩場でトップグループパーティの一員と言って良い成績を上げる『夜明けの明星』にスカウトされたら、どう考えて受けるべきだ。


「でも・・・」


 続けた僕の言葉に2人の顔に『ついに来た』という覚悟の表情が浮かぶ。その事からも2人が本当に僕に悪いと思っている事が分かって、自然と笑顔が浮かんだ。


「ロブ兄さんはうっかり者だから、気を抜かずに行動してね。特に害獣を倒した直後は気を抜く癖が有るから。アレックス姉さんはロブ兄さんに注意が行き過ぎだから、もっと周りを見て欲しいな。これまでと違って、フォローは少なくなると思うから」


 2人の表情が歪んだ。


「すまん・・・」

「ごめん・・・」


 2人とも、俯いて呟くように言葉を絞り出した。


「ロブ兄さん、アレックス姉さん、お酒が進んでいないよ。さ、グッと行ってよ。今夜の僕は2人の新しい門出を精一杯祝いたいんだ。めでたい席なんだから、涙を引っ込めてよ」


 僕は再び、1人ボッチになったが、構わない。

 だって、2人に会う事は減るだろうけど、両親と違って死に別れでは無いのだから。




 翌朝は、さすがに目覚めた直後は二日酔いだった。

 ズキズキと痛む頭に悩まされたが、それも『状態異常無効』の魔法を掛けるまでだった。

 ロブ兄さんとアレックス姉さんは二日酔いは大丈夫だろうか?

 僕よりも呑んでいたから心配だ・・・

 宿屋の1階に在る食堂に降りたが、食事中の宿泊客は疎らだ。

 この時間にここに居る狩人ヴァンガードは少ない。今頃は大多数が『森』の中だ。

 いつものパンとスープとベーコンエッグセットをゆっくりと味わう様に食べる事にした。


 この世界は、セイジさん曰く、『ファンタジー小説みたいな世界』らしい。

 セイジさんが生きていた時代に全盛を誇った科学・機械・化学文明は衰退し、代わりに魔法が幅を利かせているのだそうだ。

 まあ、それだからこそ、人類は滅ぶ事無く今も生き残っているんだろうと言っていた。 

 えーと、『魔法の方がエコだからね』という事だ。

 確かに、セイジさんに見せて貰った『ヘイセイニホン』の記憶の中の光景は、凄いとしか言えなかった。

 なんというか、余りにも直線的過ぎて、自然では無くて息苦しい程だった。

 そんな感想を言ったら、セイジさんが感心してくれた。

 『やっぱり、マイケルはいい感性をしているね。言われたらその通りだね』

 セイジさんが生きていた時代は、今よりも3,000年以上前だ。正確には分からない。

 まあ、『管理者さん』に聞けば分かるだろうけど、知っても仕方が無いと思う。

 あ、『管理者さん』とは、この世界のバランスを取ってくれている有り難い人だ。

 セイジさん曰く『半分神様で半分機械だね』と言っていたけど、詳しくは知らない。


 さてと、遅くなったけど、朝食も終わった事だし、歯を磨いて出掛ける事にしよう。

 この、食事の後の歯磨きもセイジさんのアドバイスから始めた事だ。

 歯ブラシの作り方も教えて貰った。それまでの小枝を齧って作る楊枝よりも時間も掛からずにきれいになるから今では無くてはならない道具だ。

 ちなみに、この街に来てから大きな商会に歯ブラシの作り方を売って小金を作れた。おかげで、3ヶ月は遊んで暮らせるくらいの貯えは有る。

 一旦、部屋に帰って、装備を身に付ける。

 と言っても、僕の装備はそんなに大したものじゃない。

 武器は、初心者でも使える様な両方の掌を広げたほどの長さ(セイジさん流に言えば40㌢くらい)の両刃の小剣のみ。

 防具は、革で作られたスモールアーマーだ。胴体のみ守るタイプで軽い方だが、これからの事を考えて、ミドルアーマーかラージアーマーにするかを悩むところだ。まあ、フルアーマーまでは要らないと思うけど・・・

 街の外に出る為に門に向かう。目指すは北門だ。

 この街、『サカイ』から真っ直ぐ北に向かって1時間ほど歩くと辿り着く『ナニワ南央砦』は、『オオサカ大森林』の南に在る各砦の要であると共に、狩人ヴァンガード初心者向けの前哨砦だ。勿論、往復の馬車も出ているが、今日は下見だからゆっくりと歩いて行く事にする。

 『サカイ』の街を出て、道なりに歩いて10分で大きな川の『ヤマトガワ』に突き当たる。

 その間の土地はサカイ街防軍が管轄している。

 だから、見渡す限りに土塁や堀が造られている。

 これまでに何度か起こった『大繁殖』を天然の要衝のヤマトガワと共に全て跳ね返して来たので頼もしい風景と言える。

 セイジさんは、サカイの東に在るマツバラで生まれたと言っていたから、この風景を見たら何と言っただろう?

 あ、そうそう。僕たち狩人ヴァンガードと街防軍は身分も違うが役割も違う。

 僕たち狩人ヴァンガードは、あくまでも自己責任でオオサカ大森林で害獣駆除を行う。

 まあ、自由と言えば自由だが、死んだり、怪我をして狩人ヴァンガードを続けられなくなっても誰も面倒を見てくれない。

 対する街防軍は給料制だし、衣食住が保障されている。

 しかも無事に45歳まで務め上げれば、死ぬまで毎月の小遣い程度は支給されるという羨ましい身分だ。

 人気も高くて、毎年冬に行われる採用試験では10人に1人しか採用されないそうだ。


 30分も歩けば、春の初めで気温はそれほど上がっていないけど、この身体でも少しは温もって来る。

 サカイの街を出て45分ほどで『ナニワ南央砦』が見えて来た。

 周囲1㌔を木と煉瓦で造られた高さ5㍍の壁で覆われた、オオサカに於ける最前線の1つだ。

 街防軍の駐屯地でもあるので、門番は街防軍兵士だ。

 今日は顔なじみの門番が立哨していた。嫌な予感がする。


「聞いたぜ、マイケル。パーティを解消したんだってな」


 やっぱりね・・・


「お世話になった2人が出世したんだから、却って嬉しいよ」

「お前も人が善過ぎだろ・・・」


 そう言いながら、門番が入砦リストとペンを差し出して来る。

 手早く個人番号を記入する。その番号と差し出した狩人タグの番号が一致している事を確認して門番が確認者蘭に記名して、砦に入る手続きが終わった。


「まあ、なんだ。人生谷ありゃ山もあるさ」

「励ましありがとう」

「で、今日はどうしたんだ? こんな時間に」

「いや、さっそくどっかのパーティに入ろうかと思って、下見に来たんだ」

「なるほど。まあ、お前さんなら、すぐに見つかるよ。頑張ってな」

「ありがとう。そんな気がして来たよ」


 こんな時間だから人が来ないので、ちょっとだけ立ち話をする。

 数分ほど立ち話をした後、彼に手を振りながら門をくぐる。

 砦の中は相変わらず賑わっていた。

 狩人ヴァンガードになりたての初心者はここを拠点に経験を積んで行く。徐々に実力が付いて自信も付いたら『ナニワ南東砦』か『ナニワ南西砦』に拠点に移す。

 その2つの砦からオオサカ大森林に入ると、こことは違って手強い害獣に遭遇する確率が一気に上がる。

 強いて言うならば、ナニワ南西砦側の方が群れに遭遇する確率と強い害獣の比率が高い為に難易度と報酬が高くなっている。

 セイジさんが言っていたファンタジー小説だと、冒険者と言うのが狩人ヴァンガードに相当して、冒険者ギルドという組合が仕事を斡旋してくれるそうだ。

 しかも、ランク制が有って、強いのか弱いのかがすぐに分かるらしい。高ランク程収入が高くなるそうだ。

 でも現実は、ランク制ではなく累計駆除ポイントで僕たち狩人ヴァンガードは実力を評価される。

 収入の違いは、如何に高ポイントの害獣を無理なく確実に駆除して素材を高付加価値で手にするかに懸っている。

 例えば、このナニワ南央砦からオオサカ大森林に入って高確率で遭遇するのが、『小狂犬レッサーマッドドッグ』だ。単独行動を好む、体高80㌢程の犬型の小型害獣だ。弱いと言っても初心者1人では碌な抵抗も出来ずに殺されてしまう害獣だ。

 こいつは1頭で12ポイントだ。1ポイントで軽い食事が出来るから、4人パーティなら1頭倒せば、1日分の食事になる。ただし、宿代や武器や防具の損耗を考えれば、そんなペースでは生活が出来ない。最低でも1日に2頭は駆除する必要が有る。

 同じ犬型の害獣でも、ナニワ南東砦やナニワ南西砦方面に出る『狂犬マッドドッグ』と『大狂犬ジャイアントマッドドッグ』はそれぞれ1頭で24ポイントと48ポイントという具合に上がる。

 まあ、それに見合うだけ身体も大きくなるので、初心者パーティでは挑む事すら無謀と言える。

 

 僕の目的地は、狩人ヴァンガードが仕留めた害獣を持ち込む買取所だ。

 そこで観察すると、そのパーティの実力が分かる。

 実力が低いと、手に入れた素材は大概が傷んでいる。だから毛皮として使えない素材となって、ポイント分の収入しか無い。

 だが、実力が高いと傷も少なく倒せるし、剥ぎ取りの腕次第という面も有るが、上手ければ毛皮の素材として買い取られるので追加の収入が期待出来る。

 これは、犬型の害獣の例だが、猪型なら食肉としての価値に変る。

 4時間ほど見ていたが、入れて欲しいと思うパーティは居なかった。

 大抵のパーティは僕が入る事で大幅な戦力増になる事は確実だが、どのパーティもピンと来なかった。

 客観的に見て、第三者から見た僕の評価は高くないと思う。

 近距離火力も中距離火力も微妙と評価されている筈だ。

 その辺の評価はロブ兄さんとアレックス姉さんに行くように立ち回っていたから、仕方が無い。

 まあ、初日から条件に合うパーティが見付かるとは思っていなかったので落胆はしない。

 そろそろ買い取りラッシュの時間に近付いて来た。門を出る時にラッシュに巻き込まれるのが嫌なので、帰ろうとした時に、その2人組のパーティに気付いた。

 僕よりも1歳か2歳ほど年下の少女と、少女より更に年下の少年の2人組だった。

 顔立ちが似ているから、多分だが姉弟きょうだいだろう。

 武器は2人とも僕と同じ様な小剣で、防具は一目で安物と分かるスモールアーマーだ。

 今日の狩りは空振りだったのか、買い取りコーナーを素通りして足早に歩いている。

 少女の方は真っ直ぐに正面を向いて前を歩いているが、少年の方は1歩後ろを、羨ましそうに買い取りの為に並んでいる列を見ている。

 しかも、空腹なのか、お腹に両手を当てている。

 気が付いたら、僕は2人に声を掛けていた。


「もし良かったら、話を聞いて欲しいんだけど、構わないかな? もちろん、僕が誘ったんだから、屋台で串焼きをおごるよ?」


 2人の反応は別れた。

 時間がゆっくりと流れる中、少女の方は警戒感を剥き出しにして、断ろうという表情を浮かべつつある。

 少年の方は串焼きという単語に反応して、顔を輝やかそうとしている。

 少女が断る前に更に僕が言葉を重ねようとした時に、意思表示が音によってもたらされた。

 2人のお腹が同時に鳴ったのだ。


「この通り、お願いだ。話だけでも聞いて欲しい。ダメ?」


 ちょっとあざとい気もしたけど、僕は少年の方を向いて手を合わせながら頭を下げた。


「おねえちゃん・・・」


 頭を下げているから当然2人の表情は見えない。

 だが、少年の声の中に僕の話を聞きたいという願いが混じっているのは分かった。

 まあ、串焼き食べたい、というのが本音なのは明らかだったが、それを言うと少女の方が却って断りそうだったので、敢えて頭を下げ続けた。

 5秒程して、少女が仕方が無いという諦めを含んだ声で言った。


「分かりました。話を聞くだけですよ?」


 表情からは想像出来ない様な少女の可愛らしい声が聞こえた。

 思わず、顔を上げた。

 少女の瞳には、諦めが2割、警戒が7割、希望が1割浮かんでいた。



 1割も希望が有るのなら、このスカウトは成功したな、と心の中で『ガッツポーズ』をしてしまったのは仕方のない事だろう。

 まあ、『ガッツポーズ』をした事は無いけど・・・

 セイジさんの受け売りだからね・・・・・

20170314後悔(^^;)

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