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天然で小悪魔?

作者:

意識はしていないけど、周りを巻き込む小悪魔的な女の子を書きたかったので。

ただ、どんな感じなのかなと、思っただけだったの。


百合亜ゆりあはさ、全く意識しないでいるところが残酷でずるいよな」





「ほ、本日より、こちらに配属されました、花宮はなみや百合亜です。至らぬことばかりだと思いますが、ご指導よろしくお願いします」

新卒で会社に入って驚いたのは、女性よりも男性が多いということ。就職活動でも、女性を暗に求めるような案件ばかり大学にきていたから、会社説明会ですら女性の方が多かった。

小学校に入る前ーーー幼稚舎から、女児部と男児部に別れるような学舎で学び、蝶よ花よと育てられた。


「面接のときに、少し会ってるんだけど……改めて。井上いのうえあおいです。しばらく私について、仕事を覚えてもらうね」

「はい!」

井上先輩は、今まで会ったお姉様たちとどこか違って、さらりとしたコットンみたいだった。

右も左もわからない私に、1からビジネスマナー全般、電話の取り方や仕事の進め方を教えてくれた。ときに厳しく、ときに優しく。忙しさのタイミングをはかれない私は、よく上司や他部署の方から苦い顔をされて、その度に凹んでいたけれど、井上先輩はフォローとリカバリーをしっかりしてくださって、よくごはんに連れていってくれた。


そうして、井上先輩にはお付き合いして2年になる恋人がいて、間もなく婚約するらしいということも知った。





「初めまして。上條かみじょうです。あおいの後輩に会うなんて、初めてで緊張しちゃうな」

上條さんは、井上先輩の3つ上で、私の5つ上で、近くの会社で働いているとのことだった。井上先輩との出会いは、会社近くのドトールで、注文がかぶることが多いのがきっかけだったそうだ。

一度一緒に飲むと気にしなくなるのか、3人でごはんに行くようになった。

上條さんは会社のおじ様たちよりも清潔感があって、それなのにどこかくたっとしているところもある、不思議なバランスを持つ人だった。

井上先輩が忙しいときにドトールに代わりに行くと、よく上條さんと出くわした。ドリンクを待つ間に、少し話をした。「ブラックは苦いですよね」と言うと、「お子ちゃまで可愛いなぁ」とのんびりした口調で返された。

上條さんだって、ブラックを飲んでいるところは見たことがない。


井上先輩も、甘い飲み物が好きで、同じ味覚の上條さんとお似合いだと思った。


可愛がられることに慣れきっていた私は、その内にのばされ、頭を撫でられる手に、違和感を覚えることはなかった。

その手が、耳や頬に添えられ、じっと見つめられることがあっても、そういうことは今までだってお姉様たちからされることがあったから、疑問に思わなかった。女性と違う固い皮膚の手は、頭にハテナをとばすだけの衝撃をもたらさなかった。


だから井上先輩がそんな姿を見て勘違いをして、私に「……そろそろ結婚しようと思ってるの」と言ったり、一緒にごはんへ行くことがなくなったり、代わりにドトールへ行くこともなくなったりしても、何とも思わなかった。……嘘。ちょっと淋しいなって思った。井上先輩は、今までのお姉様たちと違っていたから。そのままでいて欲しかったから。黙って、前の井上先輩に戻ってくれるなら、それでよかったのに。





「ゆりちゃん、もうやめて」

「……何を、ですか?」

「上條さんのこと。この前も……ふたりで出掛けたんでしょう?上條さんと、私、付き合ってるんだよ?」

「ええと、存じておりますが」

何を言っているんだろう。ふたりの交際は周知のものだ。わざわざ終業後に呼び出されて、話されることじゃあない。


久しぶりのごはんのお誘い、嬉しかったのに。


話したいことがある、なんて結婚の報告かと思った。この前の上條さんとのお出掛けも、インテリアショップ巡りで、井上先輩も知っているのだと思っていた。「新居の相談ですか?」って聞いたら、「あぁ、うん。そ、そうかな」とかおっしゃっていたので。


……違ったのか。


「馬鹿にしてるの?」


えぇー?なんで?


コットンみたいだった先輩。さらりとしていて、あっけらかんと笑って、他のお姉様たちと違った先輩。


「ゆりちゃんみたいな子、小悪魔って言うんだよ!」

「何言ってんだよ、あおい!」


えぇー?上條さん乱入?ここ、個室居酒屋ですけど?


「だって」

「だって?何だよ?あおい、今までそんなこと言ったことないじゃないか」

「今のこの状態の原因、なんだと思ってるの?」

「お前が百合亜にツラくあたってるからだろ」

「はい?」

いやいや、先輩は仕事では前と変わらず素晴らしい先輩ですが。

しかも何で私のこと呼び捨てにしてるんですか?いいって言ってませんよ?

「百合亜はお前と違って、か弱いんだよ」

「はい?」

「はい?」

あ、かぶった。


私、井上先輩より逞しいと思うけどなぁ。


「お前はひとりで大丈夫だろ?」


なにか、勘違いをしていらっしゃるような……。


「あったまきた!別れる!」

「ああ!願ったり叶ったりだ!」

どうしましょう。目の前でカップルが別れてしまいました。

お似合いだと思ってたんですけど。おふたりとも甘党なところとか。


「百合亜、もう大丈夫だよ」


……何が?


私の手を握り、笑顔を向ける上條さん。いや、何をうっとりしているんでしょう。さすがにこれはアウトだと思うのですが。


手を繋ぐのとは違うーーー両手を包まれるようにして、拘束されている。私に緊縛の趣味はなく、こんな風にされると、恐怖で背筋がぞぞぞぞとする。


井上先輩は自身の言った言葉に傷ついたのか涙目で、助けてくれる望みは薄そうだ。

そもそも、私は井上先輩に憧れて慕っていたのであって、上條さんに対してはたいした感情を持ち合わせていない。上條さんが井上先輩にどう接しているのかには興味があったけど、その視線の先を私に向けて欲しいと思ったことはないのだ。




学生の間。私は上級生からよく可愛がってもらった。同級生からも、マスコットや妹のように扱ってもらった。可愛い可愛いと愛でられ、いろんなものを与えられた。

餌付けのように、日々お菓子を貢がれ、それはヴァレンタインに最高潮となる。周りはいいところのお嬢様ばかり。必然的に、いただくお菓子も一般には手に入りにくいものばかりだったようだ。そんなことも露知らず、ただ笑って、「おいしい」「幸せ」と言えば、周りは甲高い声をあげた。

当の本人である私は、与えられる高カロリーの塊を摂取しつつ、同時に体形を維持するために、運動を余儀なくされた。幸い、伯父が経営しているスポーツジムに時間外でも通えたので、無駄に引き締まった。

少し大きめの制服の下には、小柄ながらも鍛えられた筋肉があったりする。

そんな学生時代も終え、前よりも通う頻度は下がったけれど、ジム通いは趣味のひとつとして続けている。健康な体は両親からも歓迎されているし、伯父が経営しているので、下手な輩も近づかない。





「あの」

「もう邪魔はないよ。安心して」

「……私、婚約者がいるのですが」

「ん?」

「はい?」

あ、井上先輩、復活されたのですね。よかったです!


『百合亜、どこ?』


「ええと、白妙の間です」

来てからずっと通話状態だったスマホから、馴染みのある声がする。タイミングよいですね。いつものことですけど。


「百合亜」


スマホを片手に、隙のないスーツを着こなした男性。つかつかと無遠慮に、それでいてスマートに、私の背後まで歩き、繋がれていた手を解放した。


いった

「我慢しろ」

「……はぁい」

そのまま後ろから抱き締められ、諦めるように力を抜く。お腹に回された腕。頭に乗せられた顎の重み。

積み重ねられた思いの歳月が、ここにある。


「……申し訳ないが、この子には僕がいるので、ちょっかいかけないでもらいましょうか」

「なっ」

「どういうこと?ゆりちゃん」

「えぇー」

見上げて確認すると、仏頂面に促される。私が説明するのかぁ。


「あの、私、ウチの会社の親会社のグループ本社社長の縁戚なんですよ。社会人経験したいって無理言って就職したっていうか。婚約も中学生のときには本決まりでしたし」

「え?まさか宮園グループの?」

「……百合亜は会長の孫だ。名字は違うが、現社長の姪にあたる」


伯父が経営しているのは、スポーツジムだけじゃあないんですよねぇ。その昔、造園業から始まって、料亭やホテル、輸入業もあったかな、多岐に渡る宮園グループ。父も不動産関係を経営たんとうしている。


「百合亜、嘘、だよね?ううん、ご両親のことは聞かなかった俺が悪いんだ……婚約なんて、本意じゃないんだろう?」


何をどうしたら、その結論にたどり着くんだろう。


「あの、」

「うん、俺が守ってあげるから」


何をどうしたら、そんな勘違いをすることになるんだろう。



「名前で呼ばないでもらえませんか?それは虎太朗こたろうにだけ、許した呼び方です」


ね?と再び顔を上げて確認すれば、満足気に笑った虎太朗と視線が絡む。ちゅっと、音を立ててから離れていく熱が、ひどく心地いい。


「この婚約は、百合亜の気持ちで成り立っているんですよ」


私の母ーーー伯父の妹にあたるーーーを、祖父も伯父も溺愛した。その母にそっくりな私も、過保護なまでに愛されている。だから、この婚約も、私が願ったものだ。

虎太朗は、祖父と縁ある企業の御曹司で、私の3つ下。まだ未成年の、学生である。ガッチリした体つきと、スーツに慣れ親しんだ仕草からは、来年成人するということなど、微塵も感じさせない。


「あなた方が別れるのも付き合いを継続するのも、別にどうでもいいんです。勝手にしてください」





「百合亜、僕が社会人になるまでなんて言わずに、さっさと仕事辞めてよ」

「えー、いやよぉ。井上先輩みたいな人、もっと見たいんだもん」

「それは悪趣味だよ。今だって、仕事らしい仕事出来てないんでしょ?その井上さん?が百合亜を育てたくても、百合亜にその気がないんじゃあ……」

「むぅ」

「ほら、ふくれないの。可愛い顔が台無し。今度ヨーロッパから甘くないお菓子たくさん仕入れてあげるから。コーヒーに合うってチョコレートも、きちんと頼んでおくよ」

「本当?」

「おじさんに言って、新居の相談もしてるんだ。ね?結婚じゃなくても、同棲ならいいでしょ?」

「えー」

私を囲いたくてたまらないらしい虎太朗の、可愛いお願い。うーん、迷っちゃう。


え?甘くない方がいいのかって?



だって私、コーヒーも苦くて美味しいブラック派なんですよ?



設定?

花宮百合亜→無自覚小悪魔。自分の外見は理解している。人の感情をよむのは苦手。宮園グループ系列のお嬢様。虎太朗と婚約中。

虎太朗→小さい頃から百合亜一筋。小6で婚約してからは周りに遠慮なし。高校生のときから将来のことを考え、百合亜の父の元で勉強中。仕事出来そう(笑)

井上あおい→百合亜の指導先輩。巻き込まれ、迷惑を被った被害者。だがあんな男と結婚しなくてよかったと切り捨てた。多少の苦手意識を持つが、仕事は仕事と割り切り、日々百合亜に仕事を教える。全然覚えてくれないが。

上條→あおいから百合亜に乗りかえようとした人。一応、被害者、か?


とまぁ、ゆるっとした感じで。


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