梅雨と雨と確執
さぁさぁ、ざぁざぁ、と雨の音がした。
起きれば部屋の中は薄暗くて、外には厚い雨雲があって、太陽が見えないことが分かる。
ツキン、ズキン、と寝起きの頭に痛み。
きっと雨が降っているから。
どうしても苦手な雨には頭を抱えてしまう。
それでも半袖のワンピースに、薄手のカーディガンで、出かける準備。
ひらり、と揺れるワンピースの裾に、くるり、と手の中で回す傘。
梅雨だ、雨だ、と肌で実感した。
じわじわ、じめじめ、と湿気が私を襲う。
梅雨だ、雨だ、と呟きながら水溜まりを避けた。
ざぁざぁ、ズキズキ、さぁさぁ、ズキズキ、と雨と頭痛のコラボレーション。
雨の日に元気なカエルとかナメクジは、一体どうなっているんだろうか。
本当に疑問だ。
「おはよう、今日もサボり?」
ひらり、揺れるスカート。
黒い黒いプリーツスカートは、ある意味学生の象徴だと思う。
それと一緒に揺れる胸元の赤いリボン。
可愛いなぁ、いいなぁ、私には似合わなかったそれが、彼女にはよく似合っていた。
そうしてそれがとても羨ましかった。
「サボリも何も、辞める意思表示だよ」
ひらり、揺れるワンピース。
それに負けずと揺れたプリーツスカート。
私達二人の間に沈黙が落ちたとしても、雨の音だけは消えることがない。
それが上手く間をもたせてくれているような、そんな気すらしてしまうのは何故だろう。
じわりじわり、と湿気がワンピースを少しだけ重くしたような気がした。
彼女は相変わらず、昔と変わらない笑顔を浮かべている。
その笑顔が昔から苦手だった。
じくじくじくじく、古い傷が雨のせいで疼くような。
そんな厨二的な思考。
自然と止めてしまった息。
足元の水溜まりを蹴り上げたくなる気持ち。
「また、逃げるんだ」
にこ、という笑顔。
悪意だけが詰められた笑顔。
本人にそんなつもりがなかったとしても、私にとっては悪意の塊でしかない。
「逃げる?逃げるって何?私だけが逃げてるの?私だけが逃げちゃダメなの?何を求めたの?私に何が出来るって言うの?分かるなら、教えてよ」
ポツポツ、雨が傘を叩く。
時間が経てば雨粒は大きくなっていく。
ポツポツ、が、トツトツトツ、と音を変えた。
トツトツトツ、が、ボッボッボッ、と強く傘を叩く。
ざぁざぁ、と耳障りな音。
彼女の口がゆっくりと動いても、雨音でかき消されてこちらまで届くことはない。
それが幸いなのか、何なのか。
灰色に変わっていく雨。
灰色に変わっていく背景。
それを背に私の目の前に立ちはだかる彼女。
もう一時間目は始まっているはずだ。
早く学校に行けばいいのに、そんな言葉も出ないまま、彼女は口元を三日月に歪めて笑う。
くるり、彼女の手の中で回された傘の柄。
きっと私もあれと一緒だ。
彼女にとって私はあの傘の柄と一緒。
――雨はまだ、止みそうにない。