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2015年/短編まとめ

梅雨と雨と確執

作者: 文崎 美生

さぁさぁ、ざぁざぁ、と雨の音がした。

起きれば部屋の中は薄暗くて、外には厚い雨雲があって、太陽が見えないことが分かる。


ツキン、ズキン、と寝起きの頭に痛み。

きっと雨が降っているから。

どうしても苦手な雨には頭を抱えてしまう。


それでも半袖のワンピースに、薄手のカーディガンで、出かける準備。

ひらり、と揺れるワンピースの裾に、くるり、と手の中で回す傘。

梅雨だ、雨だ、と肌で実感した。


じわじわ、じめじめ、と湿気が私を襲う。

梅雨だ、雨だ、と呟きながら水溜まりを避けた。

ざぁざぁ、ズキズキ、さぁさぁ、ズキズキ、と雨と頭痛のコラボレーション。

雨の日に元気なカエルとかナメクジは、一体どうなっているんだろうか。

本当に疑問だ。


「おはよう、今日もサボり?」


ひらり、揺れるスカート。

黒い黒いプリーツスカートは、ある意味学生の象徴だと思う。

それと一緒に揺れる胸元の赤いリボン。

可愛いなぁ、いいなぁ、私には似合わなかったそれが、彼女にはよく似合っていた。

そうしてそれがとても羨ましかった。


「サボリも何も、辞める意思表示だよ」


ひらり、揺れるワンピース。

それに負けずと揺れたプリーツスカート。

私達二人の間に沈黙が落ちたとしても、雨の音だけは消えることがない。

それが上手く間をもたせてくれているような、そんな気すらしてしまうのは何故だろう。


じわりじわり、と湿気がワンピースを少しだけ重くしたような気がした。

彼女は相変わらず、昔と変わらない笑顔を浮かべている。

その笑顔が昔から苦手だった。


じくじくじくじく、古い傷が雨のせいで疼くような。

そんな厨二的な思考。

自然と止めてしまった息。

足元の水溜まりを蹴り上げたくなる気持ち。


「また、逃げるんだ」


にこ、という笑顔。

悪意だけが詰められた笑顔。

本人にそんなつもりがなかったとしても、私にとっては悪意の塊でしかない。


「逃げる?逃げるって何?私だけが逃げてるの?私だけが逃げちゃダメなの?何を求めたの?私に何が出来るって言うの?分かるなら、教えてよ」


ポツポツ、雨が傘を叩く。

時間が経てば雨粒は大きくなっていく。

ポツポツ、が、トツトツトツ、と音を変えた。

トツトツトツ、が、ボッボッボッ、と強く傘を叩く。


ざぁざぁ、と耳障りな音。

彼女の口がゆっくりと動いても、雨音でかき消されてこちらまで届くことはない。

それが幸いなのか、何なのか。


灰色に変わっていく雨。

灰色に変わっていく背景。

それを背に私の目の前に立ちはだかる彼女。

もう一時間目は始まっているはずだ。

早く学校に行けばいいのに、そんな言葉も出ないまま、彼女は口元を三日月に歪めて笑う。


くるり、彼女の手の中で回された傘の柄。

きっと私もあれと一緒だ。

彼女にとって私はあの傘の柄と一緒。


――雨はまだ、止みそうにない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今日の名古屋は朝から雨です。 ちょうど物語の主人公と同じように目覚めました。 さて、雨が苦手な主人公。 嫌な気分を強調するように擬音が配されています。 擬音を効果的に使った話で、とても…
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