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剣鬼 巷間にあり  作者: 鷹樹烏介
浮月の章
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月之介との出会い

 『猫足の三郎』

 もともとは逃散した小作人の倅で、流浪の民だった男だ。

 放浪生活の苦難の中、相次いで両親が病没し、一人になってからは浮浪児として、生きる為に何でもやった。

 身体能力が高かったことに加え、妙に勘働きが鋭いこともあり、少年から青年になる頃には、いっぱしの盗賊だった。

 彼に、盗人の技を仕込んだのは、『風の小太郎』という、盗賊団の頭だった。

 噂では、北条に仕えた乱波『風魔衆』の残党だということだが、真偽のほどは三郎にもわからない。

 ただし、忍の者を彷彿とさせるほど、『物音を立てずに動く』『気配を殺して潜む』『火薬や毒物の扱い』といった技量をもっていたのは確かだった。

 それを、手取り足取り教わったのが、三郎である。

 『猫足』という異名がつく程度には、この業界では有名人なのだった。


 師匠であり、ごろつきの少年だった三郎を育ててくれた、小太郎は三年前に死んだ。

 人殺しも平気でやる悪党だったが、三郎には優しかった。


「俺は地獄に落ちるが、最後はお前に看取ってもらう。上等な死に方だよ」


 それが、小太郎の最後の言葉。

 三郎はそれを機に一味から抜け、一人働きの盗人になったのだ。


 身なりのいい浪人はゼニを持っている。

 それを学習したのは、一人働きを始めたばかりの事である。

 武士の搾取から逃散となった過去を持つ三郎にとって、武士は憎しみの対象だ。

 困窮した浪人だろうと、主家を持つ武士だろうと関係ない。

 腰にダンビラをぶら下げていやがる奴が、大嫌いなのだった。

 江戸には、浪人が集まる。

 浪人したばかりの侍はすぐわかる。

 『月代が伸びていない』『脇差を持っている』『服が小きれい』という条件がそろっている。

 逆に、こういう汚れていない浪人でないと、再就職は叶わないのだ。

 浪人生活が長いと荒れてくる。

 脇差は、質屋に流れる。服は着の身着のままになり、汚れる。月代も伸び放題になり、無精ひげも生える。

 こうなると、肉体労働者か、月之介に斬られた浪人の様に、人斬り稼業に足を突っ込むことになる。

 三郎は、そうなる前のスレていない浪人に眼を点け、質に流れる前の脇差や家宝の類を盗む。

 それで、侍が困窮し小汚いごろつき浪人に墜ちて行く。その様子を見ることに、暗い喜びを三郎は感じていたのだった。

 失敗したのは、月之介のみ。


 ――― 斬られる


 そう思って観念したのだが、月之介は三郎を斬らなかった。

 どころか、三郎に銭を渡し、

「魚が食べたいね。何かみつくろって、買ってきておくれ」

 といったのだ。

 文字通り、『泥棒に追銭』だった。

 このまま、ガメるという選択肢もあった。

 だが、三郎はアナゴとズスキを贖い、刺身やタタキにして二人で食べたのだった。

「あはは、逃げないとはね」

「そうか、その手があったか」

 その日以来、三郎は月之介と組んでいる。

 盗みの仕事仲間ではない、通常の友人同士として。


「草深 甚吾 を殺してくれないか?」

 月之介はそう言った。

 魚を買ってきてくれと言った口調と全く同じだった。

 この男は『死が日常』なのだと、三郎は気が付いていた。

 三郎も、盗みの過程で人を殺めたことはある。

 だが、その『死』が、しつこくねっとりと心の底に残っていて、ふとしたことで思い出したりする。

 師匠の小太郎も多くの人を殺していたが、夜中にうなされて飛び起きることもあったのである。

 月之介にはそれがない。

 赤子のように無為邪気に人を斬る。

 多分、思い出したりしないのだろう。

 そこに惹かれる。危険は甘い香りがしていて、三郎の様な黄昏に住む者を引きつけるのだ。


 月之介と同様のものを、三郎は甚吾から感じ取っていた。

 頼まれて以来、ずっとこの男を観察してきた。

 人当たりはいい。それは、月之介も同様だ。

 修行僧のように、禁欲的な生活をしている。酒を飲んだり、女を抱いたりしない。そこも、月之介と似ていた。

 隙だらけのように見えて、全く隙がない。

 懐のものを、掏り取ろうと試みたことがあるが、接近すらできなかった。

 怖かったのである。

 そんな不気味な怖さを感じるところも、月之介そっくりだった。


 生活は単調だ。

 朝起きて、魚を釣り、それを食う。

 飽きもせず、淡々とそれを繰り返しているのだ。

 だが、三郎には、甚吾が『何かを待っている』と思えてならなかったのである。

 このことは、月之介に報告を入れた。

 雑感なので、確信がないが……と、前置きして。

「機が熟すのを待っているんだろうね。ふふ……生意気だなぁ」

 そんな、謎かけみたいな言葉を、月之介は言っていた。

 

 

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