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短編集 詰め合わせ

産む女

作者: 忍者の佐藤

私は今日、出産した。……………卵を。

この言葉を信じてくれる人は百人中何人くらいいるのだろうか。

もし私が卵を産んだと主張する人間に出会ったら、お前は鶏かよ、と一笑に付し相手にもしなかっただろう。

だが実際に卵は私の体から排出された。


私の導き出した対処法は3つだ。一つはこの卵を温めること。何か生まれるかもしれない。2つ目はゴミ箱に捨てて今日あったことはすべて忘れること。この方が精神的に良いかもしれない。そして3つ目は目玉焼きの材料にすることだ。おなかすいた。

私はテーブルの上でタオルにくるまれている卵を見つめる。どう見ても卵だ。どうしてこんなことになったんだろう?もしかしたら寝ぼけて自分で突っ込んだのかと考えてみたが、そんなフィーバーしてたら、もっと部屋やキッチンが汚れているはずだし、さっき冷蔵庫を確認してみると卵は減ってなかった。じゃあ誰かに入れられたのかとも考えたが、今は一人暮らしだし、彼氏もいない。卵を挿入されるようなフリータイムを設けているわけでもない。考えれば考えるほど謎だった。


ことの発端は今朝のことだ。激しい腹痛に見舞われて私は目を覚ました。寝ざめの悪い私が日曜の朝に一発で目を覚ますくらいには痛かった。

いつもの腹痛とは少し違った。今思えばあれが陣痛だったのだろうか。

しばらくお腹をさすりながら便座に座っていると、にわかに耐えられないくらいの痛みが襲ってきた。私はうめき声をあげて蹲った。

ぽちゃんという音がしたと思うと、急に楽になった。

そして、おそるおそる立って便器のほうを見ると、白い卵が浮かんでいたのだ。


私は卵を手に取ってみた。一応言っておくが、便器から救出した卵は洗剤をつけて念入りに洗った。

「どう見ても卵よねえ」

卵をじっと見ていると、ピシリとわずかにヒビが入った。私は驚いて卵をタオルの上に戻す。ピシリピシリと次々ヒビが入っていく。私は固唾をのんで卵を見守ることしか出来なかった。何が生まれるの?ヒヨコ?もしそうだとしたら、それは私の子供と言えるの?私に扶養義務はあるの?義務教育までは受けさせるべきなの?私の頭の中で様々な考えがぐるぐると回っている。

すると卵を縦断するように大きな亀裂が入ったかと思うと、きれいに2つに割れた。

中から出てきたのは、禿げた小さいおっさんだった。もちろん裸一貫。

おっさんは私を見ると、笑って、

「おはよう、ママ」

と言った瞬間私は割れた卵の殻で素早くおっさんを閉じるとガムテープでぐるぐる巻きにした。

そして窓を開けて肩がちぎれるかと思うほど思いっきり放り投げた。

卵は海に落ちて、小さな水しぶきを上げた。

何もなかった。うん。何もなかったんだ。卵なんか産んでないし、おっさんも孵化していないし、ママとも呼ばれていない。たまたま早起きしただけの、なんの変哲もない日曜日なんだ。

私は大きく深呼吸をして自分を落ち着かせた。グー、と大きくお腹が鳴った。

「さて、目玉焼きでも作るか」


ご閲覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] オチがない…おっさん生きてるのだろうか。しばらく(といっても一時間)卵が食べられそうにないです( ´艸`)
[良い点]  オッサンって、卵から産まれるんですね。  知りませんでしたw [一言]  相変わらず面白いです。  結構ギリギリなネタをやりましたね。下ネタ寄りなので、人によっては拒否反応出るかも知れま…
[良い点] おっさんが出てきてからの急展開が妙にツボにはまりました。面白かったです。 [一言] 情景が目に浮かんでおかしいです。「おはよう、ママ」というセリフのチョイスが中々良いです。
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