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ほのぼの〜新月の夜〜

作者: 非国民

 月の出ない夜、そして人々が寝静まる時間。これは、そんな日に起こる楽しい出来事。



  ― 骨董屋店内こっとうやてんない ―  



「おぉい、シナモン。こっちじゃ、こっち。」

 茶色いマントに身を包んだ白髪の老人が、ラーメン用の丼の縁に座り、緑色の服を着た黒縁眼鏡を掛けた少年に手招きをする。

「あ、玄爺げんじい。お久しぶりです。」

 シナモンと呼ばれた少年は、小さなお猪口おちょこ(※お酒を呑む小さなコップ)を背負い、ヨロヨロとお爺さんの元へと歩いてきた。

「しっかし、お前さんのは自分で移動できるから羨ましいのぉ……。」

 よっと、玄爺と呼ばれたお爺さんが丼の縁から飛び降り、少年の元へ歩いて行く。

「そうでもないですよ? これはこれで狭くて窮屈ですし……。それに、移動できるから宴の準備もほとんど僕がしなきゃいけないですしね……。なんなら、その丼と替えましょうか?」

「はっはっはっ、お前も冗談を言えるようになったんじゃなぁ。」

 お腹を抱え玄爺が笑う。

「たまには……ですよ。まぁ、僕達憑喪神つくもがみは一度取り憑いたら最後、その品物から10M以上離れられませんからね。」

「そうなんじゃよなぁ……。例外は品物が壊れて、縁が切れるしかないんじゃが……。わしゃぁ、この丼が気に入っているしのう……。憑喪神になってそれが一番困っとるんじゃよ。」

 本当に困ってるのかと思わせる様に、がははは。と、玄爺が軽快な笑い声を上げる。


「ん〜……うるしゃいでしゅよ〜?」

 その笑い声を聞き付けてか、レジの右横の棚に飾ってあるコーヒーカップから、舌足らずな喋り方をしたピンクの髪のチャイナ服を着た女の子が顔を出す。

「おっ! ユエルか! おはよう。」

「あ、げんじぃしゃん。おはようでしゅ。それに、シニャモンも。」

「ユエル、何回言ったらわかるんです? 僕はシナモンであって、シニャモンじゃないって。」

 シナモンは準備している手を止めると、口を尖らせユエルに訂正を促す。

「はっはっはっ、まぁいいじゃないか。まだユエルも小さいんだ。上手く発音出来ないのさ。」

 バンバンとシナモンの肩を叩く。

「し、しかし……!!」


「邪魔するでぇ!」

「お邪魔しますですわ。」

 シナモンの言葉をさえぎる様に、レジの左横に飾ってあるフランス人形と日本人形が同時に手を上げる。

「あ♪ 京子きょうこしゃん。らんしゃん。お久しぶりでしゅ。」

 ユエルが手をブンブンと振る。

「うおっ! 蘭と京子か!? 意気なり動くでない!! わしゃぁ、びっくりして心臓が止まるかと思ったわい。」

 二体の人形がロッククライミングの様に棚をよじ降りてくる。その後、玄爺の近くまで歩いてきた。

「ははは。爺さん、私らには心臓なんて付いてないだろ!」

「そうですよ? 私達は一応は神ですからね。簡単には死にませんわ。」

 ははは。と、笑うとフランス人形の蘭は辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「ユエちゃんおはよう。元気にしてた?」

「うん♪」

 蘭とユエルが、ニコリと微笑む。その光景を横目に、京子が宴の準備をしているシナモンの元へと歩み始めた。

「あぁ〜ら、シナモン君? 貴方はお姉様達に挨拶はしてくれないのかしらぁ?」

 宴の準備をしているところを急に声を掛けられ、シナモンがビクッと身を縮こませる。

「あ、きょ、京子さん。お久しぶりです。」

「お・ひ・さ・し・ぶ・り。ではないでしょ? 私達のお茶は?」

「は、はい。すぐに用意します。」

 シナモンは京子の事が苦手なのか、目を合わせようとせず、テキパキとお茶の用意をはじめる。

「もぉぅ。どうしていつも、そんなそっけない態度をとるのぉ? お姉さんは悲しいわ。」

 京子は、よよよ。と、その場にくず折れる。よく見ると、ちゃっかり右のそでを口にくわえている。


 ゴーン……ゴーン……

 壁に掛けられた時計が、0:00を告げる鐘を鳴らす。

「を、時間じゃ。そろそろ皆が起き始めるかな?」

 玄爺は壁に掛けられた時計に目をやる。

「を、やってるな。」

「私たちも交ぜてくださる?」 いつの間に来ていたのか、二人の老夫婦が宴会の準備をしている机の横へ立っていた。

「あ……。」

「私達も交ぜてぇな。」

 シナモンの言葉を遮るように、赤、青、黄色の服を着たピクシーの少女達が入ってくる。

「あ、はい。いいですよ。」

 その言葉を待ってました。と、言わんばかりに、棚から次々と憑喪神が降りてくる。

「儂達も入ってええかの?」

 沢山の憑喪神を代表するように、一人の福の神が口を開く。

「あ、はい。どうぞ。」

 その言葉を聞き、ドッと皆から歓声が上がる。それまで静かだった宴会場が、急に賑やかになった。


「あぁ……、皆飲みたいだろうから、開会の挨拶は飛ばすぞ。では、これより第2963回、春の大宴会を始める。」

 壇上に上がった玄爺が泡の入った麦茶を掲げ、乾杯の音頭をとる。

『おぉぉぉぉぉぉぉっ』

 その音頭に合わせ、憑喪神達が一斉にコップを掲げる。

『かんぱ〜〜い。』




ほら、耳を澄ませてください。あなたの家でも聞こえませんか? 憑喪神達の宴会の声が……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夢のあるお話でした。いや、本当に起きているかもしれませんよね。物にとり憑く神様たち。姿を中々見せてくれません。 消費社会となった今、私たちは物の大切さを忘れがちです。でも、何年も共にした物だ…
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