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【蒼竜編 その1】 夫の事情

 

 竜はつがいが妊娠すると、始終傍を離れず番と子を守る習性がある。


「…………」

「あ、ああああの……、美波さん、は……」


 アークと美波が婚姻して七年後、待望の第一子を妊娠したとの知らせを受け、そのお祝いにとひなたは彼らの自宅を訪ねた。だが、玄関扉を開けてひなたを迎えたのは美波ではなく夫のアーク騎士団長。しかも初の子供を授かり、喜びと共に警戒心を顕にした巨漢の男性が目の前に現れたとあって、元々小心者のひなたは顔を青くして更に縮み上がった。


「……奥に居る」

「え、えと…その……、上がっても……?」


 アークの目がひなたの後ろにぴったりくっついているセナードに向けられる。他国の王子とあって正式な礼を取るものの、アークの表情が崩れる事はない。

 何せ今の時期は竜の本能むき出しのアーク。ひなたはともかく、王子とは言え自分以外の男が美波に近付くのを良しとは言えない。同じ竜の血を濃く引く者としてセナードもそれは分かっているのだろう。そんなアークを批難したり、無理に押し入ろうとはしなかった。


 だがそれはそれ、これはこれ。

 セナードはセナードで片時でもひなたを手放すなんて我慢できない。


「セナード……?」


 美波に会いたいと、恐る恐る後ろを振り返るひなた。彼女が自分から離れ、アークの自宅へ行く事を拒否するようにぎゅっと腰を抱く腕に力を篭めるセナード。妻と子を守るため男が自宅に入る事を許容できないアーク。


「…………」

「…………」

「…………」


 口数の多くない三人によるそれぞれの無言の主張。

 結局と言うか、やっぱりというか、折れたのはひなただった。


「あの、これ……、美波さんにお渡しください。今の時期食べられるものが限られると思うので、果実の詰め合わせです」

「あぁ。感謝する」


 軽く頭を下げてその場を辞する。居間の窓からその様子を見ていたのか、事情を察した美波が家の中から手を振ってくれた。彼女に手を振り返して、折角此処まで来たのにと、泣く泣くひなたはセナードと共に白の国に帰ったのだった。

 


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