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ロリコン君と生徒会長さん  作者: 山彦八里
ロリコン君と生徒会長さん
3/10

秋もセクハラ

秋です。

「文化祭終了、お疲れ様!」


 10月。鮮やかな紅葉と共に少し肌寒くなった某日。


 3日間続いた文化祭もようやく終わり、余り物のジュースで乾杯する生徒会一同はほっと一息ついた。。

 今回は一部イベントを除いて、皆殆ど出ずっぱりで出店を楽しむ余裕などなかった。数時間ぶりに椅子に座った者もいるほどだ。


 だが、この忙しさも生徒会の醍醐味だろう。

 この後も続く後片付けのことを考えると鬱になるが、だからこそ今は皆何もかもを忘れて祭りの残滓を惜しんでいる。


 机の上には短い時間を縫って確保した各自の戦利品と、写真部から買った文化祭を切り取った一瞬の数々が所狭しと広げられている。


「いやー会長の写真は飛ぶように売れたみたいすっすね。写真部ウハウハっすよ!」

「よし、会計。明日は写真部の監査だ。絞り取れ」

「――了解」


「あと一応聞いておくが、風紀上問題のある写真はないな? バンド発表などは随分白熱していたようだが?」

「大丈夫っす。会長のパンチラ、ブラチラとかの際どい写真はネガごと回収したっす――副会長が」

「え?」

「あ……てへ」


 書記は精一杯可愛らしく舌を出すが、そんなのが効く会長ではない。


「何をやってるんだ、書記! 変態に燃料与えてどうする! これ以上アイツが変態になったら私もさすがに付き合い方を考えるぞ!?」

「……」

「な、なんだそのもう手遅れだよ、みたいな目は?」

「自覚はあるんっすね」

「……神は死んだ」


「お疲れ様です、会長、皆さん」


 がくりと肩を落とす会長の元へ元凶が帰って来た。

 手には交渉で手に入れた各出店の余り物が満載している。

 歓声を上げて皆が群がるのを笑顔のまま捌いていく。


「あ、写真もう焼けたんですね。やはり暗室があると早いですね。写真部に提供した甲斐が――」

「出せ、副会長!!」

「何をですか? ワタアメは売り切れでしたよ?」

「何で私の好物を――じゃなくて! 君が回収した私の写真だ!」


「――問題ありません。すべて処理してあります」


「そ・れ・が・不安なんだ! 私の手で消し去ってやる!」

「……すみません、現物は残っていません」

「そ、そうか……現物は?」

「画像はしっかりと記憶しました。必要でしたら描き出しますが? 会長の水玉模様もしっかりと」

「悪滅ッ!」


 悪は去った、主に壁際に。

 きちんと残心をした後、会長はゆっくりと椅子に座り直した。


「あ、会長。一発芸大会の写真はありますよ」


 同時に渉外の一言にピシリと凍りついた。


 どれどれ、と写真に群がった役員たちが驚愕とともに騒ぎ出す。

 渉外が手に持つ写真の中には魔法少女的な服を着せられた会長の姿があった。副会長とコンビ、という名の生贄として出場した一発芸大会の時の一幕だ。

 写真の中で会長の着ているピンクと白のフリフリの衣装は副会長と書記の合作だ。無論、サイズも会長にジャストフィットしている。


「あーこれは凄かったっすね。副会長の一発芸“早着替えさせ”」

「まったくダ。その後会長もノリノリで歌い出すし」

「――詳しく」

「ラジャーっす! ビデオもあるっすよ!」

「やめろ……」


 会計は無言でスルーしてビデオを再生した。

 画面の中、副会長の手により一瞬で制服から魔法少女ルックに早着替えした会長が、割れんばかりの歓声の中、軽快に歌い、ステージを所狭しと動き回り踊っている。

 その顔は離れていても分かるほどに真っ赤だ。


 実は一部生徒会役員で仕込んだサプライズだったのだ。


 そんな突発的イベントにもきっちり応えるのはさすがは会長、きっちり曲と照明を仕込んでいる辺りはさすがは副会長といったところか。


「――これはすごい」


 会計が巻き戻して再び再生する。

 当の会長は部屋の隅で顔を赤くして項垂れている。


「思い出させるな。恥ずかしくて死にたくなる」

「合同朗読会もあの方向で行きますか?」

「却下だ!」


 会長が復活した副会長とじゃれあう中、会計はさらに連続写真で撮られた一連の早着替えさせをパラパラ漫画のようにめくっている。

 完璧なタイミングで切り替えられた服に挟まれて会長の下着類は写真に写っていない。

 まさに匠の技だ。


「――副会長」


 呼んで、くいくいと副会長の袖を引く。副会長と一緒に何故か会長も振り向くが御愛嬌だろう。


「――早着替えさせ、興味深い。是非教えてほしい」

「教えて、と言われても、けっこう力技ですよ?」

「――なら見たい、ナマで」

「そこまで言われるのなら……」


 他に使い道がなく生徒会室で放置されていた魔法少女服(コスプレ)を引っ張り出す。

 逆の手で会長の手を取って立たせる。

 テンションだだ上がりの役員一同から盛大な拍手があがる。


「お前達は私を何だと……」

「――尊い犠牲」

「大体そんなこと言って、副会長に他の子を触らせたら不機嫌になる癖にー」

「……渉外、イエローカード1枚だ」

「横暴反対!」


「まあまあ、ここは会長にひと肌脱いで貰うので手打ちとするっす」

「1枚で済まないだろうが!」

「いつかのスリーサイズのお返しっす」

「うぐ……」


「あ、もういいですか? 脱がしますよ? あれ、着せますよ、かな?」

「君はホントに……」


 何かを諦めて脱力する会長の隣に笑顔で手をわきわきさせた副会長が立ち、期待に静まる一同を前にコホンとわざとらしく咳払いする。


「それでですね。この早着替えさせのポイントは2つです。着ている服を一気に落とすこと、着せる服を一気に被せることです」

「超力技っすね!」

「――着る服がズボンタイプだったら?」

「逆方向でやりますね。ただ上半身はどうしても被せて着せるので精度は落ちます」


 実はズボラで面倒臭がり屋で低血糖で朝に弱いというウルトラコンボをかます姉を素早く着替えさせるために編み出した努力の技なのだが、事情を知らない皆からは変態の手管位にしか思われていないだろう。

 現状、その認識は間違っていないが。


「じゃあいきます――ほい」


 瞬間、目の前に魔法少女的な何かが出現した。


 ふわりと膨らんだスカート、きゅっと締まったウエスト、胸が無い分、肩口は大きく開いており何気に色っぽい。


 生徒会室が拍手喝さいに包まれる。

 蒸着もびっくりな早着替えだ。足元に落ちている制服が無ければ着替えだとは分からないだろう。


 そして、着ているのは合法ロリのツインテール生徒会長だ。見た目は可憐、話せば快活と二度美味しいのだ。

 後ろ手にもじもじして恥ずかしがっている姿も常とのギャップでさらに倍率ドン!だ。

 ハートキャッチされた女衆の目がどこか危険な色に染まり、一発芸大会を観に行けなかった男衆のテンションがマックスハートに突入している。


(まったくこいつらは……)


 アンコールが響く中、会長は小さくため息をつき、何だかんだで苦笑した。

 この雰囲気にももう慣れてしまった。


(悪くない。ああ、悪くないな……)


 感慨深げに頷いた次の瞬間、どこからともなくスク水を取り出した副会長に回し蹴りをかましていた。

 スク水を握りしめたまま吹っ飛ぶ副会長を尻目に、やっぱこれだよね的な空気が生徒会室を包んだ。



 ◇



「そういえば会長、リボン変えたンすか?」


 ようやく制裁と喧騒が落ち着いた時、渉外が目ざとく会長の変化を見つけていた。

 現在会長が着けているのは落ち着いた色合いのリボンで、いつも着けていた物より明らかにワンランク上の品だ。


「う、うむ、これか。この前一緒に買い物に行ったときに……アイツがくれたんだ」


 アイツ、などとぼかして言っても丸分かりだ。

 むしろここで違う名前が出てきたら収拾がつかなくなるだろう。


「なになにプレゼントっすか?」

「――詳しく」


 会長弄りの空気を察して書記と会計も寄って来た。

 事情を聞くと二人して顔を見合わせる。


「それデートじゃないっすか?」

「ち、ちがう! 今度の他校との合同朗読会で読む本の下見に行っただけだ!」

「――二人だけ?」

「残業でもないのに休日出勤させるのも悪いだろう」

「だが副会長は除くっすか?」

「うぐ……」


 二人がかりの攻めに言い返せず言葉に詰まる。

 リボンを変えたことは誰かに指摘されるだろうと覚悟していた。むしろして欲しかったような気もする。

 それでも今日という日は、このリボンを着けて来たかったのだ。


(本当にデートじゃなかったのだ……)


 回るべき所を見て、事務的な会話をして、手早く昼食を摂り、そのまま解散しただけだ。

 いつの間に買ったのか分からなかったこのリボンがプレゼントされなければ、本当にただの業務で終わっただろう。

 呼び出したのは彼女からだ。

 だが、嫌な顔一つしない副会長に期待していなかったといえば嘘になる。


 そっとリボンに触れる。


 副会長も時と場所は選ぶ。

 人前で彼女に恥をかかせるようなことはしない。むしろ完璧なエスコートを目指す。

 目立たないが、今までもそうして何度となく助けられてきた。


 そんな彼だから、人前で触れてくることはないのだ。


 それが少しだけ物足りない辺り、自分はもうだめかもしれない。

高校時代、文化祭のテーマが「裸」の時がありました。

サプライズステージで担任を女装させたクラスもありました。

そんな日々、プライスレス。


次で本編ラストです。

読んでくださり、ありがとうございました。


それでは。

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