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ロリコン君と生徒会長さん  作者: 山彦八里
ロリコン君と生徒会長さん
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春の告白

 5月。風が薫り、新緑が芽吹く季節。

 ここはN県某所のとある町のとある高校。

 創立30年。自由な校風がウリであることを除けば特に何も特徴のない高校だったのだが、最近、ある名物が出来た。


「「お疲れ様です、会長!」」


 廊下を歩くツインテールの少女にすれ違った生徒が挨拶を交わす。

 声に応じて振り向く彼女は美少女と言って差し支えない美貌だ。

 艶やかな髪、くっきりとした目鼻と桜色の唇、軽く朱の差した頬。同時に目には爛々とした輝きが宿り、少女の人形のような造形を人間的な美しさへと昇華させている。

 さらに、ピンと背筋を伸ばしたその姿には、そこに居るだけで自然と人を惹きつける上に立つ者の雰囲気がある。


「君らは陸上部だったな。今から練習か、頑張ってくれ」


 そう言って少女は溌剌と笑い、言葉を交わす生徒たちを見上げる(・ ・ ・ ・)

 そう、彼女こそがこの学校の新たな名物。



 ロリっ娘生徒会長である。



 1ヶ月前に圧倒的な人気で生徒会長に就任した身長139センチの彼女だが、無論、見かけだけではない。

 文武両道、成績優秀、公明正大、威風堂々、勇猛果敢etc.

 彼女に付属する四文字熟語でその性格は察するに余りあるだろう。

 さらには就任と同時に周辺校と積極的に交友を結び、瞬く間に地域の学生代表となった辣腕家でもある。


 一見して順風満帆に見える生徒会ライフだが、そんな彼女にも悩みらしきものはあるのだ。

 それは――


 生徒会室と書かれたプレートのかかった扉の前で一度足を止め、深呼吸してから開ける。

 この中では何があってもおかしくないのだ。


「おはよう、諸君!」


 声と共に勢いよく扉を開ける。

 中には彼女の部下たる生徒会役員が揃っている。


「おはようっす、会長ー」


 手前の席にはぐでーんと巨乳を机の上に乗せてだらけている書記が座っている。

 議事録の作成が主な仕事だが、会長が忙しい時は提出書類の手伝いもしている。


「――」


 その隣、無言で会釈するのは会計だ。

 無口だが仕事は確実だ。セッションがあると言って必ず定時にあがるが、1年の頃から仕事を残したことがない。


「あ、お疲れサンです」


 窓際で忙しくなくメールを打っているのは渉外だ。

 イケメンの部類だがいわゆるチャラい外見な上、内申点の為に生徒会に入ったと公言して憚らない人物だ。

 だが、意外にも仕事には誠実で、ぶつかりがちな文化系と体育会系の部活の仲をよく取り持っている。

 その他数人の役職のない後輩役員で生徒会は構成されている。


 あと、1人を除いて。


「む、副会長はまだか?」

「いえ、こちらに」


 部屋を見回す会長の足元、机の下からぬるりと頭が生えてきた。

 中肉中背で眼鏡をかけた平凡な外見の男子生徒。

 会長のオーラに隠れがちだが、彼こそが今年度生徒会の副会長なのだ。


「……なぜそんな所に?」

「痛んでいた机のキャスターを取り換えていたんです。会長は今日も爽やかな縞パンニーソでお美しいですね」

「そうか」


 副会長は伏したまま会長のスカートの中身を見上げ、頷き、次いで目の前にあるニーソをペタペタと触る。

 暫くして満足したのか、匍匐前進の要領で机の下から這い出て来た。


 会長はその体をまたぐようにして仁王立ちする。無言で佇むその背には修羅が宿っている。

 さりげなく他の役員が距離を取るなか、おもむろに会長の口が開いた。


「さて、副会長。今期の標語を覚えているか?」

「はい、“セクハラには天誅を!”ですね。今さらですがよく職員室通りましたよね、これ……あれ?」


 会長はそのまま副会長の両脚を抱え上げ、それぞれ脇の下で挟み込む。

 副会長の下半身がシャチホコよろしく反り上がる。


「あのぅ、会長。僕の脚はそっち向きにはあまり曲がらないんですが?」

「遺言はあるか?」

「我が生涯に一片の――」

「判決、死刑!」


 会長の両腕が副会長の足を引き絞り、背と腰と完全に極めた。


「アダダダダ!! あ、でも会長のお尻の感触が……」

「ジャッジメントッ!」

「ガァアアッ!」


「おおっと! 会長の逆エビ固めが極まったー! これは痛い! 副会長、タップもできずにダウンかー!! ……さてと、仕事仕事」

「――会長まさかのネタ潰し」


 書記がおざなりに実況を終え、会計がぽつりと感想を呟く。ちなみにこれが本日この部屋で会計が発した初めての言葉である。

 その奥では渉外が笑いながら写メを撮っており、他の者もそれぞれ和んだり笑ったりしながら自分の仕事を片付けている。


 副会長がセクハラし、会長が制裁するのは彼らの日常風景だ。

 仕事はきちんと片付けるし、周りに飛び火もしない。さらに両者とも外面は完璧だ。外部に漏らすことなどない。

 初めこそ戸惑ったものの、二人なりのスキンシップだと皆、言葉でなく心で理解した。


「まあ、副会長は最初からフルスロットルだったっすからね」

「――同意」


 頷く2人は1月前、2年に上がった直後の4月を回想する。

 この高校では3月に新2年から生徒会長が決まった後、自薦による役員の募集をかける。

 殆どは1年の時に役員をしていた者が繰り上がりでなるのだが、稀に外部から加わる者もいる。

 書記と会計は前者、副会長と渉外は後者だ。ちなみに後者の抜擢は職員からは不安視されてたが仕事ぶりで納得させた。


 会長就任演説の次の日、副会長は自薦の為に生徒会室を訪れた。

 そして、彼を見た会長が何故か固まっているのを見て取ると、満面の笑顔で言ったのだ。



「結婚を前提にベッドインしてください!!」




「……あれには爆笑したっす」

「――最低のプロポーズ」


「ああ、私がコークスクリューを閃いた記念日だな」


 制裁を終えた会長が一番奥の定位置のパイプイスに座る。


「イタタ……僕との再会の日を記念日にしてくださるなんてありがとうございます」


 立ち上がり、体をほぐした副会長もいつものパイプイス――会長の隣に座った。

 二人が並ぶ姿があまりに自然すぎて一瞬前の制裁が嘘のように思えてくる。


「あ、相変わらずタフっすね」

「鍛えてますから。あ、会長、リボン解けかけてますよ」

「ん、どっちだ?」


 犬の尻尾のようにツインテールを振って確かめようとする会長。

 子犬めいた姿が愛らしく、一同の心がほっこりする。

 常は凛としているのに、ちょっとした所で隙があるのも人気の秘訣だ。


「っとと、結びますよ」


 そんな中ですっと会長の背後に立った副会長は慣れた手つきでリボンを結び直した。

 さらにどこからともなく櫛を取り出し、ツインテール全体を軽く整えた。

 会長の艶やかな髪は櫛がかかることもなく、手入れもすぐに終わった。


「ん、ありがとう。相変わらず手慣れているな」

「お粗末さまです。まあ、手のかかる姉妹に挟まれていたらこんなもんですよ」


(相変わらずあの二人の仲は分からないっすね)

(――昨日の敵は今日の友)

(てか、付き合ってんじゃないの?日曜日にデートしてるの見たって知り合いの女の子から聞いたぜ)


 役員達の内緒話には気付かず会長と副会長は己の仕事の確認を手早く終えていた。

 副会長はその内のいくつかの書類に付箋を貼って会長の前に積まれた書類の山に層をひとつ足した。


 ちょっと嫌な顔をする会長に笑顔を返そうとして、おや?と首を傾げた。


「会長、少し痩せましたね。ちゃんと食べてます?」

「……何故痩せたという所が断定口調なのだ?」

「だってヒップが61から60に減ってグボァッ!!」


 瞬間、それはそれは見事なコークスクリューブローが副会長の腹部を殴り飛ばしていた。


「……いつだ? いつ測った貴様ぁ!」


 よろよろと立ち上がった副会長は腹をさすりつつ頭に疑問符を浮かべる。


「スリーサイズって見たら分かるもんじゃないですか?」


 何気なく放たれた一言に空気が凍りついた。


 生徒会室が嫌な沈黙に包まれる。パタンと議事録を閉じる音がやけに響く。


「って、そんなわけあるか!」

「あ、女性限定ですよ」

「なおさら性質悪いわ!」


 うがー!と怒りで立ち上がっていた会長は一度深呼吸してどかりとパイプイスに腰かけた。


「ひとまず事実確認から始めよう。立て、書記。見ろ、副会長」

「そこで幼馴染を売るっすか普通!?」


 と、文句を言いながらも渋々立ち上がる辺り、書記の彼女も人が良い。

 そして、立ち上がる動作だけで揺れる二つの果実。

 会長と会計の眉がピクリと動くが女の何かに賭けて表情には出さない。


 書記は尻はすっぽり、腰はすっきり、胸はどっさりという校内でも抜群のプロポーションを誇る。

 こと男性からの人気なら会長を超える逸材なのだ。


 副会長は眼鏡を一度くいっと上げて書記を見遣ると、そっと手招きした。


「ちょっと御耳を拝借」

「あ、普通に言われると思ったっす」

「そんな酷いことはしませんよ」

「私にはしたよな!?」


 副会長はスルーした。

 会長以外にセクハラしないのが彼のポリシーである。今回は自分の冤罪?を晴らす為に誇りを曲げたのだ。

 机をぐるりと回って来て、髪を掻きあげた書記の小耳に口元を寄せる。


(上から89、56、87)


「――この女の敵ィッ!!」


 かろうじて手は出なかった。会長のお手付きがされていなければ危なかっただろう。


「あーすまんかったな。席に戻ってくれ、書記」


 さすがに申し訳ないと思ったのか、幾分優しげな声をかける会長。何の慰めにもなっていない。


「しっかし、いつの間にそんなデビルアイを取得したんだ?」

「俺も欲しい、などと言ったら制裁な、渉外」

「ヒドッ!?」


 被害の飛び火した渉外が副会長にジト目を向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。


「いつからですかねー。姉と妹の買い物に付き合って『何センチの取って来て』とか言われ続けている内に分かるようになったんです」

「――ダーウィンの法則」

「そんな適応進化は勘弁してほしいっす」


「……思ったより切実な理由だな」


 一人っ子の私には実感しにくい内容だが、と腕を組む会長。ちなみに腕を組んでも胸が引っ掛かることはない。

 胸は薄く、腰は細く、尻は可愛いのが会長だ。制服もサイズが無いので特注である。


「家に帰れば普通に下着干しといてーとか言われるんです。あの気まずさったらないですねー」

「あー俺ン家も姉貴いるから分かるわ。男の夢を返せって思うよな」


 うんうんと頷き合う男衆に対して若干気まずげに視線を背ける女衆。

 心当たりが多すぎる。家でまで女の子する元気はないのだ。


「あれ? その割には副会長は会長の諸々に欲じょ――ご執心っすよね?」


 主にニーソとかパンツとかニーソとかだが。

 当然です、と副会長は頷く。


「会長ですから! 僕にとって64・48・60は黄金比だと言っても――」

「ウィイイイタアアアアアッ!!」


 会長の両拳が副会長を吹き飛ばした。

 かろうじて光にはならなかったが、リノウムの床をゴロゴロと転がった副会長はそのままダウンしている。

 一斉攻撃のチャンスだ。


「ドア閉めろ! 記憶を失うまで殴り続けてやる!」

「――女の敵」

「今回ばかりは擁護できないっす」

「ご愁傷サマだな」


「さ、最期にもう一度だけ会長のニーソを――」

「泣け叫べそして死ねえええッ!」


 賑やかに騒ぎ続ける彼ら生徒会の一年は、まだ始まったばかりである。

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