轆轤(ろくろ)の岩
この記録は、ある過疎村の集落が一夜にして封鎖され、地図から消し去られる直前に回収された音声データの一部である。
発言者は地元の郷土史家。彼は震える声で、事件の真相と、人類が知るべきではなかった「世界の成り立ち」について語り始めていた——。
東京都と埼玉県との県境に、轆轤の岩という少し有名な巨岩が御座います。その岩は、高さにして2メートル横幅も1メートルは超えるかという程の巨大な岩で有りまして、重さにすれば2トンはあると言われております。それは標高もあまり高くない小山の頂上に位置しておりまして、その小山は、入山禁止となっているので御座います。
立ち入り禁止になりましたのはつい2週間前のことで御座います。
立ち入り禁止になったのにも理由が御座いまして、それを今からお話ししようと思うのでございます、
その理由は他でもありません。あの大岩が、前触れもなく一人でに回り始めたからでございます。
最初はほんの少し、地響きと共に数センチ動いた程度で御座いました。しかし日が経つにつれて回転は速くなり、今ではまるで陶芸のろくろの如く、凄まじい速度でぐるぐると回転し続けているのです。2トンもの巨岩が猛烈に回転する様は恐ろしく、危険故に封鎖されたのも当然でありましょう。
ただ、本当の恐怖は岩が回り出したことでは御座いません。
ろくろというものは、粘土を回転させながら「上の穴」に指を入れ、形を整えるもので御座います。
一昨日、調査隊がドローンで撮影した映像には、恐ろしいものが映っておりました。激しく回転する大岩の頂点に、雲の上から伸びた巨大な「何か」の指が、じっと突きたてられていたのでございます。
あの大岩は、ただの岩では御座いません。
天にいる何者かが、地球を形作るためにコネ回している、ただの粘土塊だったのです。
【了】
本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
日常のふとした風景に潜む「圧倒的な異物感」をテーマに筆を執りました。
古来より巨岩には神が宿ると言われますが、もしその「神」にとって我々の住む世界や歴史そのものが、ただの手びねりの土に過ぎなかったとしたら――そんな不条理な恐怖を感じていただけたなら幸いです。
またどこかの物語でお会いできることを願っております。
水瓶




