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不死者君が世界を渡って色んな人を曇らせる話  作者: 椿


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2/2

芽生え

 それから、俺はいつも通り旅を始めた。この世界には、気と呼ばれる技術があるらしい。魔法とはまた別種の、身体を巡る力を応用した技とのことだ。


 それらを学びながら、色々な場所を巡っていく。そういう生活をしていた。


 変わったところと言えば……


 「お兄さん、アレ食べたい。お金ちょーだい」


 「君、また散財したの? 貯蓄とかしないと駄目だよ?」


 「……? お兄さんが居るのに、どうして私がそんなことしないといけないの?」


 この黒髪のロリッ娘……タツミが、ずっと付いてくることか。


 タツミは俺の何が気に入ったのか、ことある毎に殺し合いをしたがる。俺は程々に手加減しつつ、彼女の刀を甘んじて受けているのだが、如何せん手を抜きすぎるとバレる。そうすると彼女の機嫌は死ぬほど悪くなる。


 何十回と殺されるのは当たり前で、その上意味不明な要求までされる。血を飲ませろとか、普通に意味が分からない。俺の血なんて、きっと臭くてマズイだろうに。


 しかしこの少女、見た目だけは良い。出会った当初は汚らしい子供だったが、道中で俺が身綺麗にした甲斐もあり、容姿端麗といって差し支えないだろう。中身は子供のままだが。


 巷では『剣鬼』なんて渾名まで付けられている。この人の金で飲み食いするガキがだぞ?


 「今、悪口言ったでしょ。後でお仕置きね」


 「おぉ、すまんすまん。このハンバーグあげるから許して」


 「……エビフライも頂戴。食べさせて」


 「はいはい……あーん」


 「ん……美味しい」


 しかし、今までの旅は基本的に一人旅だったから、傍に誰かが居るというのは中々新鮮だ。


 いや、そもそも前の世界はコミュニケーションすら取れない世界だったから、こうして会話出来るのも有り難く思える。意味の分からない超音波を聞くのは、意外と精神にくるからな。


 「……何?」


 「いや、タツミは可愛いなと思って」


 「そう……そっか」


 「お、照れた。案外表情豊かだよな」


 「…………うるさい」


 人前で揶揄っても、刀を抜かなくなったのは立派だ。まぁ、後で気が済むまで戦わせられるのだが、それに眼を瞑れば中々愛らしい少女である。


 旅は順調だ。この世界は大きな戦争も無く、国同士の小競り合いはあるものの、比較的平和な世界と言える。つい数週間前まで居た国が消滅していたり、行こうと思っていた場所が灰に埋もれていたりしない。なんと素晴らしいことか。


 「はい、今日もやるよ。ちゃんと本気でやってね」


 「へいへい……なぁ、ちょっと小細工しても良いか?」


 「良いよ。死力を尽くして」


 タツミの成長速度は異常だ。数千年の経験を持つこの俺を相手に、純粋な技術のみで並び立ってくる。近頃はいくつかの技を併用しないと、戦いにすらならない。だから今回も、初見殺しを多様する。


 「はい、じゃあこのコインが落ちたらスタートな」


 「あぁ。いつでも良いぞ」


 コインが落ちる。その瞬間、超速の斬撃が襲いかかる。しかし、俺の方がほんの少しだけ早かったな。


 「『動くな』」


 「っぅ……!? な、に……!?」


 「催眠ってやつよ。眼を見て、後は特定のキーワードを唱えると発動するタイプ。始まる前から仕込んでおいた」


 「~~~!!! こんな、小細工で……!」


 馬鹿め。そんな小細工如きで、お前は負けるのだ! 俺はゆっくりとタツミの傍に歩いていき、軽くデコピンをした。はい、一本。


 「俺の勝ち~。ねぇ、いまどんな気持ち?」


 「……貴方をぶち殺したい気分。でも、負けは認める。私の負け」


 「はい、じゃあ俺殺すの一週間禁止ね。次は、ちゃんと対策しておきな」


 こうやって決着が付いた後、俺たちはいつもちょっとしたお願いをする。それは、他愛も無いお願いから、少し過激なことまで色々と。まぁ、大概俺が負けてタツミの言いなりになるのだが。


 「……酷い。どうしてそんなことが出来るの? 鬼、悪魔」


 「君の方が大概だよ。まっ、諦めなさい。ほら、次の街行くよ」


 「…………むー。なら、手繋いで」


 「どういうことだよ……良いけどさ」


 旅は続く。どれくらい時間が経っただろうか。俺は時間感覚が麻痺しているので、正確な時間が分からないのだ。そして思う。この世界で旅を始めてそれなりの時間が経ったが、どうしてタツミは付いてくるのだろうと。


 「なぁ、タツミ。君と旅を始めてどれくらい経った?」


 「……? 7年と6ヶ月24日」


 「どうして君は俺に付いてくる? 何か目的があるのか?」


 「……は? 今更?」


 少女は明らかに不機嫌そうな顔をして、刀を振るった。おいおい、なんで殺す必要があるんだ?


 「そんなの、貴方のことが気になって仕方が無いか――」


 「……? タツミ、どうした?」


 「な、なんでも無い……動揺なんて、してない」


 タツミは耳まで顔を真っ赤にすると、ブツブツと独り言を言いながら俯いてしまった。仕方ないので、そんな彼女の手を引いて旅を続ける。夜が更け、野宿の準備を始めるまで、タツミはずっとそんな調子だった。


 普段は剣と戦いにしか興味の無い狂戦士の彼女にしては、些か不思議な挙動だった。


           2


 何百と剣を交えた。その度に感じる、底の深さ。彼はまだまだ、私に見せていない実力を抱えている。その全てを見て、触れて、感じて、その上で全てを征服したい。


 彼……お兄さんとの旅は、充実していた。いくつもの場所を旅し、気の技術を学び、お兄さんと殺し合う。彼は私を殺そうとしてくれないのは残念だけど、それ以上にお兄さんと何度も殺し合えるのは楽しかった。


 ずっとずっとお兄さんを見ていた。もっと、彼を知りたい。彼を殺し、彼を味わいたい。お兄さんの血を飲み始めたのは、そんな興味からだった。


 不死者たるお兄さんの血を飲めば、私もお兄さんに近づけるかもしれない。そんな思いつきで始めたことだったが、効果は確かにあった。


 まず、肉体の成長が止まった。元々貧素だった身体だが、何年経っても成長しなくなったのだ。少し残念だが、それはまぁ良い。胸や尻など、戦いにおいて不必要だから。うん、本当に。全然惜しくは無い。


 それから、傷の治りが早くなった。不死、とまではいかないが、それに近しいものになっているのだろう。吹き飛んだ腕が生えてきたのは、少しビックリした。


 気の力を併用すれば、擬似的な不老不死も可能なはずだ。彼と同じ時間を歩めることに、何故か胸がときめいた。


 「どうして君は、俺に付いてくる? 何か目的があるのか?」


 お兄さんと共に旅を始めてから数年が経ったある時、彼はそんなことを言った。本当に今更な質問だった。そんなの、理由なんて一つしかないというのに。


 「そんなの、貴方のことが気になって仕方が無いか――」


 そこまで言って、私は気付いた。お兄さんのことが気になって仕方が無いというのは、つまり、私はお兄さんのことを好いているのでは? と。


 ドキドキと、心臓がうるさかった。一度自覚すれば、それは染みこんで離れない。私はずっと、未知の感情と戦っていた。


 そもそも、お兄さんは何度斬っても死なない、都合の良い人だったはずだ。しかし、一緒に旅を続ける内、違う感情が芽生え始めていた。


 お兄さんと同じ時間を過ごして、同じ食事を食べて、何度も殺し合う。すると不思議なもので、お兄さんに情が湧き始めていた。お兄さんが違う女の人と話していると堪らなく不愉快だし、私以外がお兄さんを殺した日には、怒りが溢れて止まらなくなる。


 それはつまり……つまりは、そういうことなの、かも。


 「タツミ? 飯、食わないのか?」


 「……食べさせて」


 「はぁ? ちっとは成長したと思ったのに、まだまだガキだなぁ……」


 彼に食事を食べさせて貰う。それは本来、恥ずべき行為だ。私だって、もう子供じゃない。だというのに、お兄さんに甘えて、媚びて、食事を補助して貰っている。


 なのに、悶えて叫びそうになるほどのこの快楽は、一体何なのか? 闘争以外に、私はそれを知らない。顔が熱くて、胸が爆発しそうなほど苦しくて、それを超えるほど幸せなのだ。


 これが、誰かを愛する、というものなのだろうか?


 「寝る。おやすみ」


 「おいおい……ワガママ放題かよ」


 食事を終えれば、彼の首筋に顔を埋めて眼を瞑る。そうすると、お兄さんは文句を言いながらも、優しく背中を撫でてくれた。私は張り裂けそうな感情を抑えるように、彼の身体を強く抱きしめた。


 分からない。この感情が本当に愛なのかどうか、私には分からない。


 「おやすみ、タツミ」


 「…………♡」


 でも、そんなことはどうでも良い。ずっと、この安寧が続けば、それで。それだけが、私の望みだから。

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