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不死者君が世界を渡って色んな人を曇らせる話  作者: 椿


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1/3

--人目の被害者 タツミ

 俺は不死である。幾度死のうとも、その身体が果てることは無い。老いはするものの、死ねばまた身体は全盛期に戻される。試した事は無いが、老死しても結果は同じだろう。


 死ねないので、死なずに生きていた。一カ所に留まると面倒なことになるので、幾つもの国を渡り歩いた。しかしその内、行く場所が無くなった。世界は有限で、それ故限りがある。


 だから、違う世界に行くことにした。ただ生きるのも暇なので、俺はあらゆる技術を体得していた。その術をフルに活用し、異なる世界を渡る力を得た。そして、終わりなき旅が始まった。


 どれほどの世界を渡り歩いただろう。全てが終わった世界。機械仕掛けの世界。魔法が当たり前の世界。神々の住まう世界。数え切れないほどの世界を見てきた。


 さて、次の世界はどうだろうか。もう幾度も繰り返してきたことだが、この瞬間だけはワクワクする。次はどんな光景を、俺に見せてくれるのだろう。


 そこは森だった。ただひたすらに緑が広がっていて、空は青かった。大気や環境は俺の故郷とあまり変わりないように思える。しかし、異なる力の波動のようなものは感じる。この世界独特の技術があるのだろう。


 時間なら無限にある。この世界を旅しながら、様々な力や技術を学ぼう。それだけが、俺の唯一の趣味と呼べるものだから。


 森の景色を楽しみながら、あてもなく彷徨う。3日程度は楽しめたものの、こうも森が続くと流石に飽きてくる。空腹も死ねばリセットされるものの、不快であることに代わりは無い。早く、人里を見つけなければ。


 そして気付く。血の臭いだ。それも、さして時間が経っていない。何かが、そこには居る。

 話の出来る人物だと良いな。俺はその臭いの場所へ向かった。


 「ひ、ひぃ……! なんだ、このばけ――」


 「ぎゃあああぁあ!!! お、俺の手があぁぁああ!!!」


 「に、逃げ――!」


 そこは地獄絵図だった。少し汚らしい格好の男達が、一人の少女の手によって蹂躙されていた。まだ幼い少女の手には、一振りの刀だけがある。それが振るわれる度、血が舞う。誰一人逃がすことなく、少女は男達を切り伏せたのだった。


 「そこの君、言葉は分かるかな?」


 「…………? うん、分かるよ」


 良し、翻訳魔法がちゃんと機能している。これなら、問題は無いだろう。


 「実は、道に迷ってね。良かったら、道を――」


 瞬間、意識が飛んだ。頭を飛ばされたのだ。これは中々、良い太刀筋をしている。驚くべきは、そんな達人技を、このような少女が会得していることだろう。彼女の今後が楽しみである。


 「教えて欲しいんだ。……どうしたの?」


 「なんで? 首、飛ばしたのに」


 「俺、不死なんだ。だから意味ないよ」


 「……ほんとだ。殺せるはずなのに、死なない」


 おいおい、そんな挨拶感覚で心臓を突き刺すな。俺だって痛みはあるんだぞ? もはや、脳が出す信号の一種としか感じられないけど。


 「それで、道は分かる? お腹空いちゃってさ」


 「不死なのに、お腹は空くんだ」


 「当たり前じゃん。何言ってるの?」


 「……面白い人。良いよ、案内してあげる」


 色々あったが、俺は眼に光の無い少女……タツミの案内によって、ようやく森を抜けることが出来た。しかしこの少女、常識がなさ過ぎる。盗賊から金品を強奪するのはまだしも、臓物に濡れ、その黒髪に返り血が固まった状態で村に入ろうとしたのだ。


 「君、常識無いの?」


 「うるさい。黙って」


 そういって一度殺された。近くの川で汚れを落とし、身綺麗にして村へ入る。しかし、何というか周囲の視線が痛かった。俺に対しても、この少女にしても。


 「ひっ……! 辻斬りのガキ……! な、何しに来やがった!」


 「食べ物、頂戴。お金なら、ある」


 「そんな汚れた金、受け取れるか! お、お前! 自衛団だろ!? このガキ、捕まえてくれよ!」


 「ふざけるな! この前、あのガキを捕まえて団員が何人殺されたと思ってんだ! 俺らはもう、こいつに関わらないと決めたんだ!」


 ……どうやらこの少女、倫理観というものが欠如しているらしい。しょうがないので、俺が間に入る。この金は俺のもので、少女に助けて貰った代金として支払ったものだと。そういうと、店主は不審げな顔はしたものの、納得はしてくれたようだ。


 「……なぁ、お前さん。あのガキがなんて呼ばれてるか知ってるのか?」


 「いいや全く。俺はただ、道案内と護衛を頼んだだけだからな」


 「カーナ村の辻斬り、歩く殺人鬼だ。あいつに村人、何人殺されたことか!」


 「ふーん……それで? 飯まだか?」


 「はぁ……忠告はしたからな」


 その店は雑貨や日用品と同時に、食料品や軽食を販売していた。飲食スペースには何人か居たものの、タツミの姿を見ると全員居なくなっていた。そんな場所で一人、ちょこんと座って飯を待つ少女の元へ向かう。


 「此処へは良く来るのか?」


 「お金が出来たら、その時に。大抵、嫌な顔されるけど」


 「それはお前、血塗れで入ってきたらそうなるだろ」


 「……そっか。次から、気をつける」


 「おう、素直なのは良いことだぞー」


 「頭撫でないで」


 刀を抜いてきたので、魔法で受け止める。ここは人里だ。全く、TPOくらい弁えなさいな。


 「っ……! なに、これ……!」


 「勝手に触ったのは悪いが、刀を出すのは駄目だ。ここは人里。大人しくしてなさい」


 「…………むぅ。分かった」


 少女は明らかに不機嫌だ、という顔をしながら刀を降ろした。そこへ、団子とお茶が運ばれてきた。一つ取って頬張る。中々美味い。


 「……なんふぇ、さいしょ、とめなふぁったの?」


 「食べながら喋らない。ごっくんしなさい」


 「んっく……お兄さん、私より、強いでしょ? 何で、無抵抗で殺されるの?」


 「別に、意味なんて無いよ。殺したければ殺せば良い。どうせ死なないからね」


 おっ、このみたらし団子、中々良い味をしている。もう五本頼んでしまおう。


 「そう……そう、なんだ」


           1


 斬る。ただ、斬る。私の手にはいつからか刀があって、ただそれを振るっていた。


 動物、異形の者、人間。立ち塞がる者、仇なす者を切り伏せる。理由は、ただ一つ。


 楽しかったからだ。相手を切り裂き、血が噴き出し、絶命に至る。その時、私の身体にはゾクゾクとした快感が走る。その相手が強敵であればあるほど、その快感は強い。


 私の持つ刀は不思議な代物で、斬れば斬るほど、その鋭さを増していった。だから、私は何かを斬る度にもっと強くなれた。


 斬る。斬る。斬る。あぁ、けれど……前ほどの悦楽は、いつからか得られなくなっていた。

 皆、怯えた表情で私を見る。皆、脆くて拙い。皆、私より弱い。そんな者を斬っても、何も楽しくない。


 つまらない。何も、楽しくない。もっと、もっと――! 滾るような戦いを、私に!


 「俺、不死なんだ。だから、意味ないよ」


 その出会いは、突然だった。その日は珍しく、私を襲おうとする一団と相対していた。いつも通り、そいつらを斬っていると、突然男が現れた。


 その男は茶髪で、どこにでも居そうな顔をしていた。けれど、その眼は、今までみたどんな人よりも昏かった。その男の首を飛ばすと、しかし次の瞬間には元通りになっていた。


 男は語る。自分は不死であると。自分の名すら忘れ、アテのない旅を続けていると。


 不思議だった。確かに、斬った感触はあるのに、男は死なない。それに普通、人は自らを害した人間に対し、嫌悪感を抱くのが普通だ。なのに、男は何も変わらない。ただ、服が汚れると言って怒るだけだった。


 男は私を、ただの少女として見ている。あまりに狂っていると思った。同時に、なんて素敵なんだとも思った。


 だって、彼を何回斬っても、彼が死ぬことは無い。何度も何度も何度も、斬り殺せる。想像するだけでゾクゾクしてくる。幾度殺そうとも生き返る人なんて、私の願望をそのままにしたようだ。


 それは、私がいつからか忘れてしまった喜びだった。男は不可思議な術を使い、私を簡単に手玉にする人だ。彼と戦うことは、きっと楽しい。


 そしていつか私が彼を超え、彼を切り刻むのだ。それは彼が泣いて詫びるまでか、それとも、彼が壊れるまでか。いずれにしても、それは……


 全身が震えるほど、幸せなことだろう。 

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