アイドリングの流儀
執務室の椅子に、ずぶりと沈み込む。
配管から漏れる蒸気の音だけが、スー、スー、と響く午後。
思考、停止。
今日はもう、何もしないことに決めました。
「工場長! 姿勢が傾斜角45度を超えています! 職務怠慢です!」
全身の計器をガチャガチャ言わせて、部下のゲージが怒鳴り込んできました。
相変わらず、暑苦しい。
「ゲージ君。これはサボりではありません。
『戦略的アイドリング』です」
「は?」
「機械も人間も、過熱は禁物。
冷却期間がないと、焼き付きますよ」
プシュー……コトッ。
絶妙なタイミング。
ポッドが淹れたての特製オイル(という名の泥水のようなコーヒー)を差し出してくれます。
ガガッ、とアームを振る動きは、『いいから飲め』と言っているのでしょう。
「ヘイ・ボス! その通りだぜ!
地上の連中も、たまにはスイッチ切らないとショートしちまうって噂だ!」
ノイズが空中でくるりと回転し、いつもの適当な情報をばら撒きます。
壁の隅では、カビたちがその騒がしさに呼応して、ポワンポワンとピンク色に明滅しています。
それを見たゲージの針が、ピクリと揺れました。
「……報告。カビの発光パターン、良好。
……かわいい」
「おや、君も少し休みますか?」
湯気とオイルの香りに包まれて、また一つあくびが出る。
酸欠の頭でぼんやり思う。
まあ、悪くない一日でした。
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