蒸気とインクの一滴目
ここ、地下プラント「工場」。
配管の迷路に高温の蒸気が満ちる、終わりの世界です。
ワタシは愛用の万年筆を手に、ぼんやりと思考を巡らせていました。
今日という日の「物語の始まり」を記そうと思い立ったのです。
しかし、恒常的な酸欠のせいで、脳は遅々として動きません。
「報告します! 工場長、執筆活動は業務規定に含まれていません。現在のスケジュールに対し、生産性が著しく低下しています」
角張った巨体をきしませ、保安係のゲージが秒単位の遅れを指摘します。
「ヘイ・ボス! 堅苦しいこと言いっこなしだぜ。それより聞いたか? 地上じゃ『ブログ』ってのが流行ってるらしい。俺たちの武勇伝を電波に乗せて、ファンキーにブチ上げようぜ!」
スピーカーの集合体であるノイズが、どこで拾ったのか分からない嘘か本当か不明な情報をがなり立てました。
ガガッ(怒り)。
給油係のポッドがノイズのアームを叩き、プシュー(肯定)と優しく蒸気を吐いて、ワタシに錆びたカップを差し出します。
中身は少しオイル臭い白湯。世話焼きな彼なりの、休憩の合図です。
ふと見れば、壁の隅ではカビが湿気に呼応して嬉しそうに明滅し、その可愛らしさにゲージがフリーズしています。
結局、万年筆は紙の上を滑っただけ。
ページは白紙のままですが、インクの補充はまた今度としましょう。
まあ、悪くない始まりでした。
お読みいただき、ありがとうございました!
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酸欠ペン工場(@lofiink) [https://x.com/lofiink]




