第4話 ハンバーグと最近の冒険者事情
「今日は定休日なんですよ!」
そう言いながらマリーは店の鍵を開け、ストリックランドを中に案内した。
「他に誰もいないのか?」
「そうなんです。以前はバイトの子も一人いたんですけど辞めちゃって……今は私一人でどうにかしてます」
「そうなのか」
店の中はそれほど広くはなく、こじんまりとしていたものの、掃除が行き届いていて、小奇麗な印象を受けた。
マリーはストリックランドを席に案内すると、厨房に入って料理を始めた。そして、しばらくするとハンバーグを出してきた。
ストリックランドは料理を口にするや否や、あっという間に食べ終えた。腹があまりにも減っていたからだ。
「味はどうでしたか?」
「美味いな」
「いやあ、良かったです!」
彼は一言だけ感想を述べると、ナイフとフォークを雑に皿に置いた。
マリーは、食べ終わった後の食器を洗いはじめた。
その間、ストリックランドは天井を見つめながら考えていた。彼の頭を悩ませているのは、今後の身の振り方をどうすべきかである。
今日は運良く腹を満たすことができたが、明日はどうなるか分からない。さらにその先の日々は言うまでもない。もとより冒険者の暮らしというものは、将来の保障がないものなのだ。
しばらく黙考した後、ストリックランドの中でふと、ある考えが浮かんできた。
「マリー、実は一つお願いがあるんだ」
「はい、何でしょうか?」
「俺をこの店で雇ってくれないか」
「え!? ストリックランドさんをですか!?」
「さっき、バイトがいなくなって人手が足りないようなことを言ってただろう?」
「た、確かにそうですね……。分かりました! かまいませんよ!」
マリーはストリックランドの姿を一瞥して、一瞬悩んだもののすぐに了承した。
思いのほかあっさりと了承を得られたことに彼は少しだけ驚いたが、特にそのことについて口にしなかった。とにかく希望が通れば何も問題はないのだ。
「ですけど、ヒゲを剃って、服装もきちんとしてもらいますからね!」
「もちろんだ。俺だって、こんな姿の店員が飯を運んできたらぎょっとする」
さすがのストリックランドでも、今の身なりのまま働こうという気はなかった。
「でも、冒険者としての仕事は大丈夫なんですか?」
「最近は、冒険者ギルドに行っても、俺が得意とする仕事がほとんどないんだ。だから思い切って、どこかで安定した仕事にでも就こうかと考えていたんだ」
ストリックランドは、そろそろ潮時ではないかとずっと考えていた。つまり、冒険者ギルドの仕事でやっていけないとなれば、思い切って王都などで安定した仕事に就く頃合いではないか、と。
魔王が討伐される以前は、冒険者ギルドには彼の得意とする「討伐系」のクエストがいくつも発注されていた。
そのような仕事で必要とされるのは、つまるところ暴力だった。暴力は彼の専門だった。
暴力を向ける対象は、群れで襲い掛かってくる魔物だったり、商人を狙う盗賊だったりしたが、とにかく何かを打ち倒せばよいという分かりやすいものだった。
しかし皮肉にも、彼自身の手によって、そのような分かりやすい時代に幕が降ろされた。
勇者ストリックランドが率いる冒険者パーティによって魔王が討伐されて以降、冒険者ギルドで発注されるクエストの傾向が変わってきた。魔物も盗賊もめっきり居なくなり、暴力が必要とされる場面が減ってきたのだ。
いま冒険者ギルドには、討伐系のクエストはあまり発注されない。
逆にあるのは、報酬の安いものでは、薬草や鉱石を採取したりする仕事だったり、高報酬のものでは、他国の商人に対する通訳の仕事だったりだ。そういった、地道さや社会的な振る舞いが求められる仕事は、ストリックランドがとにかく苦手とするところだった。
どうせ苦手な仕事ばかりするなら、わざわざ不安定な冒険者生活を続けるよりは、もっと安定した形態で働くべきだと、ストリックランドは考えていた。
マリーとの出会いは、まさにタイミング的に丁度良かった。
こうして、彼はマリーの店で働くことになった。




