第24話 勇者パーティ2.0
「もう挨拶は済ませたのか? ストリックランド」
「ああ……。それにしても、わざわざこんな場所を待ち合わせ場所に選ぶな」
「ははは、久しぶりにこれを見たくなってな」
王都の広場にある噴水で、ストリックランドとフェイは落ち合った。
噴水の中央には、勇者ストリックランドの銅像が建っている。
「まったく……」
そう言いながらストリックランドは銅像を見た。
だがどうだろう、以前にこの銅像を前にしたときのような惨めさは、今は感じない。
それどころか、銅像が、彼の新しい門出を祝っているかのようにも感じられた。
「リタは来れないらしいな」
フェイがストリックランドに聞いた。
「孤児院の運営で忙しいらしい。まあ、仕方ない」
「なるほど……残念だが、仕方ないな。それじゃあ、行くか」
二人は王都の冒険者ギルドに向かった。
◆◆◆
「お待ちしておりました! こちらへどうぞ!」
ギルドに入ると、受付嬢が部屋に案内した。
部屋には魔族の女が一人座っていた。ルーチェである。
「あ、お二人とも。お久しぶりです」
「エレノアの件では世話になったな」
ストリックランドは変身魔法の使い手に感謝した。
彼女がいなければ、彼は今この世にいなかっただろう。
「ストリックランド様、持ってきましたよ!」
そこへ、さっきの受付嬢が入ってきた。細長い大きな木箱を携えている。
「そこへ置いてくれ」
「はい!」
受付嬢は言われたとおりテーブルに木箱を置いた。
「何ですか、それ?」
ルーチェが聞いた。
「見ればわかるさ」
ストリックランドはそう言いながら箱を開けた。
「あっ、これはまさか」
「ああ、人々は『勇者の剣』と呼んでいる。……エレノアに奪われるところだったが、戻ってきてよかった」
箱に入っていたのは、美麗な装飾が施された鞘に納まった剣だった。
「久しぶりだな」
ストリックランドは剣を鞘から半分ほど抜いた。
その刃はまばゆく輝いており、彼の顔をはっきりと反射した。
「ここでパーティ登録の手続きをしますか?」
「ああ、そうしよう」
受付嬢にそう言うと、彼らは冒険者パーティ登録の手続きを始めた。
こうして、ストリックランド、フェイ、ルーチェの三人は、冒険者パーティのメンバーとして正式に登録された。
「で、姫様ってのはどこにいるんだ?」
冒険者ギルドを出て、ストリックランドがルーチェに聞いた。
「はい、案内します」
◆◆◆
三人は馬車を何度か乗り継いだ後、徒歩で森の中を進んでいた。
そこは、魔王国との国境沿いの森だった。
「ここです」
道を進むと見えてきたのは、山小屋だった。
一見すると簡素な小屋だったが、巧妙に魔法によって結界が張り巡らされているのを、ストリックランドとフェイは見逃さなかった。
ルーチェは山小屋の扉を叩くと、少し間を置いて扉の向こうから若い女の声が返ってきた。
「レッドドラゴンの角は?」
合言葉である。ルーチェはすぐにこう答えた。
「今日も鈍く輝いている」
すると、扉が開いた。
「久しぶり、ルーチェ」
「姫様!」
小屋の中には、姫様と呼ばれた少女がいた。
頭部に生える赤い角と尖った耳は、ルーチェと同様魔族の特徴である。
朱色のドレスに身を包んだ少女は、ストリックランドとフェイの方を見た。
「あなた方が、ストリックランドさんと、フェイさんですね」
「ああ」
「よろしくな」
「私は、クラウディアといいます。先代魔王の娘で、穏健派の代表です。よろしくお願いします」
「クラウディア、その件で最初に聞かなきゃいけないことがある」
ストリックランドが言った。
「……何でしょう?」
「あんたは、俺たちを恨んでいないのか? 仕事とはいえ、あんたの父親を殺したのは俺たちだぞ」
「……それは、正直、複雑な気持ちではあります。ですが私は、個人的な感情と切り分けて、人間たちとの共存を実現したいと思っているのです。そのために、あなた方とドゥエック将軍の討伐を成し遂げたいと思っています」
クラウディアは毅然とした態度で言った。
「分かった……立派な姫様だな」
ストリックランドは納得した。
と同時に、彼女は自分とは違うタイプのようだと思った。
ストリックランドは、一見すると自分勝手だが、与えられた使命にはなんだかんだ忠実な人間だ。一方でクラウディアは、自分で自分に使命を課すことができるタイプのようだった。
だからといって、彼女を仲間に引き入れることに抵抗があるわけではなかった。
むしろ、冒険者パーティは多様な特性を持つメンバーが揃っていた方が、状況に対して柔軟に対処できるというのが、彼の経験則だった。
「ドゥエックの討伐……長い旅路になるかもしれないが、着いて来れそうか?」
ストリックランドはクラウディアに尋ねた。幼い子供に優しく問いかけるような聞き方だった。
「あら? 甘く見ないでくださるかしら。私はこう見えて、忍耐には自信があります」
クラウディアは自信満々に答えた。
「なるほど、あんたは良い冒険者になるかもな」
ストリックランドはニヤリと笑って言った。
こうして、クラウディアが仲間に加わった。
新しい勇者パーティは、人間が二人、魔族が二人という類を見ない構成だ。
そして四人は、森の中へと進んでいった。向かう先は、ドゥエック将軍率いる魔王軍の残党のもとだ。
勇者ストリックランドは高揚していた。こんな気分は久しぶりだった。
魔王討伐を成し遂げてからの三年間、彼は自堕落な暮らしばかりしていた。
しかし、マリーのもとで働くことになり、彼は自分自身を見つめ直す機会を得た。そして、自身のアイデンティティはまさに「勇者」であると悟った。
平和な時代においても、争いの火種は存在している。その火種が、まだ勇者の力を必要としている。
勇者には使命が必要だ。
しかし、彼が新たな任務を成し遂げ、再び世に平穏をもたらしたとき、彼は使命を失うことになる。
それでも、以前のように自堕落な生活に戻ることはないだろう。
彼には、戻るべき居場所ができたのだから。




