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第16話 牢屋にて

「なんであんたがここにいるのよ!?」

「いたら、まずいか? どうせ俺を捕まえようとしてたんだから、好都合だろ?」

「あなた一体何を考えて……まあいいわ。憲兵たち、彼を拘束しなさい」


 ストリックランドはその場で拘束され、牢屋に連れられた。


 檻の中は、特殊な結界が張り巡らされていて、魔法を使うことはできないようになっている。

 魔力に由来するストリックランドの怪力も、ここでは発揮できない。


「ここがあなたの場所よ。感謝してね、友人と再会できる場所にしてあげたんだから」


 牢屋に入ったストリックランドは、向かいの牢の中に、見覚えのある女性が壁にもたれかかって寝ているのを見た。


「リタ!」


 ストリックランドがそう言うと、リタと呼ばれた女性は目を覚ました。


「……ストリックランド? あんたもここに来たの!?」

「ああそうだ、そこの女に捕まってな」


 ストリックランドがエレノアの方をちらりと見る。エレノアは不敵な笑みを浮かべていた。


「ああ、そこのクソ女ね。私もよ」


 クソ女呼ばわりされても、エレノアは自信満々だった。リタとストリックランドの二人をついに捕えることができたからだ。


「それじゃあ私は行くわ。二人とも、罪人同士仲良くすることね。ああそうそう、ストリックランド、あなた、私への殺人未遂も罪状に加わったから、極刑も覚悟しておくことね」


 そう言って、エレノアは去っていった。

 見張りの兵士だけが、黙って二人を見ている。


「……リタ、お前はどんなふざけた罪状で捕まったんだ?」

「私、国王からもらった報奨金で、孤児院を建てたの知ってるでしょ」

「ああ」

「ある日、エレノアがやって来て、『孤児院で不正会計が見つかった』とか『不正な手段で国からの支援金を請求している』とか言ってきたのよ。もちろんそんなことしてないわ。でも私が反論すると、憲兵団で孤児院を取り囲むぞとか脅してきたのよ!」

「ひどい話だ」

「そんなの子供たちに見せられるわけないでしょ。だから仕方なく、捕まってやったのよ」

「俺と似たパターンだな」

「ストリックランド、あんたはどうなの?」


 ストリックランドはここまでの顛末を説明した。見張りの兵士がいるので、冒険者ギルドに手紙を出した件は黙っておいた。


「へえ、なるほどね……。それにしても、あんたがレストランの店員なんて……あははは!」

「何がおかしい」

「いやだって、冒険者以外に出来る仕事あるとは思わないじゃん」

「こう見えて、けっこう優秀な店員だったぞ」

「へえ、どのくらい?」

「皿を割らない程度にだ」

「何それ、あはははは!」


 それから、二人は過去の思い出話に花を咲かせた。

 そうしているうちに夜になり、二人は眠りについた。


◆◆◆


「……ストリックランド……聞こえる?」


 深夜、寝ていたストリックランドの耳に、小さな声が届いた。


「……? なんだ……?」


 目を覚ましたストリックランドは、周囲を見回した。

 すると、壁際の床に、微光を放つ小さな花が咲いているのを見つけた。


「何だこれは……?」


 ストリックランドが小声でつぶやく。

 よく見ると、花の茎はツル状で、リタの牢屋の方から伸びている。


「リタ……なのか?」

「そう、私よ」


 ストリックランドは、花に小さな声で話しかけてみた。すると、花びらが振動して、リタの声が小さく聞こえた。


「これは、遠隔で会話する魔法か?」

「そんなところね」

「ここでは魔法は使えないんじゃないのか?」

「これは古い魔術の一種で、魔力をほとんど使わないの。そのおかげか、魔力制限の結界の隙をついて発動できるみたい」

「そんな便利なものがあったのか」


 ストリックランドはリタの檻の方を見たが、寝ているようにしか見えなかった。見張りの兵士も、二人が会話しているとは思っていないようだ。


「……あんた、死刑になるかもしれないんでしょ」

「らしいな」

「私が逃がしてあげるわ」

「できるのか?」

「うん。……その花に魔力を込めてみて。ごく微量ずつなら、檻の魔力制限にも引っかからないわ」

「それでどうなる?」

「私の方からも魔力を注入するわ。そうすると、茎の中間地点、ちょうどあんたと私の檻の間で、魔力がぶつかって花が咲くの。その花を簡易的な魔法陣として利用できるわ。檻の外なら、強力な魔法が発動できるはず」

「器用なことができるもんだな」


 ストリックランドは感心した。


「あんまり複雑な魔法は発動できないから、シンプルな爆発魔法で檻を吹き飛ばすつもりよ。爆発の音で周りにバレると思うけど、あんたを止められる人間なんてそうそういないだろうから、逃げ切れるでしょ」

「爆発魔法となると、俺は軽症で済むだろうが、お前は大丈夫なのか?」

「檻が壊れた瞬間に、防御魔法を展開するわ。一瞬しかないだろうけど、私なら楽勝よ」

「さすがだ」

「それじゃあ、魔力を込めて」

「……」


 リタに促されたが、ストリックランドはそうしなかった。


「どうしたの……?」

「すまないリタ……俺は、逃げるわけにはいかない」

「どういうこと?」

「ここで逃げても、エレノアは俺を追い詰めるために、俺にとって大事な人に危害を加えるかもしれない。そんなことを、許すわけにはいかない」

「じゃあどうするのよ」

「実は、フェイに助けを求めるために手紙を出したんだ」

「フェイに?」

「正確には、冒険者ギルドにフェイを探して助けを求めてるのを知らせるように依頼してある」

「フェイならこの状況、どうにかできる……のかな……」


 リタは疑問に思った。フェイは確かに信頼できる仲間で、賢い男でもある。とはいえ、この状況を今からひっくり返すのは容易ではないだろう。


「正直、どうなるか分からん。……それでも、可能性があるなら信じたい。なんとかしてエレノアの陰謀を暴いて、やつの野望を阻止したいんだ」

「……ストリックランド。あんたさ、少し変わった?」

「何がだ?」

「以前だったら、そんなこと気にせず、暴れ回って解決するのを優先してたと思うんだよね。……なんか、少しスマートになった感じがする」

「そうか?」

「まあいいんじゃない? そういうの」


 ストリックランドはマリーのことを思い浮かべた。もし彼女が自分の立場なら、賢い道を選択するために努力するだろうと思った。


「そうだな……心境の変化ってやつだ」

「ふうん……」


 そうして、二人は逃げ出すのを中止した。

 その日は静かに寝ることにした。

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