第13話 勇者、捕まる
エレノアが示した男の死亡写真。それは、数日前に強盗として訪れた男のものだった。
「何が外交官殺しだ。そいつはただの強盗だったし、殺すほど痛めつけちゃいないぞ」
「あ、あの! 私も見てましたけど、ストリックランドさんは相手を死なすほどに怪我なんてさせてませんでしたよ……!」
ストリックランドとマリーは反論した。
すると、エレノアはさらに書類を二枚取り出した。
「はいこれ、この男の死亡証明書と身分証明書ね」
ストリックランドはテーブルの上の書類に目を通した。一見したところ、不自然な点は見当たらない。
死亡証明書には、頭部への強い衝撃により死亡した旨が記載されており、身分証明書は、この男が外交官の身分であることを証明していた。
「外交官の殺害は重罪なのよ? ストリックランド」
「エレノア。お前、工作しただろ」
「ふふふ……何のことかしら?」
「ただの強盗に、外交官の身分を後から与えた。そして裏で、お前かお前の部下がこの男を殺した」
「あらあら、ひどい言いがかりね。とにかくね、この書類は本物だし、証拠としては揃ってるのよ。あなたを逮捕するには十分なの」
「あ、あの……!」
マリーが口を挟んだ。
「何かしら、店主さん?」
「ストリックランドさんは、本当に人を殺してしまったんですか……!? 私が見た限りだと、あの強盗の男の人は、死ぬほどの大怪我にはなっていなかったかと……それにいくらなんでも、外交官の身分なんて……!」
「ねえあなた……もしかして、現職の大臣である私を疑っているっていうの?」
「そ、それは……!」
「マリー、俺を庇う必要はない!」
ストリックランドがそう言った時、彼は、今の態度でマリーが自分にとっての弱みになるとエレノアに見抜かれたのではないかと危惧した。
実際エレノアは、その隙を見逃さなかった。
「へえ……。ねえ、ストリックランド。あなたは、私がこんなにも丁寧に対応していることに『感謝』はしないのかしら?」
エレノアがニヤリと笑って言った。
「感謝だと?」
「ええそうよ。わざわざ客として訪れて、あなたの働きぶりを見てから声をかけてあげてるのよ? 『ストリックランドさん、残念ながらあなたは人を殺めてしまったのです。ご同行願えますか?』ってね」
「ふざけた態度だな」
「私がその気になれば、もっと直接的で過激なやり方もできたのよ? どういうやり方か聞きたい?」
「聞きたくないな」
「じゃあ言うわ。例えば、武装した憲兵団でこの店ごと取り囲んで、『出てこなければ一斉に攻撃を加える』って警告するの。まあ、気の早い憲兵団の誰かが、うっかり攻撃しちゃうこともあるかもね。そうなったら、こんな小さな店は木っ端みじんだし、中にいる無関係な人々も、無傷ではいられないでしょうね」
エレノアはマリーをチラリと見て言った。
マリーはエレノアの話を聞いて、顔を青くした。
「エレノア、無関係な人間を巻き込むな!」
「今のは『例えば』の話よ? あなたの対応次第で、無関係な人々を守れるの。さて、賢明な判断を期待するわ、ストリックランド」
「俺を逮捕して何がしたいんだお前は」
「私は自分の職務を全うしているだけよ」
「ふん、ずいぶんとご立派な仕事だな……」
ストリックランドは悩んだ。逮捕なんてまっぴらごめんだったが、ここで抵抗すれば、エレノアは本当に荒々しい方法を使いかねない。マリーが傷つくのは避けたいし、さすがのストリックランドでも、憲兵団をまとめて相手にするとなると、無傷ではいられない……。
しばらく考えた後、とにかく今は彼女の言うことに大人しく従うのが、賢い選択だろうと結論づけた。
「……いいだろう。お前の言う通り、逮捕されてやる」
「賢明な判断ね」
エレノアが手を叩いて言った。
「そんな、ストリックランドさん……!」
「マリー、俺のことは気にしなくていい。むしろ謝るのはこちらの方だ。これからは、店員が一人減った状態で店を営業してもらうことになる」
ストリックランドは申し訳なさそうに言った。
こうして、ストリックランドは捕まることになった。
彼は、エレノアに手錠をかけられ、彼女の従者が運転する馬車に乗り込んだ。
エレノアは彼とはす向かいの席に座った。
彼女が合図すると、馬車は王都に向かって走り出した。
「……さて、教えてくれよ。俺を逮捕した理由について」
馬車の中で、ストリックランドはエレノアに手錠を見せびらかしながら尋ねた。




