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小堀純【3】

(1)


カタンと私が一緒に学校へ通うようになって2週間が過ぎた。

最初は戸惑っていたカタンも、他の生徒との距離の取り方が上手になってきた。それでも学生生活はそれなりに楽しんでいるようだ。歩行訓練の甲斐あってか、問題なく歩けるレベルにはなった。食事もしっかり摂っているから、見ていて不安じゃない程度の肉付きにもなってきている。

しかし、運動能力はシセツの戦闘員としてスタートラインにも立てていない状態。後方支援にしてももっと育てないといけないな。

今日は土曜。学校は休みだから、のんびりと起きてシセツの食堂でランチを食べている所だ。

「カタン、ここの生活には慣れてきた?」

私はランチメニューのフレンチトーストを食べながら尋ねる。

「うん、運動もできるようになってきたし、話しかけてくれる人も結構いるから毎日楽しいよ。」

そう答えるカタンの表情は晴れ晴れとしている。やっとひとりぼっちの生活から抜け出せたのだ、それもそうだろう。

「シセツの中の人とは、仲良くなっても大丈夫なんでしょう?」

「まあ、そうだね。実際働くことになったらチームワークも必要だし、いいと思うよ。」

カタンの質問に私は頷いた。ただ…その仲良くなった人が「居ない人」になる可能性はついて回るけど。声に出しかけて、飲み込んだ。

「はあ…でもさ、私がきちんと動けるようになったら、その…私も仕事、するんだよね…」

カタンは困ったような表情で、少しだけ笑う。

私は言葉に詰まった。カタンは何をやらされるのかを知っている。私たちの仕事は、どう上手に繕っても、人殺しだ。

私がつい暗い表情をしてしまったからか、カタンはハッとして

「ご、ごめん!皆を悪く言うつもりはないの!」

と慌てて弁明した。それを見たら何だか可笑しくなって、クスリと笑ってしまう。

「大丈夫。カタンに悪気がないのはわかっているし。」

私の言葉にカタンは申し訳なさそうにうつむく。

「あのね…私の母がもう一度私を迎え入れる準備ができたら、家に帰っていい言ってくれてるの…だから、もしかしたら皆の役に立つ前に帰ることになるかも…」

それは初耳だ。少し驚いた。

確かにこのシセツは、表向きは保護施設。一定の期間までなら家族が引き取ることはできる。猶予は概ね半年。カタンの両親はそれまでにカタンを迎え入れる事ができるのだろうか。

「そうなんだね…カタンが汚れ仕事をする前に普通の人として暮らせるなら、私も嬉しいよ。」

それは心からの言葉だった。…同時に羨ましくもあった。そんな風に考えてくれる家族がいるなんて。私はとっくの昔に戻れなくなってしまった。

「汚れ仕事なんて…自分で言わないほうがいいよ、純ちゃん。」

「胸張って誇れる仕事でもないでしょ。」

私は笑った。罪悪感くらい持っていたほうがいい。人間でありたいなら。

その時、私のスマホに着信が来た。園江さんからだ。

私は慌てて電話を受ける。

「はい、小堀です。」

『小堀、任務だ。直ちに会議室に集合してくれ。』

園江さんはそれだけ言うと、慌ただしく電話を切った。

何というか、最悪のタイミングだ。私は一瞬天を仰いだ。

そこから一気に仕事モードへ気持ちを切り替えると、カタンの方を見た。

「カタン、ごめん。今から仕事だ。」

「えっ!」

「急ぎだから、行くね。午後は自由行動で。家の鍵は締めていいから。」

「ええっ、え!?」

「ゆっくり休んでて。じゃ!」

私は動揺するカタンを横目に、食べかけのフレンチトーストもそのままに走り出した。

…カタンは、今から人を殺すんだ、と思っているんだろうな…


(2)


仕事着に着替えて走り込んだ会議室には、すでに隊員が集まっていた。

今回、招集をかけられたのは私が所属する3班の前衛・後衛部隊だ。

全員が集まったことを確認した園江支部長が、早々に任務の内容を切り出す。

「今回の任務は急を要する。とある薬の売買をしている組織を壊滅させてほしい。急ぎの理由は、すでに殺人が起きているからだ。しかも、奴らは死体の処理までこなしていて隠蔽している。」

薬の売買…死体をさばいているところまで考えれば、組織の規模の大きさの検討がつく。

「これ以上犠牲者を出す前に、徹底的に潰す。これが今回の任務だ。」

そう言うと、園江支部長は前衛・後衛の采配や配置などをホワイトボードに書きながら説明を続けた。敵対する組織は50名程度の規模、比較して3班は前衛・後衛合わせて15人。しかし、もっと大きな規模の輩を打ち破ってきたことも多くある。そこに問題は感じない。

普段とは比較にならないほどの早口で状況と作戦を説明する園江支部長を注視していると、ふと背後からピリッとした視線を感じた。

この感覚。学校で感じた視線と同じものだ。

私は一瞬振り返るが、誰から発せられたものかは確認できない。ただ、位置からして後衛部隊、だと思う。

…今はそれどころじゃない。

支部長の話に集中しよう。

「奴らのアジトはすでに割れている。君たちが成すべきことは、敵の殲滅だ。今回のアジトは幅こそないが縦に大きい。バラつかれると厄介ではある。そこで後方支援として新たに戦力を追加した。」

園江支部長の一声で、一人の少女が前方に出てきた。

「この度3班後衛に配属されました端野織子(はたのおるこ)です。よろしくお願いします。」

前に立った少女は、どう見ても子供だ。まあ、私も子供には違いないがさらに幼い。おそらく小学生だろう。カタンも小柄だが、そこからさらに10cmくらいは小さいんじゃないだろうか。

「彼女は特殊な目を持っている。人のオーラが見えるそうだ。それで敵の配置を見てもらおうというわけだ。」

園江さんの口から耳を疑うような説明がされた。私みたいに力が制御できないとかそういう次元の話ではない。いわゆる超能力者だ。シセツの中にそういった力を持っている人物は他にも知っているが、珍しいことには変わりない。

「今回は初めての試みだが、誰一人欠けることなく任務を済ませてくれ。以上。」

園江支部長の言葉が終わると共に、隊員が一気に駐車場に向かって走り出す。

その瞬間、私の脇を端野織子がすり抜けていく。一瞬、目が合った。

…この子だ、私を見ていたの。

無事に事を片付けたら、何なのか聞いてみないと。

そう思いながら、私も隊員を追いかけて行った。


(3)


作戦会議は移動中の車の中で行われた。

「ビルは5階建てだ。非常階段が外側にある。人数を分散させて一気に叩く。おそらく1〜3階に人が集まっているだろう。ここに多く人を配置しよう。前衛・後衛3名ずつだ。4階は前衛1、後衛1だ。下層皆の隊員は片付き次第上部に移動だ。」

3班隊長である田島さんが素早く指示を出す。

「最上階にはまあ、ボスがいるだろうな。あいつら高いところ好きだから。そこは、小堀と武井に入ってもらう。いいな。」

田島班長は私と武井隊員に目配せをした。私たちは深く頷く。

武井さんは高校生のガンマンだ。彼の射撃能力に何度も助けられてきた。確かな腕を持っていることは私が一番知っている。

「俺と端野はベースに残って指示出しをする。」

そう言って田島班長は端野織子の方を見た。彼女はあまり関心が無いのか、車の外の景色を見ている。

「端野、そのオーラってのはどれくらいの範囲で見えるもんなんだ?」

「50m圏内なら。」

こちらに顔を向けることすらなく、彼女は答えた。

うーん、中二病ってやつか。スカした感じで可愛くないね。実際中2の私が言うのもなんか滑稽だけど。

「十分な範囲だな。よろしく頼んだぞ。」

田島班長の言葉に端野織子は、軽く手を上げて返事をした。感じわる。あんな奴に見られてたと思うと、何かムカついてきたぞ。

まあ、仕事に私情は禁物。気持ちを切り替えないと。

私たちを乗せた車は、いよいよ今日の現場へと滑り込んだ。


「さて、端野見てもらっていいか?」

到着と同時に田島班長が、端野に促す。彼女は軽く頷くと、5階建てのビルをじっと見つめた。

「1階に8人…2階は人が多いです。…20人くらい、かな。3階は、15、6人。4階…今、誰もいないみたいです。5階に…3人いますね。」

彼女は細かく人数を読み上げていった。本当に見えてるんだな。不思議な能力だけど、予め敵の配分が分かるのはありがたい。

「分かった、では4階に当てられていた隊員は2階に回ってくれ。外階段非常口から突撃。これで行く。」

「はい!」

全員の声が揃う。

武器は移動中に装備が済んでいる。腰に巻いたホルダーにハンドガンと軍用ナイフが収められている。私はもっぱらナイフを使っていて拳銃は飾りみたいなものだ。理由としては、射撃のセンスが壊滅的だからだ。そして、そのために武井さんが後方に付いている。ここのところこのコンビが多い。頼れる相棒だ。

「では、出動!」

田島班長の声を皮切りに、私たちはトラックから走り出て行った。

5階なんてモタモタ階段登ってられない。

武井さんと私は顔を見合わせると、屋上に向かってコードを打ち込んだ。引っかかったのを確認すると、一気に壁を駆け上る。

下層部からはすでに騒ぎ声が聞こえる。

私たちもさっさと片付けよう。

外階段の踊り場に飛び乗ると、武井さんがドアノブに銃弾を放った。それを見計らって私がドアを蹴破る。通路に駆け込むと中の様子が見えてきた。

部屋数はそう多くない。私はインカムに声を送る。

「端野さん、どっち方向にいる?」

少しして声が返ってきた。

「北東の部屋にいるみたい。」

「了解、ありがと。」

声は武井さんにも届いているはず。

「武井さん、行こう!」

「おう、いくべ。」

北東の部屋はすぐそこだ。引き続き勢いよくドアを蹴破る。

「うお、なんだ!?」

重役らしき人物が豪勢なデスクセットから立ち上がった。

「おめえ、相変わらず足癖悪りぃなあ…」

背後の武井さんが呆れ顔のまま銃を取り出す。

「これが一番手っ取り早いんだからいいでしょ。」

私も愛用のナイフを構えた。

「えっ?何なんだ?何が起きてる?」

無人の4階というフロアが緩衝材になって、下層の騒ぎに気付いてないらしい。慌てた様子で取り巻きの2人も出てくる。その手にはすでに銃が握られていた。

すでに被害者が出ている…まあ、ろくな組織でないことぐらいは分かってたけど。

その時、一発銃声が響いた。

「痛えぇ!クソが!!」

取り巻きの1人の手首が爆ぜていた。安っぽい銃が転げ落ちる。

「構え方がなってねえな、それじゃ誰も殺せねえぞ。」

武井さんが発砲していたのだ。

痛みに怯んだ瞬間に、私はその男の胸ぐらに飛び込んだ。

殺す。確実に。

私が振り上げたナイフは、男の首筋にピタリと当たる。

「さよなら」

一気にナイフを滑らすと、男の首は頸動脈から喉元まで一気に切り裂かれた。

男は血を撒き散らしながら奇怪な叫び声を上げてその場に崩れ落ちた。

「このアマ!」

もう一人の男が私に銃口を向ける。だが、武井さんの方が圧倒的に早かった。

今度はこめかみを撃ち抜かれたようだ。即死だね。

残るのは、このボスっぽいやつだけか。

小太りのギラついたファッションで、私と武井さんを交互に見ている。あまりに圧倒的な力の差を見た人間ってのは、せいぜい怯えることしかできない。

「な、何なんだ。俺たちが何したって言うんだ。この殺人鬼め!」

男の「殺人鬼」という言葉に、私たちの目が冷ややかなものになった。

「殺人鬼だあ?おめえらも、誰ともつかねえ人を殺してんじゃねえか。」

武井さんは優しい。こういう時、お情けで敵の言い分を聞いてあげることが多い。

「殺したのは、金を払えなかったやつだ!そうでもしないと、回収できんだろう!」

はあ。つまり殺して臓器でも売ったってことか。つくづく救えない。

「あのね、お金払えなかったら殺してもいいって法律なんてあったっけ?」

武井さんの真似をして、私も便乗してみる。

「じゃあ逆に聞くが、お前たちのやってることは何だ?悪人だったら刑務所にも入れずに殺していいと言うのか?」

ああ、やだ。おしゃべりしてたらこいつ調子に乗ってきたみたい。

武井さんが思い切り男に顔を近付ける。

「そう、殺していいんだよ。私怨で殺せるんだ。」

武井さんの顔が狂気に染まっていたせいか、男は後ろへと転んだ。

「私たちは私怨で殺せるの。そういうでっかいシセツにいるからね。」

「ひ…来るな!」

突然、男がスーツの内側に手を差し込んだ。銃かな。

私がすっと男に近づき、腹から手首ごと切り上げる。銃を握った手首が転げ落ちた。

「小堀はマジ、ナイスパワーな。」

「お褒め頂きサンキュー。」

そのまま、ナイフの向きを変えると男の喉元を掻っ捌いた。勢いよく吹き出した血が私にかかる。

「ぐえ、きったな!」

私は慌てて離れた。

「前側切るからだよ。そりゃそうなんべよ。」

武井さんは終始呆れ顔だ。でも、まあ、これで片付いたってことかな。

「はあー、ゆるい仕事だったわ。撤収すんベー。」

「だね。下はまあ、大丈夫でしょ。」

二人で死体の残骸に背を向け、歩き始めた。その時だった、武井さんがすごい形相で振り返る。

「小堀!右に避けろ!」

武井さんの声に、私は咄嗟に体を右に傾けた。

銃声を聞いた時には、私の左二の腕を弾丸が貫通していた。

「くそ、死ね!」

次の瞬間、武井さんが銃を放つ。

物陰から「ううっ」と低く唸る声が聞こえた。その後すぐドサリと倒れるような音もする。

「…いったぁ…」

流石に声に出してしまった。

私が嘆いているうちに、武井さんが声の主の元に歩み寄る。額のど真ん中を打たれたようだ。これも即死。

「物陰に隠れてやがったんか。」

武井さんが死体の前にしゃがみ込んだ。私もその側へ近づく。

「…あのクソガキ、3人ってはっきり言ってたよな?」

私は二の腕を圧迫止血しながら

「4人居たね…」

と呟く。武井さんはムスッとした表情で私を見た。

「4人、居た。」

私は痛いのもあるが、何が起こったのか分からない状況だった。


(4)


任務は滞りなく片付き、隊員たちは再びトラックに集まった。

「みんな、ご苦労だった。帰ってゆっくり休もう。」

田島班長が全員に労いの言葉をかける。

「田島班長ー」

武井さんが手を挙げる。「どうした?」と、田島班長が武井さんを見る。

「負傷者が出ましたぁ。小堀怪我してますぅ。」

武井さんは私の腕を掴むと、止血帯を巻いた二の腕を見せた。

「小堀が怪我?珍しいな…」

田島さんも不思議そうにしている。確かに私が怪我をすることはそうそう無い。

おもむろに武井さんが立ち上がり、端野織子に歩み寄る。

「ねえ、お嬢ちゃんさあ、3人って言ったよねぇ?4人居たんですけど。まだ数も数えられないお子ちゃまなんですかぁ?」

…めっちゃ煽ってる。端野の眉がピンと跳ね上がった。

「あたしが見た時は3人だったよ。もしかしたら、すごく近くに2人がいて一人に見えた可能性はあるけど。」

「ふーん、そんな曖昧な能力なんだねえ。前線に立つ人は困っちゃうなあ。」

「ちゃんと北東の部屋にいたでしょ!あたしの力を疑わないで!」

武井さんがネチネチと嫌味を言うせいか、端野の口調も荒っぽくなってきた。

「私が言いたいのは…」

遠くから私が口を挟む。

「3人か4人か判別できないようなら、それを力と言わないで。こっちは死ぬかもしれないんだから。」

私の言葉に端野は、ぐっと口をつぐんで俯いた。

「…その辺にしておけ。端野も今日がこの班で初めてなんだ。だが、ミスはミスだ。端野は次も同じ間違いをしないように。」

田島班長が助け舟を出してやった。端野は悔しそうに頷いた。


帰りのトラックの中は静かだった。

煽り散らしてた武井さんなんか、ぐーぐー寝てるし。

端野織子は、相変わらず車の窓から外の景色を見ていた。しかし、行きの車の中の様子とは違い、その表情はわずかに悔しさが滲んでいた。


4話目です~これから、頑張って、挿絵描きますー

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