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4. 日常

「は? 放課後に生徒から相談? しかも個別に呼び出されて? 奏多、それ冷静に対応できたのか?」


「女子高ってそういう意味でも大変なんだな……俺だったら絶対焦る」


「でもさ、まじめな話、相手が悩んでたんだったら、話を聞いて寄り添ってあげたってことだろ? 偉いと思う」


 ――これは、男子高時代からの友人とのグループ通話での会話だ。


 今日、梨香さんの相談に応じたことを、ちょっとだけ打ち明けてみた。ただ真面目に、担任としてどう向き合えばいいか悩んでいたのに、いつの間にか話が妙な方向に盛り上がってしまった。


「でもさ、向こうが“特別に先生と話したい”って気持ちがあったんじゃないの?」


「そんなの、勘違いしたら危ないだろう。僕はあくまで担任なんだから。どの生徒にも平等に接しないと」


「だよな。そういうところは……お前は昔から真面目すぎるぐらいだもんな。いいんじゃないか?」


 ――友人たちの声に、少し肩の力が抜けた。話せてよかったと思う。生徒たちと日々接する中で、悩んだり、迷ったりすることもある。そういう時に、自分の原点を確認できる仲間がいることは、ありがたいことだ。



 ※



 そして翌日。本当に大丈夫なのか不安だったが、梨香さんは普段通りにクラスメイトと笑っていた。僕は気を遣いすぎていたのかもしれない。生徒は、僕たち教師が想像するよりも切り替えが早くて、たくましいのだ。



 今日の放課後は、教室に凪沙さんが残っていた。欠席した日の課題を提出するためだ。


「先生、昨日さ……梨香と何か話してた?」


 彼女は、少し探るような目をしている。


「うん。ちょっと悩みごとの相談を受けてね。内容までは言えないけど、聞くだけ聞いたよ」


「そっか。あの子、ああ見えてちょっと寂しがりなところあるから」


 凪沙さんはシャーペンを置いて小さく笑う。


「私も……時々、これでいいのかなってわからなくなるんだ。みんなは明るくしてるけど、実は本音ってなかなかわからないよね」


「そうだね。だからこそ、クラスの中でちゃんと話ができる関係が大切なんだと思うよ」


「先生って、そういうところ……すごく真面目なんだけど」


「そんなことないよ。僕自身、女子高という環境にまだ慣れてなくて、戸惑うことばかりだし」


「でも、それでも真面目に向き合おうとしてる。そういうところっていいと思います」


 彼女の言葉に、少し照れてしまいそうだ。


「ありがとう。さて、課題の方はできた?」


「うん……あの、先生」


「ん?」


「先生って、“好意をもって尊敬しています”って感じの人、どう思いますか?」


 一瞬、言葉に詰まった。

 けれど、すぐに答えた。


「うれしいと思うよ。でも、たとえそうだとしても、教師としての立場を一番大切にしたいと思ってる」


「そっか。ですよね」


 凪沙さんは、ふっと力を抜いて笑っていた。


「私は先生のことを尊敬してます。それだけ伝えたかったの」


「ありがとう。その言葉だけで十分だよ」



 翌日以降も、廊下ですれ違えば気軽に声をかけてくれる生徒たち。時には授業のあと、「先生、図書室まで一緒に行ってくれませんか? 探したい英語の本があって」と頼まれることもある。


 そうした頼られ方も、今は少しずつ慣れてきた。大切なのは、自分が今どういう立場で、どこまで寄り添えるかを常に考え続けることだ。



 ※

 


 週末、男子高時代の仲間たちと通話をした。


「お前……最近ちょっとカッコよくなったんじゃね?」


「なにそれ」


「いや、なんか責任ある大人って感じ。生徒から慕われてんだろ?」


「まあ、どうにかやってるよ。生徒は生徒。大切な教え子たちだからね」


「あのさ、今度女子高見学できないかな。美味い酒、奢るから」


「断る。絶対無理」


 


 週明けの放課後。


「先生!」


 呼び止められて振り返ると、琴音さんだった。


「先生! バタフライズ、まだまだ知らない曲が多いことに気づいちゃって……おすすめ、ありますか?」


 その笑顔はまっすぐで、目も輝いていた。

 バタフライズがよっぽど好きなんだろうなっていうのが伝わってくる。


「そうなんだ。じゃあ、何曲か選んでおくよ」


「やったー! ありがとうございます!」


 彼女は嬉しそうに手を振り、部活に向かって行った。



 教員としての日々は、戸惑いもあるけれど――それ以上に、生徒たちとこうやって話せることで自分も成長していくような気がする。

 

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