21. 自宅
ある日の夜、大学時代の友人たちと居酒屋で久しぶりに顔を合わせた。
「よっ! 奏多、卒業おめでとう! お前はやりきったよ……もう俺たちから言うことは何もない! ああ女子高生!」
「いや……今は彼女、もう社会人だから……」
「何言ってんだよ。出会ったのは女子高生時代だろ? その子と、恋を実らせて、しかも……お前……男になったんだな……うぅっ……泣けるぜ」
「いいなぁ……俺も女子高の先生になりたいんだけど、なれるかな? 頼む奏多、本当に美味い酒を奢るから何とかしてくれ」
「お前いつも酒だな。俺は高級な寿司を奢るから女子高の先生に……!」
「相変わらずすぎて……もう笑うしかないよ。でも、ありがとう。おかげで今の僕があるようなものだから」
冗談ばかり飛び交う中でも、彼らへの感謝の気持ちは本物だった。
「で? 次は家デートだろ? どうすんだ?」
「どうするって……とりあえずは、自然に過ごしていけたらいいかな」
「奏多……ホテルは記念日用な。普段は家だぞ。現実ってのはそういうものだ」
「どうしてそういう話になるかな……」
それでも僕たちは、順調に付き合いを続けていた。
※
ある日、琴音ちゃんを初めて自宅に招くことになった。
「楽しみだなー! 奏多さんの家♪ バタフライズのCD全部あるなんて! 見てみたいな」
彼女が来る理由が必要で、僕はバタフライズのCDを餌にしたけれど、本当に興味を持ってくれていたことが嬉しかった。
部屋に入ると、琴音ちゃんは興味深そうにCDケースを眺めていた。
「うわぁ……すごい。本当にこんなに揃ってるんだ」
「親から譲ってもらっただけだけどね。聴きたい曲、ある?」
「うーん……じゃあ、このCDがいいな」
ソファに座って一緒に聴いたのは『THE HILL』。孤高の少年をイメージしたような、優しくて切ないメロディ。
「この曲……奏多さんの部屋で聴いたら素敵なんだろうなって、思ってた」
「僕もこの曲、大好きなんだ。なんだか、時間がふっと止まる瞬間があるような気がして……」
「ねぇ……奏多さん」
そっと肩を寄せてきた彼女が、頬に軽くキスをする。その仕草があまりにも自然で、僕は胸の奥がじんわり熱くなった。
「あ……ありがとう、琴音ちゃん」
「私の方こそ……こんなふうに、好きになれる人が現れるなんて、思ってなかった」
もう……何も言葉はいらなかった。ただ彼女の手を取って、そっと抱き締めた。
その日、僕たちはバタフライズを聴きながら穏やかに過ごした。太陽が少しずつ傾いて、外がオレンジ色に染まっていく。
「ねぇ、奏多さん……今日、泊まってもいい?」
「えっ……」
「だって、もっと一緒にいたいんだもん。だめ?」
「だめなわけ、ないよ」
夕食はデリバリーにして、二人でテレビを見ながら過ごした。職場の話や、同期とのやりとり。慣れない毎日にも、彼女は少しずつ乗り切っているようだった。
「やっぱり、奏多さんって優しいね。高校のとき、先生としても人気だったんだろうなって思うよ」
「いやいや、それはないって。今でもいじられてるし」
「フフ……その姿も見てみたいな」
夜になり、布団に入りながら、彼女がぽつりとつぶやく。
「ねぇ……眠れるかな。ドキドキしてきちゃった」
「ベッド狭いよね。僕、ソファで寝ようか?」
「違うよ……」
「え?」
「嬉しくて、眠れそうにないの。こうやって、大好きな人のそばで眠れるのが、夢みたいで……」
僕は微笑んで、彼女の髪をそっと撫でた。
「じゃあ僕から、琴音ちゃんにお礼を言わせて」
「お礼?」
「昔の僕は、自分が誰かを本気で好きになるなんて、想像もしてなかった。でも今は、君に出会って、こんなにも心があたたかくなってる。だから……ありがとう」
「うぅっ……」
彼女が涙を浮かべながら微笑む。
「私もね……奏多さんに出会って、自分の気持ちに気づけたの。こんなに誰かを大事に想えるなんて……幸せだよ。ありがとう」
唇を重ねたあと、僕たちはそのまま手をつないでふたりだけの夜を過ごす。
バタフライズの音楽が、静かに流れ続けていた。
――この気持ちは、きっとこれからも変わらない。
これからも、ずっとそばにいる。
そして永遠という言葉を、僕は信じている。
彼女を強く抱き寄せながら、そう思った。




