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1. 異動

※ この作品には医療や病に関する描写が含まれます。苦手な方は、閲覧をお控えいただくか、ご注意のうえお読みください。

「えっ? 附属女子高へ異動ですか?」

 

 ある日の夕方、僕は思わず声を上げた。

 

「そうだ。ソナルモニア附属女子高で急きょ欠員が出てね。来年度からは、そちらで勤務してもらうことになる」

 

 主任教員は淡々と告げる。


 ――まさか自分が女子高に異動になるなんて。


 僕、奏多(かなた)は教員になって五年目。これまでずっとソナルモニア附属男子高で、彼らの思い出の一ページに僕も入っているかのように、充実した毎日を送っていた。少し不器用でも真っ直ぐな彼らと、一緒に笑ったり悩んだりしながら歩んできた日々は、僕にとって宝物だ。


 教師を志したのは、高校時代に親身になってくれた先生の影響だった。自分も、誰かのそばで力になれる存在になりたかった。ただ現実は理想とは違い、教師という仕事は生徒だけでなく保護者との対応、さらに週末の課題作りなど……想像以上に忙しく、苦労の連続だった。それでも彼らの学校生活の伴走者になりたい。この仕事を続けていきたいと思っている。


 男子高に限る、というのが本音だったけれど。


 というのも、僕は昔からあまり女子と話すのが得意ではない。高校、大学時代も男子ばかりの環境で過ごし、そのまま男子高の教師になった。スポーツができるわけでも、特別に頭脳明晰というわけでもなく、いわゆる「普通」の男子だった。特に目立った存在ではなかったけれど、今の場所には居心地の良さを感じていたのだ。


 ソナルモニア大学には附属の高校が三つある。共学、男子高、そして女子高。異動するなら共学がよかった……というのが、正直な気持ちだった。



 ※

 


 後日、附属男子高時代の友人たちと居酒屋で集まった。

 

「マジか! 女子高に異動? それってなんか青春の始まりっぽくない?」

「いや、全然そんなことないから! 僕は女子とどう接すればいいかも分からないんだよ」

「でもさ、奏多って真面目だし、ちゃんと誰かと向き合える人だろ? 相手が男子でも女子でも、それは変わらないって」

 

 信頼できる友人たちの何気ない言葉が、少し心を軽くしてくれた。


 そう、あくまで教師としてのスタンスは変わらない。ただ、これまでとは違う環境に飛び込むことに、ほんの少し不安があるだけだ。


「で、タイプの女優とかっているの?」

「え、急に何の話? まぁ、綺麗だなって思う人はいるけど……別にそれ以上は」

「ほら、そういう感覚があるってことは大事なんだよ。どんな生徒がいても、ちゃんと先生として接するって気持ちを忘れなければ大丈夫」

「だよね……」

「まぁ、今までどおりでいいんだって」


 ――ありがとう。自分は自分のままでいいんだ。


 そう思いながら、僕は深呼吸して少しずつ気持ちを前向きにしていった。



 ※

 


 季節は流れ、春となる。いよいよソナルモニア附属女子高に赴任する日がやってきた。


 何度か事前に校舎を見に来てはいたけれど、教員として正式に足を踏み入れるのは今日が初めてだ。緊張していないと言えば嘘になる。けれど、それは新しい場所に挑戦する誰もが感じること。


「よし……」


 新しく担任を受け持つことになった二年四組の教室に入る。女子生徒たちが一斉にこちらを見てきた。あたりまえだが、全員が女子。男子高とはまるで空気が違う。


「おはようございます。今日からこのクラスの担任を務めます。英語を担当します。よろしくお願いします」


 数人の生徒がヒソヒソと話す声が聞こえる。

 

「先生、若くない?」

「英語、どんな感じかなー」

「発音すごく良かったりして」

「え、わからないよ?」


 ちょっとした好奇心。少しざわつく様子にも、なんとなく懐かしさを覚える。そのあたりは男子高と同じはずだ。


「今日は四時間授業なので、授業が終わったらまた戻ってきます」

 

 そう言って、授業のために別のクラスへ向かう。そこでもやはり、教室に入ってすぐに女子生徒たちが視線を向けてくる。


「女子高って……こういう感じなんだな」


 妙にそわそわしてしまうけれど、大丈夫。彼女たちも、僕も、ただの日常を生きる人間同士だ。


「本日からよろしくお願いします。では早速ですが授業を始めます。教科書を開いてください」


 こうして、僕の女子高での教員生活が始まった。

 

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