表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/85

第8話:『70万人の非車臨界(ひしゃりんかい)――地方東京の重心はどこにある』(50点)

---


 理翔は最近、妙なクセがついてしまっていた。

 新しい都市のことを調べるとき、「JR 線区別 輸送密度」と検索してしまうのだ。


 鉄道の輸送密度。それは都市の静脈図。

 その太さが、生きている都市かどうかを示す、生々しいバロメーターだった。



---


 まず目に飛び込んできたのは、JR九州の圧倒的な数値だった。


都市雇用圏人口が25万人を超える都市では、ほぼ例外なく、輸送密度が黒字ライン(4000)を大幅に超えていた。概ね7000は超えている。



> 「25万を超えれば、鉄道は血を通わせるんだな……」




 それは、ただの移動手段じゃない。

 都市の循環そのものだった。



---


 しかし、四国は……違っていた。


松山(都雇圏62万人):輸送密度はおおむね3500前後。黒字ラインすら越えない。


高松(都雇圏80万人):ただひとつ、例外として21000という桁違いの数値。




---


> 「つまり、70万人を超えたとき……都市の“移動の前提”が変わるんだ」





---


 理翔の脳裏に、ある等式が浮かんだ。


> 都市雇用圏人口:60万人 → 70万人で、鉄道利用密度は2倍化(3500 → 7000)

→ 70万人が、“非車通勤が当たり前”になる都市重力の転換点。




 数字だけじゃない。

 都市の“空気”そのものが変わるんだ。



---


 それを裏付ける証拠があった。

 松山と高松の中心街の駐車場密度の違いである。


松山(62万人):街中に駐車場が多く、車依存型の都市構造


高松(80万人):駐車場が少なく、公共交通と歩行を前提にした設計




---


 そして、さらに踏み込んで、求人データを調べた。


松山:5km圏内の正社員で車通勤OKな求人 → 約6000件以上


高松:同条件 → 約5000件以上



> 「あれ……? 人口が多い高松の方が、車通勤OKな求人が少ない……?」




 それはつまり――

 「都市の前提装備」が、車から鉄道に切り替わっている証拠だった。



---


> 「70万人。都市の空気が“非車前提”に変わる臨界点……それを、わたしは『非車臨界』と名付けることにしたの……」





---


 地方都市でも、70万人を超えると、

 鉄道が“ただの線”から“生活の縫い目”になる。


 通勤、買い物、通学、遊び……すべてが、車じゃないと成り立たない都市から、

 車じゃなくても回る都市へ。



---


 その差は、空気に現れる。

 歩く人が多い。

 電車に“使われる”のではなく、電車を“使ってる”都市。


 そして、それが都市としての**“次のかたち”**だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ