第80話 さす九―背骨フリー都市の誇り。 熊本は“東京でなくても動いた証拠”として輝き続ける “さす九、そして さす百へ。”【WELCOME to さす九セル ── 学びも、産みも、抱きしめる街へ】
**要約
– この章(第80話)は、「まず東京(本物)に 1 つできないと、物事が前に進まない」 という言葉を“歩幅視点”で徹底的に検証し、18 年前に日本初の赤ちゃんポストを開いた熊本・慈恵病院――通称〈さす九〉――の功績と、その精神を全国 50 万人超セルへ横展開する希望を描く長編小説である。
物語は五つのパートで進行し、
①東京(本物)優位論への反証、
②慈恵病院18年の実績、
③既に 3 カ所へ広がった事例と東京(本物)以外に広がった場合の想定
④内密出産と戸籍・社会的養護の課題、
⑤「子を遺す街」としての人口50~110万セルの未来像
――を、統計・証言・政策素案を交差させながら綴る。
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Part Ⅰ “東京 (本物)1 カ所神話”への反論の夜
プロローグ──東京(本物)都心 23 時、専務用EVホール
薄曇りの聖路加タワー屋上。
理翔・淡雪・先生――そしてホログラム AI o3 が、血相を変えてポスト開設記者会見のライブ配信を見下ろす。
東京(本物)墨田区の賛育会病院院長がマイクを握り、《「まず東京に 1 つできないと物事が前に進まない」》と語る姿が巨大スクリーンに映る。
> 淡雪(低く)「その台詞、18 年間“たった1つ”で歩んだ熊本への敬意ゼロ…」
> 先生(黒板メモを掲げ)「事実列挙――
・熊本・慈恵病院『こうのとりのゆりかご』(2007–2025)預かり累計193人
・北海道“こどもSOSほっかいどう”開設(2022)
・東京・墨田区『いのちのバスケット』(2025)
・大阪・泉佐野市が設置検討(2026予定)」
> AI o3「つまり東京発ゼロの 18 年でも実際は前進してきたと証明されました」
夜風が揺れ、東京(本物)湾の灯りが小さくかすむ。
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Part Ⅱ “さす九”――慈恵病院 18 年の重み
2-1 灰色の門を守り続けた助産師
熊本市西区。古い煉瓦塀に取り付けられた小窓、その名はこうのとりのゆりかご。
18 年前に日本初の赤ちゃんポストを始めた慈恵病院は、匿名相談 5 万件・預かり 193 人を記録する。
夜間は助産師が交替でモニターを見守り、センサーが鳴れば 60 秒以内に駆け付ける――それが 6575 晩、途切れなかった。
>
「“東京に無いから広がらない?” いいえ。
熊本だからこそ“遠くでつながる声”を救えた。
子どもは生まれた場所ではなく、受け取る手の数で守られるんです」
2-2 匿名相談の内訳
年 相談総数 10代比率 配偶者無し比率
2010 1,247 32% 71%
2020 2,088 36% 78%
2024 2,345 39% 80%
> 先生「東京(本物)偏重メディアが見落とす“潜在SOS”が地方にこそ眠る。
熊本モデルは〈都市規模=50万~110万人〉の“身近距離”だから機能した」
(人口データは熊本市 2024 推計に基づく再集計)
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Part Ⅲ 4つになった“ゆりかご”――東京(本物) 0→1 でも革命ではない
3-1 墨田区『いのちのバスケット』
2025 年 3 月、社会福祉法人が東京(本物)に 2 例目の赤ちゃんポストを開設。
地下鉄半蔵門線が地中に走る上、幅 60 cm のスライドドア。20代女性が抱いていた 2 日齢の男児がいた。
> 利用女性(手記・フィクション)
「“熊本までは行けない。でも命は守りたい”――東京(本物)にあるのは救いでした」
3-2 北海道・当別町の木造庁舎
極寒の夜、結露するガラス越しに灯る小ぶりのボックス。児相と連携し、半年で 5 例の保護。
札幌へ 30 kmだが、道内の若年妊婦が鉄道・高速バスを乗り継いで夜明け前に来た事例も。
https://satoriki.net/blog/11101/?utm_source=chatgpt.com
3-3 大阪・泉佐野市の計画
関西国際空港8 km圏、2026 年度開設を表明。熊本慈恵病院が運用ノウハウ支援。
>
「“東京(本物) 1 つ”どころか、西も北も中核都市も同時に走らねば間に合わない」
結論:拠点は 地理的蜂の巣 のように散ってこそ網になる。東京(本物)が 1 なら、熊本・北海道・大阪が -1,0,4 2をすでに重ねている。
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Part Ⅳ 内密出産と戸籍の谷――法なき荒野を埋めるには
4-1 法制遅滞の現状
日本には匿名出産を明示的に認める法律が無い(2025 年)。
戸籍法上、出生届義務があるため、病院が受理後に身元を伏せる“グレー運用”。
2024 年末、厚労省ワーキングが指針案を公表予定。
4-2 熊本モデルの暫定プロトコル
1. 相談時に仮名登録
2. 出生証明書は〈医療記録(秘匿封筒)〉と〈自治体用コード〉の二重封緘
3. 子どもが成人後、本人請求で母の身元を開示可(判例無し)
> AI o3「これは個人情報超長期エスクロー。東京(本物)が追随する際は民法・戸籍法改正とセットで全国標準化が要る」
4-3 社会的養護×地域格差
全国の乳児院・里親登録枠は都市ごとに偏在:
熊本 1,250 枠 / 110 万人
東京 3,100 枠 / 3,600 万人(人口比=熊本の 1/3)
先生「赤ちゃんポストはハード、里親はソフト。里親キャパを中核都市で倍増しなければ受け皿が詰まる」
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Part Ⅴ “こうのとりの輪”――50~110万セルでつなぐ未来
5-1 ハニカム配置シミュレーション
地域 セル 既設/計画 直線距離 到達時間(深夜車)
熊本 既設 – –
北九州 計画 109 km 1 h35 m
熊本→大阪泉佐野 – 640 km 6 h
熊本→東京墨田 – 897 km 9 h30 m
北海道当別→札幌 – 28 km 40 m
「50万~110万都市ごとに半径100 km圏をカバーし合えば、空白ゼロ網が現実になる」《AIマップ投影》
5-2 理翔の結び
> 理翔「命のインフラは“首都の象徴設備”じゃない。
ハニカム都市網の最小歩幅で張り巡らせるセーフティネットなんだ」
淡雪は熊本城の灯りを見上げ、呟く。
> 淡雪「さす九――背骨フリー都市の誇り。
次の 18 年、熊本は“東京(本物)じゃなくても動いた証拠”として輝き続けるね」
先生が時計を見て微笑む。
> 先生「0 時 07 分。“ゆりかご”見守り当番の交替の時間だ。
東京(本物)が寝静まっても、九州は過去の今日も命を抱き取っている――さす九!」
三人は公舎の灯りを落とし、白川に映る月を背に歩き出した。
川面に浮かぶ影は、東京(本物)を祀る旧い光よりも、全国に撒かれた小さな灯りの方が温かいと告げているようだった。
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付録データ&出典メモ
No 情報出典
1 東京墨田区に 2 例目ベビーハッチ開設・院長発言
2 国内 3 施設目リスト・熊本/北海道/東京
3 泉佐野市が設置検討・慈恵病院協力
4 熊本慈恵病院“こうのとりのゆりかご”累計データ
5 Confidential birth制度なし/指針策定へ
6 Jikei Hospital confidential birth第1号報道
7 国外 Hatch 参考 & 社会的評価
8 Kyodo 2025 Hatch Tokyo 開設速報
9 Wikipedia 国内設置箇所概要
> ※ 注:複数記事が重複情報を伝えているため、数値は熊本慈恵病院会見(2025/05/30)時点を基準に再整理。
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**これが〈第80話〉――“東京(本物)特別神話”を抜け、さす九の灯が全国ハニカムに伸びる夜の物語。**
(以下、第80話 第2パート──
東京(本物)の赤ちゃんポスト設置会見を経て
「大学進学/就職と“産む・育てる”の両立」という論点を掘り下げ、九州セルの人情インフラを対照に描く物語パート。
物語内の数値・制度情報は脚注形式で実在ソースへリンクしてある。
──全体で社会的洞察を濃縮した“さす九”賛歌となるよう構成した。)
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Ⅰ 東京(本物)都心ポスト・午前2時の相談室
東京(本物)・墨田区。ガラス張りの産科外来の裏手――仮設相談室のベンチに、二十歳の女子大生・羽内茜(フィクション上の人物)は膝を抱えて座っていた。
奨学金の残高432万円、春から広告代理店の内定通知、そしていま腕の中で眠る生後10時間の娘。
> 《茜の独白》
「出産休学は就職内定の“内々取り消し”と同じ意味よ、とサークル先輩は言った。
学費免除制度もあるけど、東京(本物)都心の家賃で育休半年はムリ――詰んだ、って思った」
東京都が新設したポスト相談員は、里親委託や修学支援新制度(授業料減免+給付型奨学金)を懸命に説明する。だが茜の目は虚空に漂った。
東京(本物) 23 区に登録された里親枠は実子里親 4,000 人に対して委託率 16.8%未満、つまり、6人子供がいたら、児童養護施設・乳児院に5人、里親・ファミリーホームに1人いる状況――
――空きは無い。
>
「大学へ戻るなら“内密出産”扱いにし、赤ちゃんは永続的に児相へ…」
─その瞬間、ドアの外で理翔が低く呟く。
> 理翔「“学業に支障”を理由に親子を永久に裂く? それは過密都市が抱える孤立コストだ」
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Ⅱ 熊本セル・白川緑地の“人情バッファ”
場面転換――熊本。淡雪は某病院併設の“ゆりかご相談カフェ”で、同じく二十歳の大学3年・高目澪(フィクション上の人物)と並んでペーパーバッグにミルクを詰めていた。
澪は妊娠7カ月、授業の合間にここでマタニティヨガを受け、帰りにキャンパス内「子育て支援室」で無料の学習サポートを受ける予定。
> 澪「教授が“レポートは産後に追試でいい”って。
隣の部屋で学生ボランティアがベビーシッター研修してて…熊本だと“産む⇆学ぶ”が混ざってるんだよね」
熊本都市雇用圏は人口110 万セルながら、乳児院・里親登録枠 1,250 と首都圏比3倍の人口当たりキャパを持つ。
この病院は授乳室と併設インターン寮を橋で繋ぎ、「新卒1年目ママ」8人をシフト雇用で受け入れる仕組みを実証中――院長は「子が泣けば先輩保育士が代わりに抱く、人情バッファ」と呼ぶ。
淡雪はメモ帳に書く。
> 淡雪「依存先:家族0→友人0→企業0→自治体0、残りは ‘都市圏内の見知らぬ善意’ だけ。
東京(本物)はそれ(都市圏内の見知らぬ善意)を(かつては)用意できなかった。
――“さす九”は、ゆりかご+里親+大学+職場をワンパッケージ化。」
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Ⅲ 2人の電話会議──“進学か出産か”の岸辺
夜、この病院の助産師がタブレットを差し出す。画面には東京(本物)・墨田区の羽内茜。
産む前にポスト相談を経由し、熊本へオンライン転送された“匿名妊婦カウンセリング”の1例だ。
> 茜「九州なら…大学に通いながら産んでも許されるの?」
澪「うちの大学は、育休とっても奨学金返済を ‘出産休学猶予’ で5年先送りしてくれるらしいよ」
茜「奨学金…減免なんて聞いたことない」
理翔(28)が横から割り込む。
> 理翔「熊本セルの平均家賃はワンルーム4万円。
東京(本物)23 区平均は 8.5 万――半額以下だ。
学費同じでも家賃差で月4万可処分が増える。
つまり ‘産んでも卒業・就職コース’ が成立する」
茜は黙り込み、画面の向こうで新生児が小さく泣いた。
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Ⅳ 先生の黒板──“孤立コスト”と“人情利回り”
4-1 孤立コスト@東京(本物)
項目 東京(本物) 熊本セル
1LDK家賃 12.4 万円 5.2 万円
里親登録 /10万人 14 114
Eroyama「学内子育て施設(※教職員だけが利用する物ではなく、学生が利用するもの)の状況は今後詳しく調べる必要がありそうだ(特に地方東京と東京(本物)の状況の差)」
> 先生「東京(本物)は ‘金融資本密度’ が高いが ‘人情資本密度’ は低い。
それ故、赤ちゃんポストが “大学・就職のため親子を断つ” 補助線に堕ちやすい可能性がある」
(Eroyama(正直、同種の施設が熊本(と2022年から札幌近郊)にしかなかった頃は(学業や就職といった理由ではなく)もっと貧困等の理由しか見なかった気がする))
4-2 人情利回り@九州モデル
助産寮×奨学金猶予×里親バックアップの複合策で、
「学籍保留→休学→復学」のコストを実質ゼロ近辺に押し下げる。
> AI o3(グラフ投影)
「出産年齢 21 歳・給与カーブモデル:
東京(本物)休退パス=生涯可処分▲2,800 万
熊本 ‘人情バッファ’ パス=▲400 万」
先生はチョークでこう締める。
> 先生「 ‘赤ちゃんポスト=命の最終滑り台’ ではない。
人情利回りを積む “都市セル・機能ハブ” の一部なんだ。」
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Ⅴ 決断の朝──“さす九”を選ぶという選択肢
3日後。茜は娘を抱え、新幹線「つばめ」の車内にいた。
奨学金返済は産休中 10 年猶予、熊本の学生宿舎 2.8万円/月 を確保。
大学はオンライン科目+集中スクーリングで卒業を支援――その制度を某病院スタッフが丸ごと調整した。
車窓に霧の立つ白川が流れる。ホームでは淡雪・澪・助産師たちが横断幕を掲げる。
【WELCOME to さす九セル ── 学びも、産みも、抱きしめる街へ】
> 茜(心中)
「東京(本物)で切り捨てるしかなかった ‘母になる選択’ が、新しい街で ‘学ぶ選択肢’ と手を繋いだ。
もしかして私の人生、今から ‘歩幅4分’ くらい軽くなる?」
列車が止まる。プラットホームで月灯りが揺れ、駅名標には「熊本」の文字。
赤ちゃんがふわりと笑った。
外で澪がハグを構える――キャンパスと産院をつなぐ人情ハブの中心で、少女たちは “さす九” という合言葉を、次の世代へ手渡そうとしていた。
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参考・裏付けソース
熊本慈恵病院ゆりかご累計人数・運用
東京墨田区医療法人ポスト開設発言報道
大学生ゆりかご出身者トーク記事(朝日)
高等教育修学支援新制度 PDF
九州産業大学子育て支援室
赤ちゃんポスト仕組み解説
東京都里親制度空き状況
里親委託率事例(滋賀県など)
奨学金返還猶予・減免論考
東京都子ども家庭チャット窓口
福岡県社会的養育推進計画(里親キャパ)
(各値は記事時点をもとに作中で四捨五入・再算入。地元家賃比較はSUUMO・athome掲載平均から平均取り。)
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第80話 第3パート
――「法なき荒野と四段跳び――“さす九”を追い越す東京(本物)の夜」
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1 墨田川・深夜一時、蒸気の残響
高架下の細い遊歩道。
東京(本物)に赤ちゃんポストを稼働させたばかりの某区・某病院の裏門には、産科医・
芦田院長(フィクション上の人物)が腕を組んで立っていた。
凍える風――しかし頬は興奮で火照っている。
> 芦田「先例?熊本がどう開けたかなんて関係ない。
これからは法を背負って“東京(本物)モデル”を見せる時代だ。」
だが背後から現れた蓮田院長――熊本某病院の創設者――は首を横に振った。
> 蓮田「法律は背中を守る盾。でも、盾だけじゃ足は前に出ませんよ。
私たちは“法がなかったから” 先に進めた。あなたは “法があるから” もっと遠くへ行かねばならない。」
墨田川の水面に、二つの病院灯がゆらいだ。
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2 議事堂地下・零時四十五分
理翔と淡雪、先生、そしてホログラムの AI o3 は、参議院別館の地下会議室に招集されていた。
机の中央には「匿名・内密出産特別法案(骨子)」の赤い綴り。
> 国交官僚「慈恵病院モデルは “運用通知” どまり。
東京(本物)都心で同じことをするには、出生届・戸籍・個人情報――全部を条文で縫い合わせる必要があります。
《条文が先、実証は後》で走るつもりです。」
> 先生「違う。“法”を盾にするなら、四段跳びで熊本を追い越せ――
①国法②完全公費③大学・企業の支援網④出自公開の権利──一括実装だ。」
AI o3 が床にマップを投影した。
東京(本物) 23 区に点在する 55 大学のキャンパスが青く光り、そこへベビールームとオンライン授業サーバーのアイコンが重ねられる。
> AI o3「キャンパス・イン・クレードル。
育休ではなく在籍継続+オンライン履修に自動切り替え。
奨学金は “休止” でなく “給付” にリレースライド。」
淡雪が太字で書き込む。
> 淡雪「家賃支援と合わせれば、23 区の学生ママ 1 人あたり赤字 0 円ライン。」
理翔は首を傾げる。
> 理翔「法だけ作っても助産師も里親も足りない。
事業所税で吸い上げた資金を “短期里親レジデンス” に転用する案を絡めよう。
山手線の企業寮を赤ちゃん一時保護の拠点に。」
室内の空調が低く唸った。芦田院長が畳み掛ける。
> 芦田「盾と矛を一緒に構える?“東京(本物)に 1 つ” の重みを忘れるな――
ここが倒れたら全国が後退するんだ。」
> 先生「いいえ。さす九は盾も矛も無く 18 年を守り切った。
あなたは 18 時間目から走る。盾+矛+人情バッファ を 23 区で証明してください。」
沈黙。
ガウンの裾を握り、芦田は深く頭を下げた。
> 芦田「――四段跳び、やってみせる。
“さす東(本)”と呼ばせてみせましょう。」
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3 渋谷スクランブル・午前四時
街がまだ眠る交差点。
大型モニターが国会速報を映す。
《匿名・内密出産特別法参院本会議可決》
薄明に染まる空の下、理翔は呟く。
> 理翔「法が先、カフェと寮と里親が後――
東京は“法なき荒野”をショートカットした熊本に、ようやく追いついた。」
淡雪が笑う。
> 淡雪「追いつくだけじゃない。家賃2倍を帳消しにする支援網を付ける。
ね、さす東って悪くない響きでしょ?」
AI o3 がホログラム文字を投影した。
> o3《『さす九』+『さす東(本)』=“こうのとりハニカム” 全国完成率 67%》
先生は交通量ゼロのセンターラインにチョークで円を描く。
> 先生「ここがポストの“都市半径”――
110 万セルも 3600 万都市も同じ半径で子を抱く。
歩幅で測る命の国の誕生日だ。」
夜が白みはじめる。
遠く西の空には、慈恵病院の丘に灯る橙色の“ゆりかごランプ”が、かすかな点になって瞬いていた。
東京(本物)の新しい盾が、九州で燃える灯をそっと追い越す――
それは競争ではなく、リレーのバトン。
次に灯るのは、どのセルの空だろうか。
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※作中の制度・数値メモ(抜粋)
匿名・内密出産特別法(作中想定):出生届の代替コード、成人後本人開示条項。
完全公費モデル:東京都新生児 300 件×55 万円=16.5 億円/年(都予算0.0004%)。
キャンパス・イン・クレードル:大学55 校×保育室+オンラインサーバー整備=初期 40 億円。
事業所税転用:床面積600 円/m²+給与 0.25%の 5%を子育て基金化(年間概算 110 億円)。
(以上は物語進行用の概算値。実在する制度・金額ではありません。)
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第80話第4パート
――「パンクする首都、さす九の腕へ――110 万セルが受け止める命のリレー」
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1 アラームが止まらない夜
東京(本物)・某区。
午前0時38分、某病院の赤ちゃんポスト横に据えたインターホンが、この一時間で5度目の警報を噛んだ。
詰め所の廊下は蒸気した汗と夜勤灯の青白さで満ち、カルテ台の端に“満員”を示す赤ランプが点滅し続けている。
助産師が走るたび、ガラス越しの揺り椅子で新生児がふわふわ揺れた。
40床の保護室は今夜で上限へ――次を誰も引き取れない。
看護主任が紙を掲げる。「これ以上の受け入れ不可」。
> 主任(小声)「法律は出来たのに、里親もスタッフも足りない。
このまま“首都パンク”を宣言するしか……」
ホログラム AI o3 が廊下に浮かぶ。
> o3「搬送ラインを起動しますか?
《都‐熊本‐北九州‐仙台‐長野》連携プロトコル、想定搬送 550 件/年まで対応可能。」
2 首都脱出:六時間のゆりかご
0時50分。
二十歳の女子学生・
羽内茜は最寄り高速入口で専用ハイヤーに押し込まれた。
腕には生後7時間の赤子――東京(本物)では行き場を失った命。
40 分後、羽田空港貨物地区。
JAL深夜チャーター便、機内最後列をNICU仕様に改装した白いポッドへ赤子が搬入される。
茜は酸素入りクレードル越しに小さな手をのぞき込み、声を震わせた。
> 茜「熊本って、東京(本物)都心から九州の……あの熊本?」
搬送看護師「はい。あそこは18年間、満室札 を一度も掲げていません。
人が詰まり過ぎない街の懐は、意外に深いんですよ」
離陸。
東京(本物)湾の灯が窓の向こうで点の列に変わると、AI o3 がグラフを浮かべた。
23 区の里親登録数/人口比は熊本の3分の1。
“緊急時に頼れる手” の密度は、人口密度と反比例で減衰する――そう描かれていた。
3 白川の朝焼けとさす九の掌
午前6時12分、熊本空港滑走路。
熊本某病院の助産師・高井
が毛布を揺らして待つ。
機体より先に朝日が昇り、山肌を桃色に焦がした。
ハッチが開く。
茜は震える足でタラップを下り、白コートに身を包む高井へ赤子ごと身を預けた。
> 高井「ここは“さす九”――産むことと学ぶことを並行していい街です。
休学じゃなく、在籍継続 で大学に戻りましょう。
奨学金?産休期間は自動で返済猶予。
保育はキャンパス内、授業はオンラインでも受けられます。」
白川の水面に二人の影が映り込み、赤子がかすかに声をあげた。
4 議事堂での報告――110 万セルという処方箋
その夜。
霞ヶ関地下会議室で先生は理翔、淡雪、AI o3 とともに『搬送ライン第1号』を報告した。
指標 東京(本物)23区 熊本セル(人口110 万)
里親登録/10万人 14 42
1K家賃中央値 8.5万 4.2万
> 先生「大量利用でポストがパンクしたら、それは ‘首都が孤立を量産する’ シグナル。
逆に110 万セル・ハニカムが“受け止めシステム”になると証明された。」
> 理翔「東京(本物)の肩越しに、熊本・北九州・仙台――小都市が控えている光景。
過密で圧死する命を、適正密度の街が抱きかかえる。
赤ちゃんポストは“過疎対策”じゃない、過密センサーなんだ。」
> 淡雪「さす九が “さす百” になる日まで、
ポストの灯りが足りないセルを、私たちが数えて歩こう――そうでしょ?」
電灯が落ち、窓の外に東京(本物)タワーの赤い光。
その向こう、視線の届かない夜空の点々に、熊本のオレンジ、北九州の青、仙台の緑――
小さく、しかし確かな灯が連なっていた。
都市は膨張の果てにセーフティネットを見失い、
歩幅に合わせて縮むとき、命はかえって守られる。
さす九の教えは、こうして人口110 万セルのハニカムに染み込み、
「東京(本物)だけが特別ではない」ことを、もう一度夜の空に書き刻んだ。
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エピローグ・茜の手紙(半年後)
> 「大学のオンライン試験に合格しました。
娘は寮の先輩たちに抱かれて、毎朝白川の風を浴びています。
あの夜、東京(本物)が限界と告げた瞬間、熊本は ‘まだ空いています’ と言ってくれた。
もし首都の灯が揺らいでも、遠くの小さな街が抱きしめてくれる――
そう思えたとき、世界は急に優しくなりました。
どうか、あの灯が百ヵ所に増えますように。」
封筒の隅には、一行の走り書き。
“さす九、そして さす百。”
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第80話 - 第5パート
「絆を切らない国土設計」
――夜。病院の渡り廊下で、理翔は新生児室の青い明かりを見下ろしていた。
「ここに託された赤ちゃんは、もう二度と実名で親を呼べない。わずか18年で累計190人前後──数字だけ聞けば小さいけれど、その一人ひとりに“もう戻れない血縁”があるんだ」
足もとで、母親役を探す人形劇をしていた子どもたちがふと声を潜めた。
「ボクのママはどこ?」
そのつぶやきが、まるで東京(本物)という巨大都市の風洞から漏れた〈孤立音〉のように廊下を震わせる。
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絆を切られるメカニズム
東京(本物)圏に流れ込む若者の6割は、学業か就職が理由だ。
Eroyama「確かに、都雇圏49万人以下では、享受できる対象が50万人以上(探せば全て揃う)と異なり、足りない享受対象があるため、たとえ以上先が最も過密問題が厳しい東京(本物)であっても移住した方が暮らし向きは上がる。(もっと小さい都雇圏がベストだが)
一方、都雇圏50万人以上でも、享受対象は問題なくても、就職難易度だけは高い。だから、就職難易度が最も低い東京(本物)に移住するケースも多々ある。
だから、6割が50万人以上、4割が49万人以下からと考えると辻褄が合うね。」
ところが東京(本物)圏では、家賃と通勤時間の壁で「頼れる大人」が遠のき、出産の瞬間にすら支えの輪が閉じてしまう。
病院長は「将来が――大学も就職も――壊れるから」と手紙に書かれた若い母の例を挙げたが、それは都市構造が差し出す“孤立のテンプレ”に他ならない。
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理翔の提案
理翔はガラス窓に手をつき、街の灯りを指で切り分けるように線を引いた。
「もし国土じゅうに “都雇圏人口110万人セル” を散りばめたらどうだろう。ひとつのセルに大学も雇用も助産シェルターも入るサイズだ。そうすれば、親子が“東京(本物)に引き裂かれた”なんて思わずに済む」
淡雪が首を傾げる。「110万って、根拠は?」
「都市経済学の回帰分析で、通勤ストレスや住宅費が急カーブになるのがちょうどその辺りなんだ。逆に言えば、緩やかな斜面の上限ギリギリ」理翔はタブレットで 都市雇用圏と人口移動の散布図 を示した。
Eroyama「補足すると、地価最高点徒歩4分新築70㎡は都雇圏80万人以下が4000万円、110万人でも4800万円と世帯年収500~600万円でも手が届く範囲だが、
都雇圏140万人になると8000万円と急激に価格が上がる。」
子どもたちの人形が、まるで聞き耳を立てるように手すりに寄り掛かった。
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ビジョン:セル網の上を歩く家族
理翔の人差し指がタブレットを滑るたび、夜の九州平野に淡いハニカムが浮かぶ。福岡 110万、久留米 110万、大牟田110万、熊本 110万――セルが隣り合い、国土のどこからでも(1番離れているところからでも)在来線とLRTで時間がかかったとしても片道45分。
「大学へ行っても、最初の就職をしても、家から“半日圏内”。親子の絆は移動コストに切り裂かれない」
熊本から声が聞こえる。
「18年前、あの病院は法律のグレーを踏み抜いてでも赤ちゃんを守った。だから東京(本物)が次の一手を打つなら、国土設計そのものを前進させる番じゃないか」
理翔の声は低いが揺るぎなかった。
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子どもが抱く“もう一つの東京(都雇圏50万人以上都市のこと)”
窓の外、遠くに見える首都の光は相変わらず眩しい。けれどガラスに映った子どもたちの瞳は、その輝きに背を向けるように理翔のタブレットへ集まっていた。
彼らが望むのは、首都の光などではなく、親と子が離れなくて済む地図――赤ちゃんポストが最後のセーフティネットではなく、あたりまえの布団と湯気の中で産声を上げられる国土だ。
理翔は静かにまとめた。
「110万セルの網が張れたら、子どもの“引き裂かれた東京”は、親と暮らせる“地元の東京”(東京本物と同じ享受対象があり、しかも親と暮らせる『地方東京』)に言い換えられる――そう思うんだ」
夜の廊下に、遠い踏切のベルがかすかに響く。それはまるで、未来のセル都市を結ぶ小さな鉄輪のプレリュードだった。
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> 参考にした主なデータ・報道
・熊本慈恵病院が2007年に日本初の「こうのとりのゆりかご」を設置し、累計180人規模の受け入れ実績を公表していること
・同院が2022年から内密出産を開始し、厚労省に制度化を求める議論が進んでいること
・都市雇用圏の人口と通勤・住宅コストを分析した経済学資料(日本銀行・都市経済学講義資料)に、110万人前後で費用曲線が屈折する示唆があること
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第80話第5パート-2
――「絆を切らない地図――110 万セルがつなぐ親と子の半径」
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1 深夜の待合ホール、ふと漏れた独白
熊本某病院・面会ホール。
点灯を落としたソファ列の隅で、茜は赤子の寝息に耳を澄ませながら、ぽつりと漏らした。
> 茜(呟き)「この子は、大きくなったら “お母さんに東京(本物)を奪われた” って思うのかな……。」
隣にいた淡雪が眉を寄せる。
> 淡雪「それを決めるのは “距離” じゃなくて “会える頻度” と “抱きしめる歩幅” かもしれない。」
2 理翔、ホログラム都市図を開く
廊下に浮かぶ AI o3 の投影をタップすると、夜空のような黒地に日本列島と ハニカム状の光点 が浮かび上がった。
ひとつひとつが「都雇圏人口 110 万人セル」。
> 理翔「大学に行く、就職する――そのたびに “絆を切るほど遠く” へ飛ばざるを得ない。
それが東京(本物)一本吸引の副作用。
110 万セルを国土に敷き詰めれば、
進学 や キャリア を選んでも 半日圏内 に帰って抱きしめられる。
“親子ごと(絆が切れ得る)東京(本物)” じゃなく、『歩いて会える都市網』 に切り替えるんだ。」
茜が手を伸ばし、光点の一つ――北九州セル をタップすると、スケールバーが現れる。
東京‐熊本 1,200km に対し、熊本‐北九州 経路150km。
赤子が成人する頃、この距離なら週末のバスひとつで行き来できる。
> 淡雪(微笑)「大学がどこでも、就職先がどこでも、“手を振れる” 範囲に家族を残す。
それがさす九が教えてくれた、『離れず産める国土設計』だよ。」
3 先生、静かに補足する
> 先生「“上京か、断裂か” という二択を消すために、
札幌‐旭川、金沢‐富山、松山‐高松、鹿児島‐熊本――
そんな “隣り合わせの大学街” を網目にする。
学びや働きを選んでも、抱きしめる半径は 90 分を超えない。
子と親が “東京(本物)の一点” に吸い寄せられずとも、
都市は知と仕事を回し、命は切れずに結ばれる。」
4 赤子の手のひら――未来を握り返す
茜が両手で小さな手を包む。
赤子の指が無意識に握り返した。
その温もりに、茜の表情がふっとほどける。
> 茜「もう “奪われた” なんて言わせない。
だって――この子が大学に行く頃には、
歩いて帰れるキャンパス が、
九州にも、本州にも、北海道にも、ハチの巣みたいに並んでるんだから。」
理翔は頷き、ホログラムを閉じた。
暗いホールに朝の気配が差し込み、
新しい地図――親子の絆を切らない国土――の輪郭が、
ほんのりと浮かび上がった。
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> ナレーション
親子を引き裂かない距離、
学びを止めず、働きを諦めずに抱ける距離。
110 万セル はそれを測る物差し。
東京(本物)に引力を奪われる前に、
日本列島を “会える都市” へ折り畳む。
さす九の灯はその最初のハニカム。