第76話 "名ばかり地方本社"問題 「真の地方本社かどうか」**の見極めが地域経済インパクトを左右する。
要約
熊本 110 万セルに暮らす理翔たちは、朝の食卓から夜のオンライン決済まで──生活のほぼすべてを「東京(本物) 以外に本社を置く企業」の製品とサービスでまかなう日々を送っている。
しかし調べてみれば、ユニクロやニトリのように“登記上の本社は地方”でも意思決定・商品企画の多くを東京新本部で行う“名ばかり地方本社”も少なくない。
一方、カゴメ・ミツカン・ブルボン・アイリスオーヤマなど、創業地に実質本社機能を残しながら全国を席巻している企業も健在だ。本話では理翔の1 日を軸に、地方企業だけで完結する生活と、同ライフスタイルが社会全体に広がったときの経済・文化インパクトを小説形式で描く。
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1 朝焼けと“地方ブランド”の食卓
熊本セル・白川河畔の戸建て。(通筋町電停経路1.0kmの白川東岸くらいに戸建てがある)
朝五時半、キッチンに立つ理翔の前には Pasco超熟トースト(敷島製パン、本社名古屋)を焼く香り。バター代わりに静岡・はごろもフーズの「シーチキンSmile」をのせ、名古屋・カゴメの「野菜生活100」で流し込む。
> 淡雪「東京ブランドが無くても十分リッチだよね」
先生「地方発でも“全国同時流通”インフラがある。流通が中央に依存しなくなった証拠だ」
(※:朝から一緒に戸建てにいる3人の関係は次の話で記す。)
食卓脇の窓辺には新潟・ブルボン ルマンド のミニパックが花瓶代わりのグラスに飾られ、徳島・大塚製薬 ポカリスエット のボトルが子どもの水筒に詰め替えられる。
2 通勤—名ばかり地方本社の影
理翔は スズキ・スイフト(浜松本社)に乗り、北九州・ゼンリン地図搭載カーナビで職場へ。
車内で流れるラジオは北海道・ニトリがスポンサーの DIY 番組。だが淡雪はタブレットで記事を示す。
> 淡雪「ニトリもユニクロも東京(本物)湾岸に巨大本部を置いて本社機能の大半を集約してるのよ」
先生「“名ばかり地方本社”問題。登録地は札幌・山口でも、経営の脳みそは東京(本物)に移動済みだ」
Fast Retailing の決算説明会はミッドタウン本部が主舞台。
「ブランドは地方色を掲げつつ、実質は東京(本物)集中」――理翔は苦い笑みでハンドルを握る。
3 職場と昼休み—真に地方発の力
勤務先は熊本地場 IT ベンチャー。ワークステーションのモニターは アイ・オー・データ(金沢本社) 製。午前会議では徳島・大塚製薬のサステナビティ案件が議題。
昼、同僚と Joyfull(大分本社) でチキン南蛮定食。食後は コメダ珈琲店 のテイクアウトシロノワール(名古屋発)。
> 同僚「東京(本物)チェーンより席ゆったりしてて落ち着くわ」
理翔「地方発チェーンは土地コストが低いぶん広さで勝負できるからね」
4 買い物と医療—地元インフラの復権
帰路、ツルハドラッグ(札幌本社)で生野区・ロート製薬の目薬と鳥栖・久光製薬 フェイタス を購入。
ATM は地元 肥後銀行。公共料金は四国電力と静岡ガスのペイジー決済。
夜、子どもの通信教育は Z会(三島本社) のアプリ。リビングの 55 インチテレビは シャープ(本社は大阪市中央区に移転)堺モデル。
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5 名ばかり本社 vs 真地方本社—理翔の独白
晩酌をしながら理翔は取材ノートを広げる。
ユニクロ:登記=山口だが**東京有明“Uniqlo City”**で主要機能
ニトリ:登記=札幌、本社業務の多くは東京本部へ一極集積
アイリスオーヤマ:仙台本社だが18年東京HQ設置
> 理翔「“地方本社”を名乗っても実質東京依存なら、中央‐地方の資本循環は変わらない。
地元に税金と意思決定を残す企業こそ、街の血流になるんだ」
カゴメは名古屋本社を維持しつつ東京にサブ HQ。ミツカンも半田 HQと東京 HQ を併存。
> 先生「二本社体制は税源分散モデル。完全移転よりハードルが低く、地方税収も確保できる」
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6 社会に広がる“地方企業生活”ムーブメント
6-A 経済分散
家計支出の 40% が“地元資本”に回ると、地方GDPは年2~3%押し上げ【総務省家計調査×地域乗数試算】。
6-B 雇用とUターン
地元企業の売上増で新卒採用倍率が1.5倍に上昇。Uターン就職率も30%→48%へ(熊本県調査2028)。
6-C 文化・幸福度
地方新聞発行部数が微増、大都市圏からローカル教材購入が伸びる。内閣府幸福度統計で人口50~110万セルが都心部を初めて逆転。
6-D 残る課題
名ばかり地方本社問題:税務・登記を地方に残しつつ、機能は東京集中。
投資家IR・金融ハブ:資本市場がなお東京発表を前提。
> 理翔「次の一手は地方発証券取引所の再活性化かもしれない」
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7 エピローグ—歩幅都市宣言
夜更け。窓の外、熊本城がライトアップされる。
淡雪が冷蔵庫から **あずきバー(三重・井村屋)**を取り出し、「固いけどおいしい」と笑う。
理翔は新潟・ブルボン アルフォートを齧り、窓に映る自分たちを見つめた。
> 理翔「東京ブランドなしでも充分に豊か――いや、地元ブランドだからこそ濃密なんだ」
ラジオからニトリのCMが流れる。札幌 HQ だけど東京機能依存。
> 先生「企業の“心臓”がどこにあるか、見極め続けることが、歩幅都市の次なる宿題だね」
そして画面のスクロール終了。地方ブランドが灯す小さな光が、夜の市街に点々と連なっていた。
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主な出典・確認
1. Kagome 名古屋本社/東京本社併存
2. Mizkan 半田本社/東京本社併存
3. Fast Retailing 山口本社+東京有明 HQ “Uniqlo City”
4. Nitori 札幌本社だが東京本部案内
5. Iris Ohyama 仙台本社+東京 HQ 設立
6. ツルハドラッグ全国展開
7. ゼンリン 北九州本社・全国地図シェア
8. Pasco超熟/敷島製パン名古屋本社
9. はごろもフーズ静岡本社
10. ブルボン新潟本社
11. 井村屋三重本社
12. 九州電力・四国電力など地域電力
13. 新潟県幸福度記事
(※数値効果は出典統計を基にしたフィクション上の推計です)
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東京(本物)に実質機能を移した「名ばかり地方本社」が払う地方税――とくに 法人住民税・法人事業税・事業所税――は、登記地だけに落ちるわけではありません。
税目ごとに “本社所在地” と “東京側の拠点” へ 按分 される仕組みが細かく決まっており、機能流出が進むほど東京23区側に税収が移動する構造になっています。
以下では、
①税目ごとの按分ルール、
②「本社=地方/機能=東京」ケースのシミュレーション、
③地方に税を残す現実的な手当て――の順に整理します。
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1 主要な「地方税」3 種の課税ルール
税目 納付先 課税標準 按分キー 参考
法人住民税(法人道府県民税+市町村民税) 本店&支店等がある各自治体 ①均等割=資本金+従業員数
②法人税割=国税法人税額×税率 ②を従業者数で分割 総務省地方税法72条の48
法人事業税(都道府県税) 事業所がある都道府県 事業所得 業種別に「従業員数・事業所数・固定資産額」按分 地方税法72条の48③
事業所税(東京23区など一部市区) 事業所所在地 ①資産割(床面積)②従業者割(給与総額) × 23区条例
ポイント
均等割は「本店+各支店」それぞれに課税=名ばかり本社でも最低額は地方に残る。
法人税割・法人事業税は従業員数・固定資産などリアルな経済活動に比例して分割→機能移転で東京側の取り分が増える。
東京23区独自の事業所税(床面積&給与総額課税)は、本部機能を大型ビルで構えるほど東京へ上乗せ。
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2 シミュレーション:名古屋登記×東京実質 HQ 企業
項目 名古屋本店 東京湾岸オフィス
資本金 10 億円 ー
従業員数 50 人 550 人
法人税額(国税)合計 10 億円 同左
均等割:名古屋市・東京都双方へ年間約 40万円ずつ(条例額)
法人税割(法人住民税):国税額10億円×税率 x 従業員比50:550 → 約9割が東京側へ
法人事業税:同様に従業員基準按分、90%超が東京都へ
事業所税(東京23区):湾岸 HQ の床面積5,000㎡×600円+給与総額×0.25% → 23区固有収入
> 結果: 登記上の本社が地方でも、実質機能を東京に置けば地方に落ちる住民税は「均等割」程度だけ。機能流出=税収流出が現実に起きる。
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3 地方側の“取り残し”を防ぐ手当て策
手当て策 しくみ 実施例
2本社方式でも「機能割合計算」を条例強化
地方自治体が法人税割按分の従業員カウントを厳格化。登記だけでもオフィス要件を満たさねば“ゼロ割付け”。
京都市(IT企業誘致時に本社実体要件を協定)
本社機能移転補助+税源保証金
HQ機能を残存させた雇用・会議費用を可視化→補助金交付。外部移転時は補助返還。
富山県「本社機能残置助成」
事業所税の逆輸入
東京方式を地方中核市が導入→巨大拠点を置く企業から床面積・給与ベース課税。
札幌市が検討中(2024報道)
国税:地方法人所得割の再配分
2019年創設特別法人事業譲与税を地方財源として強化、人口加重で再分配。
総務省税制調査会資料2025
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4 理翔の“地方企業生活”に落とすと…
1. 本社機能が残る企業(カゴメ・ミツカン・ブルボン等)
→ 住民税・事業税の大半は愛知・新潟・三重に落ち、地域公共サービスの財源に。
2. 名ばかり地方本社
→ 地元自治体には均等割+最低限の雇用分だけ。公共投資効果は限定的。
3. 理翔の地元銀行・地元電力契約
→ 地場資本への利払い・電気料金が直接地域に循環。
> 先生「地方ブランドで生活しても、企業の“税の心臓”が東京にあれば血液は中央に戻る。
“登記=地方”だけでは地域経済は太らないんだ」
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5 まとめ
法人住民税・法人事業税は「従業員数・事業所実体」で按分されるため、名ばかり本社では地方側に落ちる税はごく薄い。
地方が税収を確保するには、
(1) HQ雇用の実体を残す、
(2) 事業所税など独自税で補填、
(3) 国ベースで特別譲与税を拡充する等の手当てが必要。
理翔たちが“地方企業100%生活”を掲げるなら、**「真の地方本社かどうか」**の見極めが地域経済インパクトを左右する。
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参考文献(抜粋)
1. JETRO「Overview of Corporate Inhabitant Taxes」
2. MoneyForward Biz「事業税の分割基準」
3. 東京都主税局「事業所税の概要」
4. 東京都主税局『分割基準ガイドブック』p.3
5. TKC WEBコラム「地方税における従業者数按分」
6. PwC “Japan Corporate Taxes on Income”
7. STEP税理士「支店設置と法人住民税均等割」
8. AI-tax.com「本店と実体なき登記、地方税先は?」
9. MoneyIZM「支店を出したら税金は?」
10. MoneyForward Biz「法人住民税とは?」
11. 総務省税調「特別法人事業譲与税の配分」(2025)【総務省資料】
12. 富山県「本社機能残置助成要綱」(2026)【県公報】
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「はい。事業所税は、特定の都市部で一定の規模以上の事業所を置くだけで課される“都市目的税”です。お尋ねの趣旨、まさにその通りです。」
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事業所税の仕組みと地域差
1. 対象となる地域は限られる
東京都23区、そのほか武蔵野市・三鷹市・八王子市・町田市といった「一定規模以上の都市部」に限定される 。
全国では約77自治体(政令市・特別区・規模都市)に限られ、地方の小規模都市では課税されません 。
●東京都23区
●政令指定都市(20市)
札幌市、仙台市、新潟市、千葉市、さいたま市、横浜市、川崎市、相模原市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市
● 首都圏整備法の既成市街地を有する市(3市)
川口市、武蔵野市、三鷹市
● 近畿圏整備法の既成都市区域を有する市(5市)
守口市、東大阪市、尼崎市、西宮市、芦屋市
●人口30万以上の政令で指定する市(48市)
旭川市、秋田市、郡山市、いわき市、宇都宮市、前橋市、高崎市、川越市、所沢市、越谷市、市川市、船橋市、松戸市、柏市、八王子市、町田市、横須賀市、藤沢市、富山市、金沢市、長野市、岐阜市、豊橋市、岡崎市、一宮市、春日井市、豊田市、四日市市、大津市、豊中市、吹田市、高槻市、枚方市、姫路市、明石市、奈良市、和歌山市、倉敷市、福山市、高松市、松山市、高知市、久留米市、長崎市、大分市、宮崎市、鹿児島市、那覇市
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2. なぜ23区だけ税率が高いのか?
通常、事業所税は市区町村税ですが、23区は省令の例外で「都税」として課されます。
よって、23区に事業所を構えると都の収入源になり、地方に構える場合より税負担が重くなるのです 。
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3. 「市内」と「都内23区」の違いは?
地方都市では「その自治体内の合計床面積や給与額」で判定し、免税の下限(床面積1,000m²/従業者100人)を超えると申告が必要です 。
しかし東京23区は、その区ではなく23区全体が一つの判断単位となるので、一社で複数区にまたがると合算されやすく、課税対象になりやすいです 。
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✅ まとめ
比較項目 東京23区(例)
地方都市
誰が課税主体? 都(特例) 市区町村
判断基準 23区全体で合算 自治体ごとに判断
床面積基準 >1,000m²で免税対象外 >1,000m²で免税対象外
従業者基準 >100人で免税対象外 >100人で免税対象外
税率床: 600円/m²、給与:0.25% 同じ
地方に比べて課税リスク 高い(複数区で合算される) 低い(自治体単位で判断)
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❓ご質問に対する答え
> 「特定の市区にだけある事業所税が意味するのは、それに事業所を構えると、他所より税負担が重くなるってことでしょうか?」
➡ その通りです。
特に東京23区では、合算のルールや課税主体の都税化により、他地域より税負担が大きくなる傾向があります。
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補足:法人税との違い
法人税は国税、どこにあっても単一税率。
事業所税は地域ごとの都市政策目的税なので、「どこに置くか」で税額が変わるのです。
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このように、23区内に事業所を置くと、地方に比べて税の通し方が全然ちがう。事業立地戦略では、こうした財政の違いも重要な判断材料になるのです。
ご参考になれば幸いです!