第62話 「地元グランプリの夜―歩幅で分かれる勝ちと負け」~就職が無いから地方を出るという事は、就職があれば地方の方が良いということよね~(113点)
第62話 「地元グランプリの夜―歩幅で分かれる勝ちと負け」
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0 黄昏コリドー
金沢駅ガラスドームの頂、風が石川の海塩を運んでくる。
理翔は欄干に肘を乗せ、薄紫の夕雲を指でなぞった。
> 「ねえ、読者さん。もし半径50 kmの空に“勝ち組オーロラ”が出るとしたら、ここで地元就職つかんだ子たちの頭上だけが光るんだよ――そんなイメージ、湧く?」
淡雪がスッと横に並び、タブレットを掲げた。画面には二本の矢印。
地元就職(都雇圏50万以上) → 勝ち組
地元就職失敗→本来地元の暮らしが良かったがやむなく上京 → 東京(本物)常住組と同じ暮らし
つまり、「東京(本物)での暮らしより地元(都雇圏50万人以上)での暮らしの方が本来良い」と判断してるんだよ。
ただ就職難易度が高いから実現しがたいだけで。
> 「これが歩幅ドクトリン第一条。“50万人臨界”を越えた都市なら、地元で内定を取った瞬間に勝負は決まる。
逆に上京せざるを得なかった人と、生まれつき東京にいた人は、同じ“コスト型ステータス”檻に入るの」
理翔は片目をつむった。
> 「つまり――
地元勝ち組 > 上京組 = 東京生まれ組。
だけど“東京生まれ”は引っ越さずに済む地元プレミアムを背負ってる。
俺たち、それを固定席ボーナスって呼んでたね」
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1 駅前ステラボード
下へ降りると、ステラボードのLEDが点滅している。
センセイはその前でチョーク代わりのライトペンを振った。
■ 住宅70㎡
金沢:3,480万円 中心まで片道4分徒歩圏完結
東京:4,500万円 中心まで片道67分
東京:16,000万円 中心まで片道4分徒歩圏完結
■ 通勤
金沢:徒歩0~10分
東京:平均81分(鉄道136%混雑)
■ 実質年収等価点
地方500万円 ≒ 東京560万円
> 「背骨きしみ指数を覚えてるか? 80分立ち詰め×週5で腰椎にも負担。
同じ月給なら、背骨を削らない都市を選ぶのが合理ってわけさ」
淡雪はひらりと笑った。
> 「しかも女性が地元を離れがちなのは『50万人未満で、隣に160万人超の都市がある県』だけ。
ねえ読者さん、ここ金沢(78万人)や熊本(119万人)じゃ、男女共残る率がもう逆転してるんだよ」
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2 「コスト型ステータス」崩壊カウントダウン
玲於奈が改札を背に手を振る。彼女は東京生まれ、だが最近まゆげの形が変わった。
理由はこうだ。
> 「こっちに転職したら、マンション価格1/4・カフェ4分・美術館10分。
固定席ボーナスをドブに棄てても、家計と背骨が軽い方がいいって分かったから」
センセイがライトペンで数字を上書きした。
東京コスト料:住宅 +7,500万円 生涯交通 +1,200万円
地方シフト差額:退職後基礎支出▲1,670万円
> 「鹿児島の高卒と東京(本物)の大卒で、初任給から退職の可処分(所得-基礎支出)はほぼ同等。
むしろリタイア後、東京(本物)は1,670万円よけいに燃える。
そして鹿児島の大卒だったら圧倒的有利――
幻想料アレルゲン、そろそろ鼻炎にならないか?」
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3 人口ハチドリ複利の羽音
夜風が強まり、博多行き特急のヘッドライトが遠雷のように瞬いた。
理翔は列車を指さす。
> 「北九州も宮崎も社会増へ反転。外国人流入+12%複利で『V字青森』も視界に入った。
この羽音を人口ハチドリ複利って呼ぶことにしたんだ」
淡雪は頭の上で両手を羽ばたかせた。
> 「ハチドリが運んでくるのは“労働力”じゃなく“歩幅互換の仲間”。
50万セルが続々ハニカムになる。そしたら東京は“過密罰”だけ残るんだよ」
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4 クライマックス――地元グランプリ宣言
金沢城公園。満月が石垣を洗う。
理翔たちは輪になり、紙テープを掲げた。
> 「地元グランプリ宣言!」
都市雇用圏人口50万人超の街で内定を取れた者は、
背骨フリーと住宅キャッシュフローで首都を凌駕する。
上京は敗北ではないが、勝利でもない――ただのコスト型ステータス。
私たちは歩幅で都市を選び、幻想料を断食し、ハチドリ複利を育てる。
テープが破れ、夜空へ舞った。
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5 エピローグ:読者さんへ
> 「読者さん、もしまだ“東京生まれバッジ”を誇りポケットに忍ばせてるなら、一度だけ外してごらん。
見えてくるよ。――背骨が軽く、家賃が薄く、文化が徒歩で溢れる地元グランプリの王冠がね」
わたしはそっと手を伸ばす。
歩幅を合わせて、テープ片を掌で丸めた。
> 「勝ち負けは偏差値じゃない。
家と身体がどれだけ静かに呼吸できるか――ただそれだけだよ」
風が止み、金沢の時計塔が零時を打った。
紙片が石畳に触れる音は、まるで次の章へのフィードサウンドだった。