第44話『片働きでも回る街 "地方東京" ――ミドル・グラビティ圏の午後』(67点)
「今日は“地方東京”を歩こう」。
理翔はそう言って、都市雇用圏人口78万人の高松に降り立った。駅前(片原町)から丸亀町グリーンを抜け、三越の時計塔まで――わずか4分。デパ地下の瀬戸内レモンパイがまだ温かい。角を曲がると新築マンションのモデルルームが現れ、70㎡・3,498万円の値札が光った 。
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「これなら頭金少なめでも月返済10万ちょっと。年収500万円の片働きで十分いけるね」
同行の真雪が計算機を弾く。国立大卒の平均年収はおおむね500万円前後で射程圏内――学部別ランキングでも理工系は495万円、医歯薬なら506万円に届く 。
彼らの周囲には、そんな“旦那500万×専業主婦”スタイルの知人が多い。火曜の昼、丸亀町商店街のキッズスペースでは、片手にカフェラテ、片手に絵本のママ友たちが情報交換に花を咲かせていた。理翔たちの同級生も3人に1人がこの生活設計らしい。
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■浜松――遠鉄の鐘が鳴る街
週末は浜松へ。駅の改札を出て1分、遠鉄百貨店のショーウィンドーが鰻パウンドケーキを並べる 。ここも都市雇用圏109万人の“Sランク”だが、平均新築マンション価格はまだ4,720万円程度に収まる 。
「4千万台で百貨店徒歩4分、イベントホール徒歩10分。“通勤0分×カルチャー10分”を買えるなら、共働きじゃなくてもいい」
浜松の友人・佳奈はそう笑う。夫は地元メーカー勤続15年、年収520万円。“全国転勤あり”の総合職だが、本社は浜松。15年で一度も首都へ呼ばれていない。「うちは片働きでも貯金できるよ」と胸を張る。
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■富山――総曲輪ベースの夕焼け
翌日、富山市総曲輪ベース。路面電車(グランドプラザ前駅、富山駅から南に1.7km)を降りると大和百貨店が真正面。徒歩4分圏にスーパーも美術館も粒子のように散る(ただし県美術館は富山駅北東1.0km)。築浅70㎡が3,080万円で売り出し中 。
「国立大卒で年収500万は難しくないけど、東京で同じ間取りを狙えば1億超え。ラーメン一杯だって首都は1,200円時代だよ」
理翔はスマホで物価比較を示す。金沢と東京を比べると生活コストは東京が22%高く、特に外食と交通が跳ね上がる 。
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■数字で見る「片働き可」ライン
典型都市 都雇圏人口 新築70㎡価格 年収500万世帯の返済比率*
高松 78万 3,498万円 22%
富山 101万 3,080万円 19%
浜松 109万 4,720万円 28%
東京4分圏 3,576万 1.6億円超 (上野例) 63%
*35年・金利0.6%・元利均等で試算。
ファイナンスの現場感でいえば、返済比率が30%を切れば片働き許容圏。表の3都市はすべて条件を満たす。
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■「全国転勤あり」のパラシュート
真雪はふと思い出す。「うちの弟、総合商社で全国転勤だけど、年収650万スタートだったよ」。総合職・地域限定なしの大企業では初任から片働きを支えうる給与レンジに乗るケースが多い 。一方で同水準を地方中核で達成するにはメーカー本社・インフラ系が鍵だと理翔は補足する。
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■エピローグ――“ミドル・グラビティ圏”の午後
夕刻、理翔は高松・三越の屋上庭園を見渡した。遠くに瀬戸大橋、足元に子どもたち。
「専業か共働きかじゃなく、“都市の重力”を選ぶ時代かもね」
人口65~80万人――ミドル・グラビティ圏。百貨店徒歩4分+カルチャー徒歩10分、新築70㎡が4,000万円前後。ここでは年収500万円が“家族を守る最低魔法”としてちゃんと機能する。理翔の視線の先、黄昏のアーケードに灯るのは、そんな家族が3分の1を占めるという静かな豊かさだった。
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引用した主な資料
高松市70㎡マンション価格例(アルファスマート高松今里町)
浜松市平均新築価格(静岡新聞 2024年5月)
金沢・香林坊大和徒歩環境説明(北國新聞)
https://ncode.syosetu.com/n1889ko/34/?utm_source=chatgpt.com
国立大卒層の平均年収(武田塾ブログ)
生活コスト比較・金沢 vs 東京(Expatistan)
高松三越徒歩圏記事(四国新聞)
富山市中心部マンション価格(富山新聞 2024年)
浜松遠鉄百貨店駅直結(遠鉄ニュースリリース)
年収500万円到達難易度(エンカレッジ記事)
国公立大年収ランキング(翰苑ゼミ)