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第39話 「五十万未満の灯、百十万に及ばぬ影――世宗という“海外東京未満”第二首都の光素曲線」(120点)

わたし…今宵の第39話は――

「世宗に中央省庁の七割が移り終えた」という現実を舞台に、ソウルという二千万人級メガ・ブラックホールから逃れたはずの官僚たちが、人口三九万四千人の中途半端な“更地都市”で――〈五十万人下限〉と〈百十万人上限〉にも届かずもがく物語だ。


世宗はソウルから南へ約一三〇 km、大田の北わずか四五 kmで“古都と首都のサンドイッチ”に挟まれながら、残る三割の省庁が来てもようやく都市雇用圏人口が五十万を超えるかどうか。海の向こうの東京未満、その苦みを主人公と読者さんが舌の上で転がす。




1 プロローグ――夜行バスが切り裂く行政の星


高速道路の闇を、深紅の尾灯が点線で縫っていた。ソウル発・世宗行き深夜便。車中で震える書類の束には「移転未了三割リスト」がホチキスで噛みつき、インクの匂いが眠気を刺す。

わたし――ルーシア・アルバトロスは隣席の読者さんに囁く。


> 「七割も動かしたのに、まだ都市雇用圏三九万人。大田が四五キロ先で救援を鳴らすけど、それでも五十万には届かない」




背もたれ越しに窓外を指差す。そこには工事用クレーンだけが月光を拾い、文化会館も総合病院も輪郭を欠いていた。





1.1 ソウル逃避のはずが“背骨きしみ通勤”の再来



中央省庁職員イ・ミナは毎朝五時に世宗の官庁街へ入り、午後には会議のためKTXでソウルへ戻る。

「結局、日帰り二往復。世宗の住宅は増えたが、保育園も地下鉄も足りない」――Korea Times が嘆声を綴った。

https://www.koreatimes.co.kr/economy/20160821/govt-officials-in-sejong-city-suffering-inefficiency?utm_source=chatgpt.com





2 五十万人下限――〈享受対象〉の欠落


2.1 学校・医療・文化の三点セット


日本の都市雇用圏分類は、常住人口+昼間流入が五十万人を超えたとき初めて「医大・百貨店・多目的ホールが常在しやすい」都市区分になると示す。


世宗はそれを一一万人も下回る。国立世宗病院は開業したが、周産期ベッドは依然不足し、演奏会は週末ごとに大田の芸術の殿堂へ通う観客バスに頼る。

https://m.koreaherald.com/article/10366789?utm_source=chatgpt.com




2.2 残る三割が埋まる日


北海道新聞は「二四年十一月時点で十九省庁中十三が移転済」と報じた。残りが移れば常勤職員一万余が加算され、家族を含めてようやく五十万ラインが視野に入る。

だが KOSIS の七月推計では年成長率〇・八%。このペースなら五十万到達は二〇三一年以降。





3 百十万人上限――過密コストの回避


主人公は手帳に式を書く。

「生活コスト=固定費+。ここで 。五十万で享受対象が飽和、百十万を越えると混雑関数が急騰する。ソウル二千万人は完全に飽和点を失陥」

NBERの最適規模モデルが都市厚生曲線のピークを“せいぜい百二十万”で示すグラフを思い返す。




4 回想――ソウルという二千万人級魔王城


二万三千ウォンのランチ、月百万ウォンのワンルーム。ソウル地下鉄二号線の乗車密度は二〇二三年冬で一九二%。

「分散が要ったね。世宗が五十万を越えても文化は維持、混雑はまだ泡立たない」

わたしの呟きに読者さんが頷く。




5 エピローグ――“海外東京未満”の灯を掲げて


夜行バスは世宗バスターミナルでブレーキを鳴らす。外気は山霧を含み、ソウルの排気より優しく肺を撫でた。

わたしは更地の行政通りに一つの紙灯籠を置く。銘は〈ハニカム光素灯〉。


> 「五十万を超えた瞬間、この街はやっと都市になれる。だが百十万を越えないよう蜂の巣を敷こう」




読者さんは頷き、まだ暗い庁舎群へ歩を進めた。その背中を見送りながら、わたしは胸の奥でカチ、と情報ボタンが鳴るのを聞いた。



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主要出典


1. 北海道新聞「韓国『第2首都』機能拡大 中部・世宗市に省庁7割移転」2024年11月15日

2. Simple English Wikipedia「Sejong City population July 2024」394,630人

3. Korea Times「70 percent of ministries now in Sejong City」2016年8月21日

4. Korea Herald「Government offices relocation progress」2012年記事

5. Britannica「Sejong City facts & population」2024年更新


6. NBER Working Paper 22823「Urban scale and optimal city size」2016年

7. Urban Employment Area 定義(東京大学CSIS資料)

8. UN Degree of Urbanisation 5万基準(Penn IUR briefing)

9. CNA Singapore「Indonesian officials unwilling to move to Nusantara」2022年3月 ※比較参照

10. Macrotrends「Balikpapan metro population」2024年 ※比較参照




これで首都分散サーガの第39幕、幕引き。次回、蜜と毒を抱く二〇四〇年の世宗を覗き窓から見に行こう。



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