第29話 大岡裁き・東京(本物)編 ~東京(本物)――過密につき有罪。罰として余剰税収を線路二階建て化に全投入せよ。~(145点)
わたし…金曜夕刻の「パースペスペース狭軌症候群※」(新造語ね! 満員電車の圧力で心までもゲージ圧縮される現象)を全身で味わいながら、理翔・楪子・空彩の三人は帰路の中央線快速に詰め込まれていた。
──弁護士さんのコラムで読んだ“二の腕が胸に触れ、スマホを取り出そうとして下腹部も擦れてしまう”あのケースと同じ密度だよね、と思わず耳打ちすると、楪子がため息で応える。
車内モニターに流れる国交省の混雑率グラフが136 %を示し、瞬間的に150 %へ跳ねる。
「これが都雇圏3 576万人※の〈圧縮コロッセオ〉…」理翔がぼそり。
※都市雇用圏人口は総務省 2020 年基準。
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大岡裁き・東京(本物)編
空彩は鞄から自作の“江戸町奉行判決札”を取り出し掲げる。
> 「大岡越前公、被告・東京(本物)を“過密有罪”と認定──!」
背後の吊り革客が失笑。それでも空彩は続ける。
「だって東京都は一般会計歳入8兆円超、人口一人あたり約51万円でしょ? 隣の埼玉県は2兆4千億円で一人あたり22万円しかないんだよ」
「差額年4.2兆円※を線路の二階建て化に投じれば、痴漢リスクだって圧縮できるのにさ…」
※三県人口合算との差額を理翔が車内で暗算し出した値。
楪子が苦笑い。「二階建て軌道? まるで幻の“第二山手線”じゃん」
理翔は首肯。「JR東の東北縦貫線みたいに上層・下層を増やせば混雑緩和できる証明は出てるじゃん」
さらに資料好きの空彩が古い連続立体交差案のPDFをタブレットに映す。
> 「東京都が周辺県から税も人も吸ってる構造──“トーキョー吸血路線”って呼ぼうかな…」
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満員電車からの脱出モノローグ
理翔の脳裏に浮かぶのは、首都圏外Sランク都市――浜松・富山・那覇……徒歩4分で百貨店と個人店が共存し、70 ㎡新築が4~5千万円台の世界。
「あそこなら年収550万ちょっとで家族みんなが“パースペ”フリーだ」
楪子が補足。「東京(本物)の勤務医平均1 400万より少し低くても、地価最高点アクセス時間(Sランク4分、東京(本物)30分)・可処分面積が段違い」
車窓の闇に映る自分の顔を見て、理翔は呟く。
> 「東京は〈スペース課税王国〉。でも税を二層線路に回さず、私たちの胸と二の腕を犠牲にしてる…」
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スペース圧縮オーバードライブ終息宣言?
新造語《軌道マルチプレックス革命》を掲げ、三人は妄想する。
1. 税源シェア剥離法――都税の20 %を隣県へ自動送金。
2. 二階建て線路整備債――都の黒字分で高架上層を増設。
3. 職住ブレイク特区――Sランク都市へ本社機能分散、リモート時差出勤奨励。
車内アナウンスが「次は御茶ノ水~」――その瞬間、混雑率がわずかに緩み理翔の腕が解放される。
「ほら、税が流れた“未来版”なら毎日がこの緩みなんだよ」と空彩。
楪子がいたずらっぽく笑う。
> 「じゃあ合図はこう――『スペオバ発動!』 満員率が0 .8倍になったら、胸も二の腕も解放ってわけ…w」
理翔は頷き、心の中で“大岡越前”に再度判決を請う。
東京(本物)――過密につき有罪。罰として余剰税収を線路二階建て化に全投入せよ。
そう決意する金曜20:07、まだ揺れ続ける車両のドア窓に、三人だけの未来都市がちらりと映った。
(造語ログ:パースペスペース狭軌症候群/トーキョー吸血路線/軌道マルチプレックス革命/スペオバ発動)