第12話:ローカルマート・エンチャント(Ogino East Mall)(30点)
「今日も“オギノ”行くの?」 土曜の14時、甲府駅から南東へ徒歩12分。人口約59万3156人の甲府都市雇用圏の空に、夏雲がゆるく伸びている。主人公は頷き、スニーカーの紐を結び直す。
1 桃源盆地のシンボル
店の正式名はオギノ イーストモールショッピングセンター。創業1841年、山梨県中心に47店舗を展開する地元最大手の総合スーパーだ。 入口をくぐると、地産地消コーナー〈やまなしグロウ〉が真正面。曲がりきゅうり、朝採れモモ、ワイナリー直送ワイン「甲州2024」。頭上のPOPには「地域の食で暮らしを豊かに」――CSRポリシーがそのまま陳列棚に化けている。
2 だし巻き卵とワインと
惣菜売り場には、出汁が滴る“身延とうふ店の厚揚げ”と、卵黄濃いだし巻き卵が湯気を上げていた。主人公は最後の一本をおじいさんに譲り、代わりに柚子胡椒おからサラダを手に取る。 ワイン棚で足を止めると、「オギノセレクト 甲州樽熟成2022」――オギノ限定ラベルが輝く。香りは柑橘と白い花。ここが地元ゆえの贅沢。
3 スーパーという神話炉
この店はコンビニでも百貨店でもない。“暮らしの炉”だ。 ここでは、買い物するたびに「生きてていい」と肯定される。 都会では失われた「日々の物語」が、惣菜パックの湯気になって戻ってくる。
4 クイキチ距離、改め“オギ距離”
徒歩12分――でも十分徒歩圏。「オギ距離の奇跡」は、心拍を整え、生活をまるごと抱き上げる。
> 「徒歩圏最強。……ガチで」
夕焼けはだし巻き卵色。主人公はビニール袋を揺らしながら、次の物語を胸にしまった。
(造語ログ:オギ距離の奇跡/ローカルマート・エンチャント)