第11話:非異世界チート・徒歩圏(主人公、転生しない)(45点)
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「月に行けるアポロより、パソコンとかスマホの方が“未来”って感じしない?」
そう、ある日、図書館の地下でパソコンの熱風に吹かれながら増田(はてな匿名ダイアリーの仮想人格)がこぼした。
「昭和世代ってさ、なぜか“空飛ぶクルマ”とか“どこでもドア”とか、移動手段ばっかありがたがるよね……。未来=すごい移動って固定観念、ない?」
それを聞いた主人公は、小さく肩をすくめた。椅子に深く沈み込みながら、つぶやく。
「いや……たしかにね……でも、ほんとうにすごいのは“動かなくていい場所”じゃないのかな……?」
小声だったけど、その言葉は周囲の光景をまるごと書き換えた。
──地方都市チート。
──徒歩圏生活、最強説。
──現実逆転もの(ただし転生しない)。
主人公は東京の片隅、つまり《エグゾ東京圏》から「流されるように脱」して、たどり着いたのは地方都市。そこには、徒歩7分圏に美術館、百貨店、商店街、ホール、役所、病院、図書館、ぜんぶある。
異世界じゃない。
ファンタジーでもない。
でも、この圏内で生活が完結する感覚は、もはや別の次元。
「わたし……こんな場所が現実にあるなんて、知らなかった……」
それは“無自覚チート”だった。魔法でもステータス異常でもない。──徒歩圏。それだけ。
「だって、通勤で片道90分とか、平気で“生活の燃料”使い果たしてたし……」
主人公の手には、地元スーパーの小さなエコバッグ。その中身には、少し古びた詩集。ふと、その目が潤む。
「ここでは……たった5分歩くだけで、生活がまるごと迎えてくれるんだね……」
脳裏に浮かぶのは、あの強制スクロール都市──本物の東京、genuine tokyo。
情報密度だけ高くて、歩道は細く、店は遠く、息は詰まり、時間は失われ、そして「何も届かない」まま日が暮れていた日々。
でも、ここでは。
「歩けること」が、「暮らせること」に直結していた。
「これって……つまり、“都市偏差値”という呪いにかかってたんだ……」
主人公のつぶやきは、風に乗って消えていった。
その目には、もう“勝ち組”とか“都心”という言葉が、色褪せて見えていた。
──最強チートは、歩けることだった。
──異世界でなくても、勝てる現実はあった。
──ここが、わたしの“徒歩圏”だ。
(次回予告:第12話「徒歩圏の中の異世界」へ続く)




