6.詩は暗唱しないに限る
ここを歩き回って探すことになったとしても、大した労力はかからないだろうが、できればそれは避けたい方法だった。
果てまで花。一人にはなれない。世界が途切れそうで。
「どの花だね? どんな花なんだね」
絞り出すような声に、僕は視線を先生に戻した。ますますひどい表情になって、僕を見ている。
「黄色の蔓バラです」
「君にとって問題になるような花なのか?」
「分けていただけたらと思いまして」
少しはましな方向に顔を変えていただくには、さらにしばしの間が必要だったが、まぁそれは訪れた。手の中にもてあそんでいた若いフォーンの葉を離し、声を大きく張り上げて、
「君が責任を持つと言うのなら、渡さない理由はないな。喜んでついていくだろうし、あの子たちも」
「ありがとうございます、先生」
「来たまえ、フレディ」
失われた記憶を完全に蘇らせ、先生の足取りにためらいはなかった。
近寄らなければ決して見えないが、道は確かな方法で延ばされていた。この部分を考えると、先生は庭園を造りたいらしい。
だが他に目を移すと、木々は好きな方向に伸び、花は思い思いに咲いている。
先生らしい。そう言える。
そう言える場所で時間を過ごせるというのは、究極の幸せなのではないだろうか?
梢を駆けてゆく風の足取りに空を見上げ、僕はそんなことを思い付いた。それに返す答えが、僕の中にはない質問。
どこに答えを求めればいいのだろう。あるいは誰に?
誰からどんな答えを聞いたのなら、僕はそれを結論と名付けることができるのだろう?
幻の入り口には大きな緑葉を。城壁よりも堅固な守りとなり、支えである。
入れるのはわたしたちだけ。出て行けるのもまたわたしたちだけ。
気ままに重なるフォーンの葉をかき分けながら、僕は質問とは結びつきそうもないそんな詩の一節を思い浮かべていた。
そうだった、さっきもこれを思い出していた。出だしや続きは、覚えていないのに、やけにはっきりとしている一部分。
すると葉を越えたこちら側は、幻だということになる。何に始まりどう終結するのか知れないその詩を、そこまで頼りにするのなら。
僕の両手はまだフォーンを掴んだままだった。目の前にはその幹、その先には真夜中に開くコーラルの蕾、空をかすませるほど盛りのイオ、ラバンドゥラ。
入り口だと言うのなら、そうなのかもしれない。これだけ広がると、花と言うよりはまるで、……湖だ。