5.花鳥設え園と成す
押し寄せる馥郁とした香りに、僕は目を開いて顔を上げた。
門番を務めるアテネーの蔓が頬をくすぐる。渡ってきた海原をこんな山間で思い出していた。似ているのは、果てしなさだ。
ここからが、先生の園になる。天の下にもうひとつの天を敷く、曖昧な蔓が引く境界線を越えて、僕は深く息を吸い込んでいた。空気を確かめるように。
果てのない緑の海は、風を泳がせ揺れていた。太陽が遠い。気のせいではない。それなのにとても暖かく、僕は周りをぐるりと彼らに囲まれ、戸惑いを隠せず悟られてしまっていた。
僕は。
「フレディ! 君か」
声は轟くほど大きく、僕たちに響き渡った。このヴァルハラでは、彼の声は絶対だ。
柳をかき分け絡まりながらと、登場は不器用だったが、彼は僕と向かい合うことができていた。彼のおかげで。
「良く来てくれた。大変な道だっただろう。昨日はひどい天気だった。だが、この時期に降らないと困ることがある。そうだろう?」
そう一息に言ってのけると、僕の後ろを伺うように覗き見る。そしてしみじみと感心したように。
「よく一人で出られたな」
「心得てますから」
「それはそうだ」
たいていの約束事がそのように決着するように、到着時のその約束も危うく葬り去られるところだったが、とにかく僕は一人で出発することに成功していた。
僕が戻っているからといって、シェリーが予定のすべてをひっくり返す理由にはならないという点が、どうにも伝わりきれていない。戻る前に一度ゆっくり言い聞かせる機会を作らなくては。
「一休みしようと思いながら、なかなか切り上げられないでいたところだ。助かったよ。さぁ、中に入ってくれ」
二年やそこらの歳月に、影響を受けるような先生ではなかった。生活への満足が、真っ直ぐに伝わってくる。
そうでないはずはなかったのだけれど、僕は安心して、探していた物を思い出した。
目の前の空を横切ったカナリアが、記憶を呼んだのかもしれない。
行く鳥の後姿は、緑陰に消し去られる。焼き付けられたように目には残るけれど、もうその存在を確認することはできない。大きな葉は、幻の入り口に。
「その前にお聞きしたいことがあるんです」
「なんだ?」
「セラから花を持って来られたでしょう。ガルテンの入り口の花壇です。ミリアムの話では、魔法をかけてらっしゃるそうですけれど?」
眉を寄せて先生は、難しそうな顔をした。
まだ先月のことだけれど、忘れてしまったとしても不思議はない。今相手にしているのは、もともと、由来来歴には興味の薄い人なのだから