表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5.花鳥設え園と成す


 押し寄せる馥郁とした香りに、僕は目を開いて顔を上げた。

 

 門番を務めるアテネーの蔓が頬をくすぐる。渡ってきた海原をこんな山間で思い出していた。似ているのは、果てしなさだ。


 ここからが、先生の園になる。天の下にもうひとつの天を敷く、曖昧な蔓が引く境界線を越えて、僕は深く息を吸い込んでいた。空気を確かめるように。


 果てのない緑の海は、風を泳がせ揺れていた。太陽が遠い。気のせいではない。それなのにとても暖かく、僕は周りをぐるりと彼らに囲まれ、戸惑いを隠せず悟られてしまっていた。


 僕は。


「フレディ! 君か」


 声は轟くほど大きく、僕たちに響き渡った。このヴァルハラでは、彼の声は絶対だ。


 柳をかき分け絡まりながらと、登場は不器用だったが、彼は僕と向かい合うことができていた。彼のおかげで。


「良く来てくれた。大変な道だっただろう。昨日はひどい天気だった。だが、この時期に降らないと困ることがある。そうだろう?」


 そう一息に言ってのけると、僕の後ろを伺うように覗き見る。そしてしみじみと感心したように。


「よく一人で出られたな」

「心得てますから」


「それはそうだ」


 たいていの約束事がそのように決着するように、到着時のその約束も危うく葬り去られるところだったが、とにかく僕は一人で出発することに成功していた。


 僕が戻っているからといって、シェリーが予定のすべてをひっくり返す理由にはならないという点が、どうにも伝わりきれていない。戻る前に一度ゆっくり言い聞かせる機会を作らなくては。


「一休みしようと思いながら、なかなか切り上げられないでいたところだ。助かったよ。さぁ、中に入ってくれ」


 二年やそこらの歳月に、影響を受けるような先生ではなかった。生活への満足が、真っ直ぐに伝わってくる。


 そうでないはずはなかったのだけれど、僕は安心して、探していた物を思い出した。


 目の前の空を横切ったカナリアが、記憶を呼んだのかもしれない。


 行く鳥の後姿は、緑陰に消し去られる。焼き付けられたように目には残るけれど、もうその存在を確認することはできない。大きな葉は、幻の入り口に。


「その前にお聞きしたいことがあるんです」

「なんだ?」


「セラから花を持って来られたでしょう。ガルテンの入り口の花壇です。ミリアムの話では、魔法をかけてらっしゃるそうですけれど?」


 眉を寄せて先生は、難しそうな顔をした。


 まだ先月のことだけれど、忘れてしまったとしても不思議はない。今相手にしているのは、もともと、由来来歴には興味の薄い人なのだから



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ