4.姫からは監禁の申し出と旅への譲歩を
「いつ行ってしまうの? 怖いことは先に聞いておかなくちゃ」
「十五日の朝にはここを出なくてはね」
シェリーは手もつけられないと言うように首を降った。合わせて、声に出して息を吐く。
自分でも慌しい日程だとは思うが、問題の焦点はずれてしまい、すでにそこにはない。例え滞在が半年一年だろうと、帰って来ると言わない限り、そうしてそんな目で僕を責めるつもりなのだから。
理由は何度も説明したように、僕はそう簡単にはここには帰れない。あの国で僕は学ばなくてはならないことがある。
そして、期間の決定権は、僕のものではない。自分でもどうにもならないんだから。シェリー。
「疑惑は晴れるどころか、まっさかさまだわ、フレディ。こんなことばっかりだと、私がロンドンについてっちゃうんだから。それでもいいの?」
「それは無理だろう」
「勝手にするんだもん。お父様もお母様も関係ないんだから。勝手にすることだもん」
「二度と会えなくなるだろうね」
「フレディはひどすぎるー。ちっとも一緒にいてくれないくせにーっ。もう絶対ついてく。それで行方不明になるっ。カンキンして食事は一日一回なんだからーっ」
……まったく筋の通しようもないような無茶を大声で叫ぶ姿は、僕をあきれさせて、ほっとさせていた。
筋ならこっちも通していない。シェリーの成長を何よりの望みとしながら、まだ僕の手の範囲に止まっていることを嬉しく感じている。
この手の届く、僕を必要とする範囲。
いつまで続くのかはわからなくても、今はまだ、僕はここに役目がある。
いつまでも続けている訳にはいかないと、知ってはいても、まだ今は。
「ウィーンに一つ用事があって、回って帰る予定なんだ」
「そんなこと聞いてない」
「シェリーが行きたいのなら、許可は取れそうだけど、どうしようか。さっきの計画の方が良ければ、それでもいいよ」
「行く! 行く行くっ。それなら、もう少し一緒にいられるでしょ?」
「食事は一回でいい?」
ふくれるシェリーを見て、ミリアムが笑い出す。
僕はなんとか勝利を手にしながら、姫にさらなる譲歩を願い出た。もう一騒ぎの末、やっと許可していただいたのは、森の奥への小旅行。
こんなことになるとは考えていなかったけれど、僕は初めから、そこには行くつもりだったようにも思える。
僕の『あの』先生に、会いたくてたまらない気持ちになっていた。