3.再会(空白は半年だけど)
噂の姫君は『約束』を守り、よそゆきの顔をして、僕の挨拶を待っていた。
僕を正しく迎えること。それは、対外的な意味において。
誰が見てもいぶかしむことのない正しさを、僕たちはそろそろ練習しておかなくてはならない。
「ただいま戻りました」
ロンドンに発つ前夜。合意に至るまでに、ずいぶん時間を費やさなければならなかったが、約束は確かに交わされていた。
いつまでも同じ状態ではいられない。シェリーがこの場所を後にする『将来』は、すでにそれほど遠い未来ではない。
僕は誰かに指摘される前に、自分で決断を下さなくてはならなかった。外部に意見させる機会を与えるような、そんな隙は見せられない。
彼らは何も知らないのだ。だからこそ見ている現実に、至極もっともな意見を吐き出すことができる。
彼らの基準が、感情に流され過ぎている僕よりも正しい。だから簿は彼らの誰よりも先に、そこにたどり着かなくては。
知って欲しい訳じゃない。そんなことは望んでいない。
話すことなどできない。秘密の扉は閉ざしたまま、何者も手を掛けることのなきように。
何者も。例えそれがシェリーでも。
シェリー。シェリル・セシリア嬢は正しく美しく、僕に右手を差し出した。
ここが意地の見せ所と言わんばかりの微笑みを貼り付けた表情は、相手が僕でなければ、充分麗しく近寄りがたい、と言うこともないとは限らない、と言えないことも――
「遅いーっ」
そこまでが限界だったらしい。姫は重たいその椅子を後方にずらして立ち上がり、健康そのものの勢いで、僕に飛びついてきた。
これでも半年前の出発点を考えると、これを成長と簡単すべきかもしれない。
僕の目はシェリーの頭の向こうに、ミリアムの姿を探していた。
君は、どっちだと思っているんだ? 僕に確かめさせたがっていたものを、笑っていないで、答えなさい。
「どうしたらお父様のところからここまで、こんなに時間がかかっちゃうの? どんな家なのよ、ここは」
「中庭を抜けてきたんだよ。元気だね、良かった」
「まだ元気だなんて一言も言っていないのに、どうしてそう言うの? ちょっと元気ないみたいだけどだいじょうぶ、とか、なんかないの? そういうの」
「……元気ない?」
「あたりまえじゃない。フレディがいなくて、なんで私が元気なの? 会いたかったの。ずっとよ」
「僕も会いたかったよ、シェリー。そんなところを疑われる覚えはないけれど」
口に出さない疑惑はすべて目を通して僕に投げつけられていた。それこそ心外なのだが、どうもシェリーには伝わらない。一度貼られた裏切り者のレッテルは、そう簡単にはがしていただけないらしい。
困るのは、だんだんと僕自身がそういう気分になっていくことだ。どうにかして償わなくてはならないような気持ちになる。
だからミーア。離れていなければならないんだ、僕は