1.約束の日ではなかったが、彼は帰還した
それでもやはり、僕は喜んでいる。
この土地に立ち、歩みを進めることを、喜ばずにはいられないのだ。
濃緑の森に果てはなく、水の香りのあふれ出る大地。
僕の育った、――リンクウォルトの空が迎える。
「こちらにいらしたんですね、フレデリック様。もう先程からお待ちかねですのに」
立ちつくしていた僕はその声に振り返り、ミリアムの姿を認めた。
僕を見つけるのならこの娘だろうと、半ば予想していたような気持ちになるのは、そんなことばかりを繰り返しているからなのだろう。
僕がシェリーのために考え出し教え込んだその方法で、彼女は僕を探し出す。
予想以上の立派な成長ぶりに口元が緩むのを隠すために、僕は体を元に戻した。僕の満足に立ち止まらせるわけにはいかない。まさか。
「どうかなさいましたの?」
雨を受け入れ続け、本来の色を失った石柱が支える回廊から足を踏み出し、ミリアムは庭へと降りてきた。隣に並んで感じた奇妙な違和感は、時間に端を発しているものだ。
目線が違う。背が伸びているから。髪を結い上げていたり、すっかり女性のドレスだったり、そんな外観からではなく内からの変化に、僕は何よりも驚かされているのだった。
時間は動いている。この場所から遠く離れて思い出す僕にとってだけ、止まったままだった。そんな当然の事実に驚く自分にこそ、僕は驚くべきだろう。
「フレディ様?」
「あぁ、すまない。探させてしまったね。すぐに行くつもりだったんだが」
目の前に生い茂るシャモアの群生に圧倒されて、僕はここで小声になった。
「ここにはバラがあったはずだと思って」
「あら」
何を考えたのか、ミリアムの声も小さくなった。そして意外な名前を口にする。
「それでしたら、フェルカー先生のところに」
「ローザンに?」
「先月こちらにご滞在の折に、預からせてくれないかとおっしゃられて。魔法をかけて返してくださるそうですわ」
「魔法」
「えぇ。魔法です」
きっぱりと言い切り、誇らしげに胸を張るミリアムを見て、僕は息をついてしまいたい気持ちになっていた。嘆息。君は昔から、あの先生に騙されやす過ぎている。
尊敬する信捧するといった点では、確かに僕も同じかもしれない。しかし。
魔法ですか。先生、あなたが。
「よろしいですか? フレディ様」
よろしいですね? その口調があまりにもマダム・ダルフージーに似通っていて、僕はとうとう笑ってしまった。待っていたのかもしれない。安心したように、ミリアムも微笑んだ。