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化け物と呼ばれた男

鉄筋コンクリートに囲まれた部屋の中央で、俺は椅子に縛られている。

最後の記憶は路地に入った直後。

この職を生業とする身だ、少し迂闊だったかもしれない。

「死ね、クソ詐欺師」

実行犯と思われる者達が陳腐な罵詈雑言とともに拳を打ち付ける。

彼らは皆一様に顔を歪ませ、次々と石や凶器などといった類のものを投げつける。

見覚えがある。たしか俺が特殊詐欺にひっかけた奴らだ。

下手に高学歴であるが故にプライドが高く、実に御しやすかった。これで8000万は稼いだ。割のいい仕事だった。

それが裏目に出て今のような状況になっているのだろうが。読みきれなかった自分の落ち度だ。慢心は恐ろしいものだ。

冥土の土産として、この教訓を心に刻んでおくとするか。

しかし彼らは俺のこの様をどのように思っているのだろうか。

因果応報?自業自得?

簡単に騙されるような阿呆のことだ。せいぜいここらが関の山だろう。

ただ勘違いはしないで貰いたい。

別に俺は悪事を働きたかった訳でもなく、その道に進むことしかできない能無しという訳でもない。

自分にとって最大の利益になることがわかっていたからだ。

自分にとって最大利益を得るよう動く。

これは昔から変わらぬ性質だった。

第二次性徴を過ぎた辺りからだろうか。そこらから他を上手く利用する事が最も楽だと気づいた。

金がないなら、誰かに金を出させればいい。

成したいことがあるなら、誰かを駒にすればいい。

幸運なことに他人より幾分かは頭が回った。おかげで大抵のことは上手くやれた。

もちろん無闇に不利益をばらまいていたわけではない。むしろ相手にとって利となる要素を使って人を動かしていた。

だから大抵の人からは感謝された。

両親も兄弟も教師も級友も、俺のことを賞賛し、崇め、そして次第に拒絶していった。

皆、口を揃えて化け物だと言った。

丁度目に前にいる彼らと同じ目をしていた。

彼らがどこからかタイヤを持ってくる。

ガソリンを入れ、俺の首にかけ、マッチに火をつける。

これも覚えがある。タイヤネックレスと呼ばれた処刑方法だ。世界史で軽く耳にした記憶がある。

最期を覚悟する。まさか21世紀にもなってこんな死に方をするとは思わなかった。

事実は小説よりも奇なりというのは案外的を射ているのかもしれない。

彼らの1人がマッチを放り投げる。

火はとてつもない勢いで燃え広がり、瞬く間に俺は火だるまとなった。

「いい様だ。さっさとくたばれ。この、化け物が」

朦朧とする頭をそのような言葉が殴りつけてくる。

化け物。

聞きなれた言葉だ。

他人を蔑ろにし、自分のために生きてきた俺に相応しい言葉なのかもしれない。

...もし俺が世のため人のため、それを目的に利益を追い求めていたら。

俺は人間と呼ばれていたのだろうか。

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