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少子化対策最前線

作者: 網笠せい

 外回りの最中、同僚が急にもよおしたとかで公園の便所に寄った。少し背の低い便器に並んで小便をしていると、同僚がぼやいた。


「子供が生まれてから嫁がさっぱり相手してくれへんねん」


 そういえば我が家もそうだった。子供が生まれてからというもの、女房はすっかりそっちにかかりきりで、玄関まで迎えに来て「おかえりなさい」なんて言ってくれることもなくなった。最近じゃあ、家に入る前から「お風呂に入りなさいっ」と子供を叱る声が聞こえてうんざりする。


「女は子供が生まれると変わるからなぁ」


 女房が笑顔で迎えてくれるのは、おみやげをもって帰った日だけだ。まったく、こっちは馬車馬のように働いてるってのによう。


「せっかく三カップは上がっとるのにやで」

「なんや、そっちの話かい!」


 まったく、拍子抜けだ。薄暗い便所におれの裏返った声が反響して消えていく。


「子供なんて作るんちゃうかった……」

「わかる気がするわ。もうちょっと旦那を大切にしてもらいたいわなあ」


 お互い小便を終えて手を洗いながら、熱いやりとりをかわす。


「母乳が出るからもまれへんわけよ。しかもめっちゃ固いねん。あんなんやから少子化が進むねんて。家族のために働いてるお父さんにこんなひどい仕打ちがあるか!」

「我々の生活環境改善を訴えるぅ、やな」


 三十分後に車に戻ったときには、同僚はスッキリした顔をしていた。たまっていたストレスを多少発散できたらしい。逆に車の中で待っていた女の子はひどく機嫌が悪かった。

 車をゆっくり発進させると、スピーカーから流れた大音量が、昼下がりの住宅街に響きわたった。あちこちで火がついたように赤ん坊が泣きだす。


「このたび児眠党から立候補しました! 熱い心で少子化への警鐘を鳴らします!」


(2005.9.24)

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