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4 俺を見ろよ渡辺!

「そりゃあ未来の稼ぎ頭達の為だからね。俺もみんなに成長してほしいんだよ。その為だったら幾らでも力を貸すさ! 貸させてください!」


 須藤はホワイトニングされた真っ白な歯を見せて笑った。歯までギラギラしているのか……。


「そーゆーとこほんと憧れます! あっ厚かましいですけど! 人を紹介してもよろしいですか!?」


 渡辺は俺の腕を掴んで席を立つ。それにつられて、俺も立ち上がる。


「村松吾郎君です! 今日私が連れてきました!」


 渡辺に紹介され、俺は軽く会釈する。立ってみて分かった。この須藤という男、ガタイがいい上にでかい。百九十はあるんじゃないのか?


 須藤は俺を見て、またニッと笑った。


「おお、流石蓮実ちゃん。これで五人目かな?」


「はいっ! 村松君はすごく頭もよくって絶対戦力になりますよ。東王大学まであと一歩のところまで来たんだとか!」


「へー。そりゃあすごいなぁ! どう、村松君。ここでその頭脳活かしてみない?」


「いや……俺は……」


 完全に言うタイミングを失ってしまった。この紹介のされ方はまるでもう入ることが決まったみたいじゃないか。それに……「これで五人目?」俺以外に先に誘われている奴がいたということなのか? だとしたらガッカリだ。これまでの手厚い俺への扱いにしても、引き止め方にしても、俺が初めての相手だと思っていたのに。


 そうとあらば尚更気分が乗らなくなった。いくら目の前にギラついた大男がいようとも、俺は主張を曲げたりなどしない。惜しい戦力を失ったな、渡辺。お前が最初に俺を誘っていれば、少しは気が乗ったかもしれないのに。


「やっぱり……ちょっと考えたいかなぁって」


「おーそうか」


 須藤が目を丸くする。


「私はここで決めないと後悔するよって言ってるんですよー。須藤さんもそう思いません?」


「うーん……」


 須藤は顎に手を当てて何かを考えた後、パチパチと拍手をはじめた。渡辺も俺も、その突然の行動に訳が分からずぽかんとする。


「いやぁ、その慎重な姿勢すごくいいよ。俺の講演聞いても決してそれを鵜呑みにせず、考えたいって言える冷静さ! 素晴らしい!」


「え? ああ……」


「確かに我々もさ、入ってほしいから良いこと沢山言っちゃうんだよ。もちろん嘘は言ってないよ? だから聞いている側からするととんでもなく良いものなんだなって強い刺激を与えちゃうんだよね。だから何も考えずハイ分かりました! ってやっちゃうのよ。でも君はそうならなかった。ほんとにすごい!」


「私は即決しちゃいました。あはは」


「ここだけの話ね。最初疑っていた人の方が、成功している率高いんだよ。冷静だから」


「そ、そうなんですか?」


「そうそう。さっきまでこの辺グルって見回っていたけど、みんな結構即決しちゃっている子多いよ」


「それは須藤さんの講演がやりすぎちゃっているからですよー」


 渡辺がそういうと、須藤は白い歯を見せて笑った。そうか、俺は冷静に疑えていたのか。

 まだ出会って間もないが、あれだけの波乱の人生を歩み、月に五百万円以上稼ぐCHARINのエースである須藤の発言には説得力を感じた。


 やはりまだ……ここで辞めてしまうことは早計だろうか。


「いや、須藤さん凄いです。私そんな見方できませんでした。ただもったいないって思っちゃって結構ぐいぐい言っちゃって」


「ああそれは良くない。彼の主張もちゃんと尊重しないと。でも君がそこまで必死になる理由もなんかわかったよ。彼、結構イイよ」


「ほんとですか!? わぁ……」


 自分が連れてきた俺が評価され、頬を赤らめて喜ぶ渡辺。クソっ。なんなんだこの気持ちは。


 俺が五人目ということが分かってから、彼女に対して何かイライラする。


 今喜んでいる理由も、俺が評価されたことに対してではなく、「俺を連れてきた自分を評価してくれたこと」に対してだ。俺のことはまるで見えていないようだ。


 渡辺。お前は俺を誘いたかったんじゃないのか? 俺とビジネスをやって共に成り上がって人生の成功者の仲間入りをするんじゃなかったのか?


 なんで、須藤ばかり見ているんだよ……。


 そうか……そういうことか。


 熱意に溢れた二人の話し声を聞いて、俺はハッとなる。


 ――俺がここで須藤(こいつ)より稼げば、渡辺は俺を見るようになる……?


 屈辱だと思った。五番目なことも、視線が須藤に釘付けになっていたことも。


 渡辺は唯一の俺の理解者だと持っていた。二流しかいない護摩沢大学内で、俺と対等な次元で語り合える同類……。だからこそ、渡辺は俺を誘ってくれたと思っていたし、俺もその気だった。


 だが実際は少し違った。俺を下につけ、五つ目の収入源として確保する。そんな思惑が、彼女にはあった。


 ならばどうするか。一番わかりやすい仕返しはこの誘いを蹴ることだ。だがそれでは俺の気が収まらないし、彼女が憧れる須藤曰く、俺には才能が有るらしい。


 ならばその才能を開花させ、彼女に俺の力を見せつける。ほかの四人よりも、彼女自身よりも、須藤よりも稼いでその羨望のまなざしを俺に集中させる。


 それが一番、俺が納得のいく仕返しだった。お前がなんとなくで誘った男はこれだけ大きな存在だったんだぞと、巨額の売り上げを彼女に献上し、俺なしの生活を考えられないようにして見せる。


 俺の中で熱いものがこみ上げてきた。これを何とか言葉にしたい。この二人に伝えたい。未来のCHARINのエースになる俺の言葉を、ここで聞かせてやりたい……。


 俺は武者震いで震える唇を動かし、二人に伝えた。


「俺、ここで人生変えます」

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