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14 戦場

 バーベキュー会の会場は東京の大きな公園を利用していた。休日ということもあり、家族連れや友人同士など、様々な団体で賑わっている。


 ひとまず会場に向かわねばと、俺は渡辺から教えてもらった場所を探しているが、中々見つからない。五十人くらい来ているとのことなので、スペースも目立つと思うのだが……。


「あれ? もしかして村松君?」


「うおーおつかれ! なにやってんのさこんなところで」


 うろうろしている俺を呼び止めた声があった。あの時俺とルビーヴィトンへバッグを買いに行った二人組だ。ツーブロックと焼きそば頭の。


「あっああっす」


「どうしたんです? 会場は反対側ですよ」


「あっ反対……だったんすね」


「行きましょ行きましょ! いろんな人来てますよ!」


 どうやら俺は反対方向に行っていたらしい。二人に会えなければ一生分からなかったかもしれない。正直助かった。


 会場は想像していた以上に多くの人数がいた。その殆どが俺と同じくらいか少し年上の若者ばかり。中央ではお肉を焼いているのか煙のにおいがもくもくと立ち込めていた。


 渡辺はどこにいるのだろうか。とりあえず到着したとLOINを送っておいた。


 とりあえず腹が減った。今日はまだ何も腹に入れていないからだ。俺は机の上に置いてあった割り箸を取り、コンロの前に向かう。


 コンロの前で、俺は戸惑った。隣に並べてある食材の隣に「肉一人五枚まで」と書いてあった張り紙が置いてあるではないか。バーベキューまでやってきて食べれる肉に制限があるというのか。腹が減っていた俺としては正直ショックだった。


 ただ、その肉の手前にでかでかと「松坂牛」と書いた張り紙が置いてあり、量より質を意識していることは理解できた。こちらとしては量を意識してほしかったが。


 とりあえず肉を一枚と制限のない野菜――玉ねぎとなすを幾つかとって紙の皿に乗せた。


 味はまあ普通だった。普通のバーベキューの味といったところだ。あと四枚しか肉は食べれないので、大事に頂かねばらならない。


「いたいた、村松君!」


 渡辺の声だ。俺は野菜をかきこみ、その方へ向かう。


「迷ったでしょ、全然来ないんだもん」


「いや、まぁ……ちょっと」


「あはは。とりあえずこっち来てよ。紹介したいから」


 渡辺に手を引かれ、俺は彼女の陣地へと向かう。そこには彼女の他に四人の男がいた。みんな冴えないコミュニケーションが苦手といった風貌をしている。


「村松君以外で私が誘った子達! 村松君の先輩だよ!」


「あっどもっす」


「…………」


 俺の挨拶に四人は軽い会釈で答えた。どいつもこいつも営業マンとしてどうなんだと思う。ブランド物も身に着けていないし、意識が足りていないのではないだろうか。この感じだと、誰も人を誘えていないのだろう。俺は少し安心した。


 こいつらになら、勝てる。


「みんな固いよ~仲間なんだからさ、仲良くなろう!」


「…………ああっす」


「……うっす」


 だが、売り上げを上げていないという点では俺もこいつらと何も変わらない。渡辺の稼ぎ頭を競う大会があったとしたら、全員がスタートラインで立ち止まっている状態だ。そう考えると、こいつらのことも何も言えなくなる。


 俺が少しでも稼いで、貢献しなければ。


 そもそもこの集まりの中で売り上げを上げている人の割合はどの程度のものなのだろうか。その割合によっては、俺の地位はかなり低いものになってしまうのではないか。


 考えれば考えるほど、息苦しくなってくる。もし俺があのノルマを達成できていれば、もっと堂々と参加できていたかもしれないのに。少なくとも渡辺の囲い出来ているこの四人よりは。


 暫くは誰とも話すことなく、野菜多めに、お肉は大事に少しずつ頂いた。温いお酒も置いてあったので、せっかくなので頂いた。


 お酒のせいか少し催してきたので、俺は皿を置いて場所を今一度記憶してかたトイレへと向かった。


 トイレは公衆トイレだったが、都内ということもあり清潔に保たれていた。俺は用を足し、会場へ戻らんとする。


「いや、俺は今日はやってやるぞ。馬鹿なマルチどもを晒上げてやんよ」


 俺の足が止まる。何やら不穏な声が聞こえたからだ。


 CHARINはマルチ商法ではない。それはCHARINのセミナーで何度も言われていたことだった。だが多くの人がマルチ商法だと勘違いしている。まさかとは思い、俺は隠れて声のする方を覗いた。


「やべえまじ緊張。え、めっちゃいたよー。え、なんて言って突撃しますか? そりゃあもうルシファー参上! でしょ! 俺の名前を知らしめてやるんだよ」


 そいつはパソコンを手に持ち、それに向かって話しかけているようだった。動画配信サイトの配信者というやつだろうか。


 俺はトイレの影に隠れ、暫くそいつの声に耳を傾けた。


「神回の予感? 任せておけって! いやまじで宣伝してー。今日ここ戦場だからマジで」


 暫く聞いてみたが、CHARINの名前やそれに関連するものは出てきていない。俺はもう少し身を乗り出して聞いてみることにした。


「え、それはやばい捕まるって! まあでもスドーの顔はマジで晒してやるつもり! あの詐欺師野郎潰すわ! あいつどんな顔するんだろ~まじウケる」


 おい、今須藤って言わなかったか? 俺はもっと身を乗り出して確信を得ようとする。それがいけなかった。


「え? 早く行けって? まだあいつ来てないらしいからダメ! まじ内通者いるから! ん? 後ろ? 後ろって何? え、誰かいる?」


 まずい。俺は急いでその場から離れた。配信で俺の顔が映ってしまうなんてたまったものではない。それに早くみんなにこのことを伝えねばならない。断片的にしか情報は得られていないが、ルシファーと名乗る配信者がCHARINを狙っている可能性は高い。


 とにかく皆に伝えて、組織を護らねば。それが売り上げゼロ円の俺が出来る組織への貢献だ。

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