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弐話目  初遭遇 後編

弐話目、まとめれば良かったかなぁとちょと後悔中。

取り敢えず自覚編です。

『何故、この様な場所におるのだ?此処は人の子は入れぬ場所。娘や、娘。お前はなぜ此処におるのかや?』


グッと相手を見据えてニッと笑う。引き攣らない様に、余裕を持っている様に。取引って云うのは初対面が肝心だと思う。相手に舐められない様に空気を自分の物に。


「それに答えてあげても良いですよ。なんならこれだってあげます」

クッキーを一枚掴み上げて云う。パタリと相手のふさふさしていそうな尻尾が右から左へ一度動いた。


『ふむ、娘、お前は何を望む?事によっては聞き入れんでもないぞ』


きた!本当ですか?と笑みを浮かべながら心の中でガッツポーズを決め込んだ。なんだ草叢のオチビさん達だけじゃなくて、この狐さんも食べたかったんだ。可愛いなぁ。と元来もふもふした動物が大好きな私は内心少し妖しい笑みを浮かべた。大丈夫、犯罪者になるつもりは(まだ)ございませんよぉ皆々様!と誰かに揉み手をしながら云い訳を試みる。

まぁそれは置いといて。真剣に狐さんの目を見詰めた。


「実は、私は何者かに此処に連れてこられたようなんです。どうしてなのか、どうやってなのか、此処が何処なのかも解りません。此処が何処なのか、教えてください」

まずは情報収集。此処が何処なのか。解ったら帰れるかもしれない。一応お金ならちょっとだけだけれど持っているのだ。何とかこの山から下りて交通機関を駆使して帰らなければ。下山に時間が掛るかもしれないけれどこの暖かさなら凍死とか云う憂き目にあう事もないだろう――熊とか猪に襲われなければの話だが。


『そうであったか・・・!娘、お前、それは難儀しておったのじゃなあ。良かろう。妾が教えてしんぜよう。此処は人間達が作った都の近くにある霊山、名を惠濃廟謳山(えのびょうおうざん)。』

「えの、びょ・・・・・・って・・・み、都?東京・・・?ってもしかして京都?!」


おいおいおいおいおい!何処まで遠くに来たんだ自分・・・所持金は三千円、に、満たない(これでも今日は持ってる方だ)。こうなったら警察に嘘の被害届出して誘拐をでっちあげるか・・・などと考えていると『トーキョ?キョォト?』と訝しげな声が聞こえた。


『妾は今まで人間の都がそのように呼ばれているのを聞いたことが無いがのぅ』

「へ?」

『人間達は都の事を【宵明けの都】と呼んでいるぞよ?【宵明都(ショウミョウト)】との』

「ショーミョー・・・ト?」


ちょっと待て、なんだその名前。そんな中華な名前聞いたことないぞ。歴史は好きだけど地理は取ってないから☆なんて云って云い訳できるレベルじゃない。流石にそんな名前のところがあったらびっくりする。しかも都ってなんだ。今は県とか府とか道とか・・・都が付くのは東京だけだ。だのにこの狐さんは、そんな所は知らないと云う。

いや待て。落ち着くんだ自分。もしかしたらものすっごい訛ってる人が「~京都」って云ってるのを区切りを間違えて「ショウミョウト」って思いこんだんじゃなかろーか。ミョウトならキョウトと聞き間違えてもそこまで可笑しくない。うん、そうそう!相手は狐だもんね!動物だもん文化(?)が違うもんね!と納得しかけていると『うん?』と狐さんが首を傾げまた尻尾を今度は左から右へとパタリと動かした。


『むむ?おい、娘。――もしやお前、この世界の人間ではないな』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・ぁ?」

『ふむ、やはり色濃く外の世界の匂いを感じる。娘や、お前は外の世界で【印】を渡されておるのだろう。強い【異能】じゃろう・・・それで妾の事も怖がらぬのじゃな。納得したぞ』

「そ、外の、世界?え?街の気配って、事?」

『うん?それもあろうが・・・なんじゃ、此処が自分の世界ではないと知らなかったのか?』


なんて云った?この狐さん。そんなまさか。外の世界って、なんだよ。


嘘、だ。だって、そりゃ悪魔の御陰で【不思議な存在】を見えるし話せるし触れられるようになった。

だけど、別に魔法の力を手に入れたわけでも、すんごい怪力を手に入れたわけでもない。

私は普通に女子高生をしてて、スカートの丈とか、テストの点とか、友達と話したりとか、恋に夢見たりとか、そう云う事に全力出してて。

そりゃ普通じゃない事もあったと思う。だけど、私は、そんな、異世界とか、嘘、だ、よ、視界が歪む。ぐぅにゃりと、揺らめく。

ボロリと目尻から何かが伝って、頬から顎へ、そして顎から伝い落ちた。


嘘だ。


ポツリと一言呟いて私の意識は闇に落ちた。




嘘だ、嘘だ。と幼子の様に涙を流す娘を自分の尾の中に入れる。

幼子たちは心配そうにしながらも地面に落ちた【焦げ茶色の丸いもの】に気を取られてチラチラと見ている。その様子に頬笑み、柔らかく声をかける。


『それを、拾っておあげ。まだ食べてはならないよ。この娘に許可をもらってから、お食べ』


『はーい』と無邪気に返事をした幼子たちを連れて自分たちの住処へと帰る。

自分たちが厄介になっているあの坊主が、この娘を見てどうするか、それは火を見るよりも明らかで。


フゥと溜息を吐き暮れてきた陽を見ながら『しょうのない主じゃて』と呟いた。



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