卒業パーティで婚約破棄してやったら、元婚約者をみんながお祝いした
「レティシア、お前との婚約を破棄する!」
卒業パーティ会場にある壇上に上がると、俺はそう叫んだ。
隣には、守りたくなるような可憐な女の子アリスがいてくれている。
俺を見て、「ルイス様、素敵です」と囁いてくれている。
そして両隣には、騎士団長の息子ロイと、宮廷魔導士長の娘メリーがいる。
みんながいると思うと、俺の勇気は何百倍にも膨れ上がった気がした。
みんなで考え抜いたこの計画で出し抜いてやるのだ。
そう、今日はアリスをいじめた侯爵令嬢レティシアを断罪してやるのだ。
周りも俺の叫びを聞いて静かになった。今俺たちはこのパーティの主役なのだ。
レティシアがこちらに歩いてきているのが見えたので断罪を始めるために口を開こうとすると、
大きな歓声が上がった。
「おめでとうございます!」
「ついに婚約破棄できましたね!」
「本当におめでたいです」
「いつも耐えているレティシア様を見ると不憫で」
そして、パーティ会場の音楽隊も、それに合わせて、演奏している曲を変更した。
これは「旅だちの歌」だ。この国の建国をした最初の王の物語で、暴虐な魔王を打ち倒しに旅立つ時に流れる曲だ。
さらに皆、レティシアに向かって紙吹雪を舞わせている。
レティシアも周りに「ありがとう、ありがとう〜」と笑顔で手を振って歩いている。
というか紙吹雪ってどういうことだ?
あらかじめみんな準備していたということなのか?
というか、たくさん投げすぎて、むしろ俺たちに紙吹雪がかかっているような気もする。
俺がそうやって悩んでいると、いつの間にか近くに来ていたレティシアが満面の笑みを浮かべながら
淑女の礼を取って言った。
「殿下、この度は婚約破棄して頂き、誠にありがとうございました。私、本当に嬉しいです。とっても素敵な卒業パーティの思い出になりました」
あたりを見回すと、周りの人もうんうん、と頷いている。
どういうことなんだ。ここはレティシアがなぜ婚約破棄をとか、捨てないでくださいとかいう場面じゃないのか?
「さて、こちらに婚約破棄の書類を準備してありますので、サインをお願いします」
レティシアがそう言うと、レティシアの執事が書類を取り出して、俺の前に広げた。
「どうされたのですか?どうぞサインを」
俺が混乱して止まっていると、レティシアが催促してきた。
どうすれば良いか分からなくなって、アリスの方を見ると、
「こんなに簡単に婚約破棄が進むなんてラッキーですね」と言って腕を絡ませてきた。
そうだ。俺はレティシアと婚約破棄をして、アリスと婚約したいのだ。
何を迷うことがあるというのだろう。
「もちろん書いてやる!」俺は婚約破棄の書類にサインした。
すると、執事が書類を回収してレティシアに渡すと、レティシアは婚約破棄の書類を頭上に高くあげた。
「ご覧ください。ついに婚約破棄の書類も揃いました」
よく見ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そういえば、レティシアは本当に嬉しい時にはそうやって飛び跳ねていたなあ・・と思い出した。
って、そうじゃない。どういうことなのか確認しないと。
「レティシア、これは一体どういうことなんだ」
「殿下、恐れながらもう私たちは婚約者ではありません。私のことはリストバーグ侯爵令嬢とお呼びください」レティシアはひどく冷たい目で俺を見ている。
「う・・そうだな。俺たちはもう婚約者ではない・・・」
その目に一瞬怯んだ俺だったが、隣にいるアリスのことを思い出した。
そんなことでどうするんだ。俺はアリスと幸せになるために、レティシアと婚約破棄をするのだ!
俺はキリッとした表情を作ると、
「お前がなぜ婚約破棄されたのか教えてやる。お前はこんなに可愛いアリスを陰でいじめていただろう。俺たちの仲に嫉妬し、そのような行動をおこすとは言語道断。レティシアお前を国外追放とする。お前の一族も同罪だ!」レティシアを指差しそう宣言した。
「そうだそうだ。アリスさんに謝れ」
「こんな可愛い子をいじめるなんてひどいのです」ロイとメリーも一緒に叫んでくれた。
しばらく沈黙が続いたが、「ぷっ」という声が聞こえたので、音が聞こえた方に顔を向けると、
さらに音が聞こえた。
「ぶわっははは!」
「もうだめ、我慢できない。ははは」
「苦しい、突然の真面目モードからそれはずるい」
「笑いで息が止まるかと思った」
「お腹痛い、助けて。ワハハ」
なぜか大爆笑が起きていた。どういうことなんだ・・・。
そう思って、レティシアに再び顔を向けると、彼女はため息をつきながら言った。
「殿下、婚約者に贈り物の一つもしない、お茶会も欠席する、婚約者以外の女と人目も憚らずにイチャイチャする、そんな男に嫉妬する気持ちなど起きるものですか。そうでしょ皆様!」
周りからも「そうだそうだ」「殿下サイテー」という声が聞こえてきた。
ぐぬぬ・・・という気持ちでいると、さらにレティシアが言った。
「そもそも私がどうやってアリスさんをいじめるというのです。王妃教育でほとんど学園にも来れていないのに」
俺が驚いた顔が見えたのか、彼女はまたため息をついて言った。
「これで婚約者だったつもりとは本当に呆れますわ。恥というものは殿下の辞書にはないのかしら」
「貴様言わせておけば!」ロイが怒って剣を抜こうとすると、
「あら、ロイさんでしたっけ?未熟すぎますね」
「なん」ロイが返事をしかけた瞬間、レティシアが進み出て、扇子でロイの剣を弾き飛ばすと、ロイを投げ飛ばした。
「あなたが学園対抗の大会で一位だったのは、実力ではないのですよ。殿下の側に仕えるからとみんなが手心を加えていただけです」
「そしてあなたも」レティシアは、魔法を詠唱しようとしているメリーの方を向くと
指をパチンと鳴らした。それだけで、メリーの魔法はかき消えてしまった。
「え・・・どうして・・・」
「あなたが魔法一位だったのも同様です。周りが遠慮していただけで、実力的には全然です。私が強いわけではないのです。あなたたちが弱すぎるのです。恥を知りなさい」冷たい目で俺たちを見るレティシア。
少し怯んでしまった俺だが、気持ちを奮い立たせて言った。
「レティシア、言わせておけば!次期国王である俺の側仕えに対してその暴言許さぬぞ」
レティシアは目を見開くと、笑い出した。
「ふふふ、まだご自分の立ち位置をお分かりになっていないのですね。殿下が王太子だったのは、侯爵令嬢であるこの私と婚約していたからなのです。殿下有責での婚約破棄がされた今、殿下はもはや王太子ではありません」
「なんだと!」思わず怒りの声が出た
「いや、その通りだ」威厳のある声がしたので見ると、父上である国王が入ってきた。
「どういうことですか、父上」
「公式の場では陛下と呼べと伝えたはずだ。お前の母は男爵の娘だったので、実家が後ろ盾になることは無理だったのだ。そこで、侯爵家と相談して、侯爵令嬢のレティシアと婚約することで後ろ盾になってもらい、お前を王太子としたのだ」とても寂しそうな声に聞こえた
「そんな・・・」
「まあ、今回の話でお前が王族としてもダメなことがわかったがのう。無実の罪で侯爵令嬢を断罪するだけでなく、国外追放や一族に対する罰を宣言するなど、お前は国王にでもなったつもりか!国を分断するつもりか!」杖を振り上げて、俺を殴りつけながら父上が言った。
「ですが、アリスがいじめられたと言ったのです」
「バカモノ!そんな言葉だけで証跡はとったのか?ないであろう?お前たちは影のものに見張らせていたがそんな報告はないからのう」
「えっ・・」と思いアリスを見ると、青ざめた顔をしていた。
「嘘だったのかアリス」
「ごめんなさい。レティシア様がいなくなれば次期王妃になれると思って・・・」
観念して涙を流すアリス。
「そんな、それでは・・・」周りを見ると皆が俺たちを冷ややかな目で見ていた。
「そうだ!レティシア、やっぱり婚約破棄はやめよう。俺は本当はレティシアのことが好きだったんだよ」
レティシアの方に近づこうとするが、後ろから誰かに飛びかかられて地面に押さえ込まれてしまった。
横を見ると、ロイ、メリー、アリスも同様に押さえ込まれていた。
「見苦しいわ!国を乱そうとしておいて、間違えたとわかると元婚約者に縋り付くとは情けない。もう決めた。お前たちは彼女を国外追放と言っておったのう。それならお前たちを国外追放の処分とする」
父上はそういうと踵を返して去って行ってしまった。
「お待ちください。父上、父上!!」何度叫んでも父上は振り返ることすらしなかった。
バチッ!
顔に何かぶつけられた衝撃があったので、目を向けると昔彼女にプレゼントした指輪があった。
「こんなものいりませんわ。国外追放になる殿下にせめてもの餞ですわ」
どうやらレティシアが投げたということのようだった。
=====
そうして、俺たちは馬車に揺られて国境線まで移動をした。
逃げられないように、護衛という名の監視隊で囲まれたまま。
「なんで嘘なんてついたんだ、そのせいで俺たちは」
「そんなこと言っても仕方ないじゃない。ルイス様だってノリノリだったじゃない」
「お前は!」
そんな感じで道中も喧嘩をし続けながらだった。
「おい、降りろ!」国境に近づくと馬車から無理やり降ろされた。
「ふん、せいぜい頑張るんだな」護衛だった騎士たちも俺たちを嘲笑うと去って行ってしまった。
「ふう・・・、これからどうしたものかな」
と思って、座っていると、後ろから気配を感じたので振り向くとツノを生やした青白い人間が立っていた。
「ふん、くだらないガキどもの監視でこのアクセル様の貴重な時間を浪費したわ。偵察部隊はもうお前たちではなくお前の元婚約者と第二王子を監視することになった。というわけでお前たちは何の価値もないが念の為消えろ」
そう言って、青白い人間、魔族は手にこちらに突き出すと、何か黒い刃がこちらに飛んできた。
そして、首が飛んだ。
「なん・・だと」
「ふむふむ、首だけになっても魔族は話ができるのですね。勉強になります」とマリー
「連絡されたら面倒だ止めを刺すぞ」と言って頭をかち割るロイ
周りには、実力を100分の1に抑える封印具の腕輪が落ちている。
「どうやら君たちを出し抜けたようだね。まあ、もう聞こえないだろうけど」
言葉では軽く言っているが、本当に大変だったのだ。どこもかしこも魔王軍のスパイだらけで。
本当に好きな人がバレないように何度も心の中でアリスを愛していると繰り返したし、馬鹿な考えが顔に出るように心の中でつぶやいた。
「でもよー。ここまでやらなくても良かったんじゃね」ロイが首を傾げている
「いや、そんなことはなかった。学園でも常に魔族特有の魔力を感じていた」
「そのせいで、私淫乱女扱いですよ。魔王を倒して旅が終わったら良い人紹介してくださいね」とアリス
「ははは、すまない。でも実際には手を出していないから身体は綺麗だろ?」
「そうですけど、欺くためとはいえ、いちゃいちゃした感じの声を出すのは本当に最悪だったんですよ」
「ごめんごめん」
「さてと、それではそろそろ計画通り魔王を倒しに行こう」レティシアから投げられた指輪をかざすと、王国の倉庫に厳重に保管されている聖武具が召喚された。
「この指輪が召喚の鍵となるアイテムなんて不思議ですね。解体して良いですか?」と興味津々の目でメリーが見てくる。
「ダメに決まっている」
「えーけちー」
「さて、そろそろ出発しよう。魔王軍が気づく前にね」
「おう」「はい」「わかりました」
そうして、俺たち、勇者である聖剣の使い手ルイス、聖斧の使い手戦士ロイ、聖杖の使い手魔法使いメリー、聖本の使い手僧侶アリスのパーティは
魔王軍を出し抜き魔王を倒したのだった。
ちなみに、レティシアも共犯者だ。あまりにもノリノリで、勇者の旅だちの曲や花吹雪までやったので、バレないかヒヤヒヤした。
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「またその紙を見ているの?」
愛する妻レティシアに近付くと、彼女は昔作成した婚約破棄の紙を読んでいた
「そうね。だって、ルイス様からの大切な愛の言葉ですもの」
そう、婚約破棄の紙には小さく監視者にバレないくらいの大きさで
「魔王を倒して帰ったら結婚しよう。愛してる」と記載しておいたのだった。