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第一話

「ここが受付であってますか?」


 銀髪の少女は、そう言って、その時、受付にいた若い男に話しかける。男は朗らかな笑みを浮かべながら、小さい子に話しかけるようなトーンで少女に応対する。


「ああそうだけど、お嬢ちゃん、何の用だい?」


 少女の返答は男の予想を裏切るものであった。


「ここの傭兵になりに来たの。ここで申請すればいいってばっちゃに聞いたから」


 男はその少女の返答を聞いて、目が点になる。なぜなら、少女は明らかに子どもであったからだ。


 銀髪の少女の身長は辛うじて、受付のカウンターに顔を出せるぐらいのものであった。体は明らかに小さく、腕も細く剣や槍、なんでもいいがまともに武器をふるえるとは思えないものであった。


「お嬢ちゃん、年齢は?」


 少女は「えっとね」とつぶやくと、思案する様子を見せる。少女は自分の年齢を数えていた。


「13?」


 少女は疑問形で答える。男はそれを聞いた瞬間、少女を諭すような声色で、少女に話す。


「その若さでうちの傭兵は無理だよ。早くおうちに帰りな」

「嫌」


 少女は即座に言い切る。男はその後も、少女を家に帰そうとするが、少女はすぐさま否定の返事をする。


「年齢制限はないはず。実力さえあればいいって、ばっちゃ言ってた」

「規約的にはそうだけど、いくらなんでも」

「私強いよ」


 少女の強気な折れない様子に、受付の男が困り果てていると、男の後ろから壮年の赤髮の男性が話しかけてくる。


「どうした?ユルト」

「ギルド長、あのですね」


 ユルトと呼ばれた受付の男はギルド長である壮年の赤髪の男性に少女のことについて説明する。


「なるほどね、お嬢ちゃん、本気かい?」

「本気」


 朗らかな様子を見せるギルド長に、少女はまっすぐ見据えて答える。ギルド長はふうと息を軽く吐くと、先ほどとは打って変わった雰囲気を出す。それは少女を威圧するものであった。


「本気でうちに所属する気か?」

「うん」


 少女はものおじした様子を見せずにギルド長の問いに答える。しばらく、二人は見つめあう。


「ユルト、嬢ちゃんを裏の訓練場の一部場所を確保してきてくれ」

「待ってください、何するつもりです?!」

「嬢ちゃんの力量を計る」


 ギルド長はユルトの驚愕した様子を意に介さず、あっけらかんとした様子で言った。


「本気でこの子をいれる気ですか?」

「力量次第でな」

 

 ユルトが渋った様子を見せていたために、ギルド長は続ける。


「お嬢ちゃんの目は本気だ。それに俺の威圧を全く意に介さない。面白いじゃねえか」


 ユルトはギルド長の悪いところが出ていると内心あきれる。そして、このときに何を言っても無駄なことを思い出す。


「わかりました。行ってきます」


 ユルトはそれだけ言うと、その場を去り、裏の訓練場へと向かう。


「さて、お嬢ちゃん。力見せてもらうぜ」

「そこで、力を見せれば所属させてくれるってことでいいんだよね」

「ああそうだぜ。だが、こっちにもメンツとかしがらみがある。厳しい試験をさせてもらうぞ」


 ギルド長は脅すように、煽るように言った。少女は笑顔で言い放つ。


「問題ないよ。私はすごく強いから」


 ギルド長は笑う。ギルド長は久々に出会ったのだ。ここまで自信満々のやつを。そして、この少女はおそらく本当に強いと感じる。ここまでの自信を見せていること、そして、ユルトは感じ取っていないが、ギルド長は感じ取っていたのだ。


 少女の強者といえるほどの雰囲気、オーラのようなものを。


「ギルド長、準備整いました」


 ユルトの声が聞こえてくる。ギルド長は少女に「ついてこい」と告げ、共に訓練場に向かう。


 訓練場につくと、訓練場にいた人物はギルド長と少女の二人に注目する。訓練場を使用して、新人志望の力量を把握することをギルド長直々に行うと言われたので、それが誰かみんな気になったのであった。


 ギルド長が直々に力量をチェックするのはここ数年なかったことであったのだ。だから誰もが注目していた。そして、その相手らしき人物が子どもであることにみな驚きを隠せずにいた。


「さてと、嬢ちゃん、試験は簡単だ」


 ギルド長はそう言うと、近くにあった訓練用の木で作られた武器が並んでいるところから一本の剣をとる。


「俺に勝て」


 ギルド長のその発言に訓練場にいる人間のほとんどがどよめき始める。ギルド長の実力はここにいる人物ならだれもが知っていた。現役をほぼ引退し、仕事の斡旋と取りまとめ役を行っているが、その実力は折り紙つき。今この場にいる人物の中でほぼ最強なのだ。


「武器はそこのを使え、魔法も使っていいぞ。ただし、周りに死人がでないようにな」

「わかった」


 少女はそう言うと、腰に指してあった二本の剣を外す。そして、きょろきょろと辺りを見渡し、ユルトに「預かってて、ばっちゃがくれた大事なものなの」と言って渡す。ユルトは驚きながらも「いいけど」と言って受け取る。その時、ユルトは思いのほか重量があったので、若干驚愕する。


 少女はそのまま、近くにあった木の剣を右手で一本、左手で一本持つ。


「二刀流か」


 ギルド長はぼそりとつぶやく。そして、珍しいな、と思う。魔法を使う剣士の多くは、片手で剣を持ち、空いた手で魔法を使う。それが一番戦いやすいのだ。魔法がほとんど使えないのなら、両手で剣を持つ。そのほうが相手よりも力で押しやすいからだ。なおさら、少女であれば、両手で持つと思ったのだ。


 ギルド長はしっかりとこの武器選びでも、少女を分析していた。


 少女はギルド長と少し離れた場所に立つ。ギルド長は構える。


「こっちの準備はOKだ。いつでもこい」

「わかった。で、もう一回言っておくよ。私はすごく強いから。油断しないでね」


 少女はそう言いきると、周りに再度どよめきが走る。ギルド長は「わかってるぜ」と返す。そのギルド長の返答を聞いた瞬間、少女の右目の色が変わる。

 少女の両目はエメラルドのような緑色の瞳であった。その片方、右目の色が変わった。青い、サファイアのような瞳に。


 ギルド長は少し驚きを覚えた。なぜなら、彼女が魔眼持ちであるとわかったからだ。


『魔眼』それは一部の選ばれた人間が持つ力、先天性のものも後天性のものもあり、千差万別の能力を持つもの。そして、魔眼持ちのほとんどは魔眼持ちでしか対抗できないほど、強いのであった。


「行くよ」


 少女のその一言とともに、少女の姿はその場から消え失せる。誰もが魔眼持ちで驚いていた中、さらに驚く。その少女の速さに。


 少女の体はもうギルド長の目の前にあり、その剣はもう振られていたのだった。ギルド長は少し油断したことに若干の後悔をしながら、少女の攻撃に反応する。右手の剣を体の動きでよけ、追撃に左手の剣を剣ではじく。


 少女ははじかれた反動を使い、体を回し、追撃を再開する。ギルド長はその追撃に反応する。


 そして、そのまま二人は斬り合いを続ける。


 スピードは少女のほうが上で、パワーはギルド長のほうが上であった。そして、その斬り合いはほぼ互角であった。


 訓練場にいた人物全員が二人の戦いを固唾を飲んで見守る。誰もがここまでの戦いになるとは思っていなかった。


 ギルド長は剣がぶつかる瞬間に、風魔法で力を強める。少女は吹き飛ばされた。ギルド長は吹き飛んだ少女に向けて、炎魔法を飛ばす。


 少女は空中で態勢を整え、空中で体を曲げて、その炎魔法を回避する。その次の瞬間、ギルド長の剣が少女の目の前に迫る。


 ギルド長は一気に少女に向けて剣を振り下ろす。少女は剣を交差させ、それを防ごうとする。だが、空中であったこともあり、そのまま地面に叩き落とされる。土煙があがる。


 ギルド長の勝ちだと誰もが思う中、土煙が晴れた瞬間、その場にいた全員が驚愕した。


 少女が剣先をギルド長の首元に突きつけていた。しかも、少女にほとんど傷はない。


「俺の負けだ」


 ギルド長はそう言いながら剣を手放す。しばしの静寂の後、訓練場にいた者たちが声を上げる。驚愕の声、歓喜の声をあげるものといろいろであった。


「これで私合格ってこと?」

「そういうことだ、お嬢ちゃん」


 少女はよしと言って、「やったよ、ばっちゃ」と年相応の笑顔を見せる。先ほどまでの戦いの最中はまるで機械のような全く感情のない表情であったのに。また、少女の目の色は元に戻っていた。


「そういや聞いてなかったな、お嬢ちゃん、名前は?」


 ギルド長の問いに少女は答える。ギルド長のほうをまっすぐみながら。


「ルナ。ルナ・アーファイル」


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