スゥー ハァー
『どうしてもだめ?』
『だめ?』
「だめ」
キュルルンとした目で見つめられても駄目ですっ!無理ですっ!ベッドが狭くなるのよ!
只今2匹のモフモフと絶賛攻防中・・・。
1日だけって約束したよね?
毎夜来たいとか、駄目だから無理だから!
お願いするときだけモフモフになってキュルルンて眼しないで!
うん、いいよ。とか言いそうになるからやめてぇー!
「そもそも・・・ナディもそろそろ牧場で寝てもいいんじゃないかな?」
『ロゼ 一緒いい。 駄目? 嫌い?』
って、真っ白フワフワのトビネズミになってるんじゃないわよっ!
そうか、牧場で見たあのトビネズミはナディだったか・・・。
チクショー可愛いじゃないか! でも駄目!
「いい? 皆が此処で寝ると3兄弟やバルド夫妻までが来ちゃうでしょ?
ベッドで皆が寝るのは無理よね?
そうすると床に特設ベッドを作るために侍女さんのお仕事が増えて大変でしょ?」
『でも皆楽しそうだったよ?』
『よ?』
『ね?』
「うん、そうだね。楽しそう・・・ってそうじゃない。
君達は精霊なんだよね? 今までは皆自然の中で暮らしてたんだよね?
だったら人間と適度な距離感を持って生活した方がいいんじゃないかな?
お互いに過度の干渉はしない方がいいと思うのよね?」
『ロゼ人間?』
『ロゼ特別』
『ロゼ 好き 』
「人間だよ! 特別かどうかはわかんないけど!
そして好きと言われるのは嬉しいけどそれはそれで別の話に成るよね?!」
うーん・・・。懐いてくれるのはありがたいし嬉しい。
けどね、向こうの世界でもそうだったけど共存するなら適度な距離感は必要だと思う。
そして・・・のんびりゆっくりベッドで眠りたい・・・。一人で眠りたいのよ・・・。
どう言えば納得してくれるかな、この3匹・・・。
ぶっちゃけて言う方がいいのかなぁ。
よし、そうしよう。
「正直に言おう。
私は1人でゆっくりベッドで眠りたぁーーーいっ!」
『『『 ・・・ 』』』
なにその ガーン みたいな顔は!!
あ、なんか目がウルウルし始めた・・・。
その眼でじっと見ないで、見つめないでー!
私が悪いみたいじゃん・・・。
ゴンッ ゴンッ ベシッ
ウルウル3匹の後ろに美形のお兄さんが立っていた。
『お前達、いい加減にしなさい。甘えすぎですよ。
さあ帰りますよ。ナディも一旦こっちに来なさい。
ちょっとお話をしましょうか?』
ニコニコ笑ってはいるけど、こめかみに青筋が見えているような?・・・
見なかった事にしよう。私は見なかった、見えていない、いなかった。よし。
お兄さんは3匹の首根っこをヒョイと掴み
『ロゼには後程説明いたしますね?』
と言い残し消えていった。
消えて・・・って事は彼も精霊なんだろうなぁ。
ふぅと溜息を付きながら窓の外を見る。
今日は雨だからこのままゆっくり部屋でゴロゴロしていようかな。
なんか疲れたし。精神的に。
こんなときはお香があればいいんだけどなぁ。
お香・・・お香? お香は無いけどサンダルウッドの木片があるじゃん!!
あの日持って帰って来た木片はもう少し乾燥させるために、布に包んで置いてある。
それを持って来て
すぅー はぁー すぅー はぁー
あぁーー、これよこれ。この香り!癒されるー。幸せぇー。
すぅー はぁー すぅ・・・ぅ?
いつの間にかルシェとラファがやって来たらしくジッと見つめられていた。
『それは何かの儀式かな?』
「ちがっ・・・。って ノックくらいしなさいよぉ!」
『したよ?』
「へっ・・・」
『ノックもしたし、声も掛けた・・・。』
『でも返事が無いから具合が悪いのかと思ったんだ。』
『で、覗いて見ったら・・・なんか儀式やってるから・・・。』
儀式・・・。
布にくるまれた木片を抱えて すぅーはぁー・・・。
儀式っていうか不審者?・・・
なんかアブナイクスリでもやってるのかって感じに見えるわよね・・・。
あー・・・失敗した。
「えーっとね。
儀式とかじゃなくて、ちょっと香りを楽しんでいただけなのよ。」
『『 香り? 』』
「うんうん、香り。
これね、サンダルウッド、白檀とも言うんだけどね。
乾燥させた木片は香木と言われて、とてもよい香りがするのね。
勿論人其々好みがあるから、好き嫌いは別れるんだけど。
私はこの香りが好きだから、ちょっとすぅーはぁーして癒されてたのよ。」
『『 すぅーはぁー?? 』』
私の語彙力の無さ・・・。
だって人に説明とかする事なんて無かったからさ・・・。
お香とかアロマとかで通じてたし・・・。
説明って・・・難しい・・・。
『確かに、なんだろう。不思議な匂いがする。』
『うん、なんだろうね。優しい匂い?』
と、2人してスゥーハァーやり始めた。
2人共 この香りは嫌いじゃなかったらしい、よかった。
『他の香りのもあるのか?』スゥー ハァー
『ありそうだよね。』 スゥー ハァー
「あるよ。ハーブとか草花で作れるのもあるし、これみたいな木片のもあるし。
樹液や樹脂が固まった物からも作れたりもするし。」
『作る?』スゥー
「精製してオイルやエッセンスにしたり加工してお香とか小物とかにも出来るんだよ。
こっちで例えるなら 香水に近いかな。もっと柔らかい香りになるけど。
あ。ほら。皆が飲んでるお茶にもハーブを使ってるのがあるよ?」
『そうなの?!』ハァー
「うんうん、薬ほどじゃないけど薬効があったりもするよぉ。」
『ロゼは詳しいんだな。薬師だったのか?』スゥー ハァー
「違うよ。むこうだと薬師はすーっごく頭がいい人がなってて。
クスリも素材もすごく種類が多くて大変なのよ。
私は趣味で香りを楽しんだりしてただけだよ。」
だから詳しい事も難しい事もわからない、と強調しておいた。
あくまでも趣味であって、産業革命をーとか薬の開発をーとか思ってないからね。
面倒だし・・・。面倒だったし・・・。
うん、すでに1つ経験済みだったりするのよ・・・。
この世界では 塩は塩 ハーブはハーブと分けて使われていたから
肉用のハーブソルトと魚用のハーブソルトを作ってみたら・・・
すっごく喜ばれちゃってね?
分量は?割合は?とか聞かれたけど、目分量なのよ・・・。
説明が出来なかったのよ・・・。
だから味を見ながら頑張って自分好みを探してみて?としか言えなかった・・・。
使うハーブにしても好みで色々試してみればいいと思うし。
それぞれが家庭の味を見つけ出せばいいんじゃないかなと思ったのよね。
そしたら・・・
屋敷内だけじゃなく、牧場にも伝わってそこから他の住人にも伝わって・・・
そのうち国中に広がる勢いらしい・・・。
そんなつもりじゃなかったんだけどな。
お手軽に、簡単に、料理の手間を減らせるように。
手軽で美味しく時短料理を! はい、めんどくさがりのズボラ発想です・・・。
だってハーブソルトを上手く使いこなせれば料理がワンランクアップするんだもの・・・。
口止めするのも変だし、極秘アイテムって物でもないし・・・。
だから何か作るとか試すのは気を付けてやろうと思ったのよね。
なんてことを思って居たらそのまま寝ていたらしい。
起きた時は夕方になっていてバルドさんやアルテイシアさん、ハイデアまでもが横で寝ていたのには驚いた。
皆ソファにもたれかって寝ていたから体がバキバキになっていた。
「あー、お風呂に入浴剤入れてはいりたーい。」
『『『『『 入浴剤ってなに? 』』』』』
しまった・・・。
皆の視線が一斉にこっちに向いた・・・。
この世界には入浴剤がない・・・。
花とか果実を浮かべて入浴を楽しむ事も無い・・・。
さっき、気を付けようって思ったばっかりじゃないよ私ーーー。
なにポロッと言ってくれちゃうのよ私ーーー。
凄く期待されてる気がする。
皆の眼からキラキラビームが発射されてる気がする・・・。
これは誤魔化しきれない気がするよね・・・・。
はぁ・・・諦めよう。
「えーっと。まず素材集めからなので今日は無理よ?・・・」
『『『 ええー・・・・ 』』』
『無理なの?・・・』
「うん、無理。それに入浴剤の説明も要るよね?・・・」
『うんうん』
「だから今日は無理・・・」
しょぼーん
ショボーンとされても無理だから。
はいはい、諦めて素直にお風呂に入りましょうねぇー。




