ラファとクレハ
ででんっ!
なにこの量・・・。学校給食ですか 炊き出しですか?
何かのイベントですかね?と言いたくなるような大鍋がおかれている。
そりゃ確かに鍋とは言ったけどね?・・・
こっちの鍋ってのはこんな感じなのかな?・・・
こんな事なら詳細に説明すればよかったかも・・・。
まぁ後悔しても今更よね。うん、これはこれで美味しそうではあるけどもっ。
『ほら嬢ちゃん。遠慮しないでたらふく食ってくれ!』
そう言って丼茶碗によそってくれるトマスさん。
食べきれるかな・・・、ははは
『ロゼこれ凄く美味しいよ!』
流石男の子、ガツガツと食べている。
私も頑張って食べよう。 せめて1杯くらいは完食しないとね。
パクッ もぐもぐ。
うん。やっぱり美味しい。このプルンプルンの身も最高!
味付けもほんのり醤油の風味が利いてていいね。
ちゃっかりクレハも人に紛れて食べてるし。
『おかわりはいいのか?』
フルフルと首を振る。
もぉ無理です。せっかく大量に作ってくれたけど入りませんっ!
正直首を振るのもキツイですー!
私は1杯が限界だった。刺身もあったしね?
ラファとクレハは3倍も食べてた。凄いな・・・。
食べ過ぎたと唸っていたらちかくにいたおばちゃんがコッソリ胃薬をくれた。
ありがとうおばちゃん。凄く嬉しいかも。
宿に戻って胃薬を飲む。
このままベットに潜り込みたい気持ちもあったけど、今寝たら胃もたれ確定しそう。
『美味しかったから食べ過ぎちゃったね。』
『んむ。』
クレハもウンウンと頷いている。
2人はお茶を飲んでいるけど私はもうお茶すら入らないよ・・・。
『ところでさ、ロゼは兄上と結婚するの?』
ブハッ
唐突ですね?
「まだ決まっても無いし、そういう話は出てないよ?」
『そうなの? でも父上と母上はそのつもりみたいだよ?』
「えぇぇ?!
いやいや、だってさぁ。
お互い好きって気持ちはあるけどさ、それが愛なのかは解らないのよ。」
『うん、兄上もそう言ってた。 経験した事が無いから解らないんだって。』
「うんうん。」
『でもロゼはこっちに来るまでは28だったんだよね?
だったらそういう経験もあったんじゃないの?』
「う・・・」
ラファ・・・なんでそこに気付いちゃったかな。
確かにお付き合いした人は居たけども・・・。
愛してたかと言われると・・・・はて?どうだったんだろう。
思い出せないんだよね? 相手の顔とかどこにデートで行ったとか。
漠然とお付き合いした人がいたとしか覚えてないんだよぉ・・・。
名前も相変わらず思い出せないんだよね。家族が居たって事も覚えているのにさ、家族の名前は思い出せないんだよね。
だからなんかモヤモヤしてるんだよねぇ、ずっと。
まぁ今のところ支障がないから深くは考えないようにしてるけど。
「それがさ、付き合ってた人はいた。でも名前も顔もなーんにも思い出せないんだよね。
だからその人を愛してたのかと言われてもまったく解らないのよね・・・。」
『居たって事だけ覚えてて何も思い出せないの?・・・』
「うん・・・。」
『そっか、それじゃあ解らないよね・・・。』
「だから冬の間の3ヵ月一緒に過ごしてみて
お互いに自分の気持ちが何なのかを確かめようって事になったのよ。」
『そうか・・・。
じゃあさ、もしもさ。もしも兄上との気持ちが愛じゃなかったらさ。
次は僕との気持ち確かめてみてよ。』
ゴンッ
持たれていたソファのひじ掛けに額をぶつけた。
「ラファ?」
『兄上への気持ちが愛だったら僕はちゃんと祝福して見守るからさ。』
ラファ、本当に12歳? 凄く大人びた考え方してない?
「ラファ、ラファはまだ若いからこれから色々な人と出会ってさ
気になる女の子と出会うかもしれないよ?」
『でも出会わないかもしれない。ロゼ以上に好きになれる子は居ないと思う。』
「わかんなじゃん。」
『うん、先の事は解らない。でも今僕が好きなのはロゼだ。
解らない先の事を考えて今の自分の気持ちを隠すことはしたくないんだ。』
ああ、これ私より精神年齢高いかもしれない。ラファの方が大人だ。
しっかりと自分の意見持ってる。
だったら私もちゃんと向き合わないと駄目だよね。
「ラファの事は好きだよ。
でもね、ルシェと同じでそれが愛と呼べる物なのかは解らない。
異性として好きなのか、弟として好きなだけなのか
それとも友として好きなだけなのか。
ごめんね。」
『謝らないで。それだと振られたみたいだよ。
さっきも言ったように、兄上の事を愛してるならそれでもいい。
でもそうじゃなかったら僕にもチャンスが欲しい。
それでも駄目だったら・・・弟として愛してくれたら・・・
それでいい・・・。』
この子は このセリフを言うのにどれだけ頑張って考えたんだろう。
きっとルシェだって自問自答しながら考えて
冬の同棲期間を言い出したんだろうな。
「ラファ、ありがとう。
私ね。1つだけ今でも自信もって言える事がある。
バルドさんもアルテシアさんもハイデルもルシェもラファも精霊の皆も。
家族としては大好きで愛してるよ!
ただ、そこから1歩先、異性として愛してるかとなるとまだ解らないからさ。
もう少し時間が欲しいかな。」
『うん。家族としては愛してくれてるならそれでいい、今はね。』
微笑むラファの眼はちょっとウルウルしている。
ごめんね、自分の気持ちがハッキリわからなくて。
ずるい大人だよね私。 今の関係が心地よくて考えないようにしてたのかもね。
ちゃんと自分と向き合ってみるから。
どんな答えが出るのか解らないけど。
でもそうなると ラファは1週間なのにルシェだけ3ヵ月なのは駄目じゃないかな?
冬が終わってみて、まだはっきりできなかったら提案してみようかな。
そんな事を思う時点で私はずるいと思う。
結局はどちらかを選ぶなんてできないんじゃないかと・・・。
『2人共婿にしてしまえばよいではないか。』
ゴフッ・・・
いやいや、貴族や王族じゃないんだから一夫一婦制でしょ普通に。
『ロゼは普通か?』
普通でしょ?!
『普通は異世界へ越境はせんと思うぞ。』
それは私のせいではないし?
『普通は大樹を盆栽に変えぬぞ?』
う・・・それは・・・私にも謎。
『普通は精霊に好かれはしても愛されぬぞ?』
ぶっ・・・精霊に愛されてるの?私。実感ないんだけど?
『ロゼは恋愛音痴か?』
ぶふっ・・・
『精霊王や私から愛されておろう。』
えぇ?! そうなの?
『何故頻繁に傍に居ると思うのだ・・・』
そう言われればそうよね?・・・
『だから恋愛音痴だと言うのだ。』
反論が出来ない・・・。
いやでもちゃんと言葉で伝えないと解らないよね?
『行動では示しておる。あれでは足りぬか?』
確かにスキンシップは多かった気がする・・・。
そう言えばルシェもラファもスキンシップは多いいから気にしなかったけど・・・。
なるほど? あれも愛情表現??
おぉぅ・・・。
『ロゼ? なんか顔赤いけど大丈夫? 熱でも出たの?』
「だ・・・大丈夫。ちょっと先に寝るね・・・。」ハハハ・・・
『なんだ、今更照れておるのか?』
クエハ、クレハ。なんでクレハまでベットに入って来るのよ。
え?ずるい? ちょ。ラファまで入ってこないで・・・。
あぁぁ・・・またこれ疲れ取れないパターンだ・・・。
『なんだ、まだ悩んでおるのか。どちらも好きならどちらも婿にすればよいだけだろう。』
だから、普通は一夫一婦制なんだってば。
『だからロセは普通かと言っておる。』
普通だよ、たぶん。 普通よね? あれ?違うのかな?・・・
『普通ではなかろう。
そもそも結婚と言う概念が精霊にはないからな。
愛する者と行動を共にし時間を共有する。
なので人間の婿が2人増えたところで我らの愛は変らんぞ?』
『なるほどそうか。どっちかじゃなく両方を選ぶのでもいいのか。』
ゴフッ
なるほどじゃないよラファ。そこは納得しないで。
いやラファは王族になるから一夫多妻でもいいのかもしれないけど。
ん?・・・ラファ? クレハの声が聞こえてるの?
『加護を授けたからな。私の声だけラファには届くようになっておる。』
いつの間に?!
『今だな。』
今?! 何故今?!
ニヤリと笑うだけで答えてくれないクレハだった・・・。




